おやつの森
春の温かな日差しが降り注ぐ週末。
ルルとミア、そしてクラリスとレオン、それにエミリアとセドリックの六人は、王都にできたクレープ屋「おやつの森」へ向かっていた。
初めてのお店に行けるとあって、昨日から楽しみでワクワクが止まらない。
いろんな種類のクレープがある人気店なのだとレオンが教えてくれたため、メニューも見ていないのに何を食べようかと、すでに迷うほどだった。
「朝早い時間の約束でごめんね。お昼ごろになると店が混むから、楽しめないと思ってさ」
「いいえ、早いと言っても十時ですもの、全然平気ですわ。みんな普段から早起きですものね」
レオンとクラリスの会話に、ルルとミアは「うん」と頷くのみ。今日はできるだけ空気でいようと、二人は相談し合っていた。今はまだクラリスの婚約者という立場ではないレオンだけど、クラリスの家族は賛成のようだし、クラリス本人の様子を見ていれば、レオンのことを憎からず思っているのは分かる。
ならば友人としてクラリスの力になろう。
クラリスの恋を応援しよう。
ルルとミアはそう決めていた。
それになにより、元婚約者のルシアン・エヴァンスよりもレオンの方が何百倍も素敵だし、思いやりがある。
今日のことだって、デートというよりも友達同士のお出かけだと受け取られるように動いているところも、さすがレオンだと思う。
気遣いができて、竜騎士の卵で、その上ハンサムで背も高くて完璧なレオン。
上品なお嬢様であるクラリスの相手にはぴったりだと、ルルもミアも納得していた。
(エド、ごめんね。クラリスにはレオンみたいな人が合うと思うんだ……)
ルルは心の中で、弟分であり幼馴染でもあるエドに謝る。
エドの恋心はまだ淡いもの。本気のレオンとは比べ物にならない。
レオンはすでに結婚を考えてクラリスを口説いているのだ。もじもじしてダンスにも誘えないエドには、勝ち目のない戦いだった。
ルルは目を瞑り、エドの幸せを願う。
(そのうち、お姉ちゃんがエドに似合う可愛い女の子を紹介してあげるからね……)
エドにとって迷惑でしかないルルの勘違いは、もうしばらく続くようだった。
「エミリア、どのクレープが良い?」
「うーん、どうしよう。ダブルベリーも美味しそうだけど、チョコバナナも気になるわ。それに生クリームとカスタードクリームもあるし、アイスも乗せるかどうか悩んじゃうの。セドリックは何にするか決めた?」
「ううん、僕の食べたいクレープはエミリアが食べたいクレープと同じなんだよ。あ、そうだ、僕がチョコバナナにするから、エミリアがダブルベリーにすればいいよ。クリームもカスタードと生クリームの二種類乗せにして、ついでにアイスも乗せちゃおっか」
「ええ、でも、そんなに乗せて食べられるかしら?」
「大丈夫、君が残したら僕が食べてあげるから」
「でも太っちゃうかもしれないし……」
「エミリアは細すぎるぐらいなんだから、太ったって全然かまわないよ。それに僕はどんなエミリアだって素敵だと思うよ。君以上に可愛い子に僕は今まで会ったことがないしね」
「もう、セドリックったら」
「「……」」
ルルとミアの目の前で、セドリックとエミリアが仲良くクレープを選んでいる。
この二人が婚約者同士であり、仲が良いことは知っているけれど、独り身の前でイチャイチャするのはやめてほしい。
それに、一緒にシュガーベルに通う身としては「エミリア先輩なら二個は軽く行けますよ」と突っ込みたくなってしまう。もちろん、命が惜しいのでそんなことは言わないが、苦笑いを誤魔化すのには苦労する。
どうやらエミリアのようにしっかりしている女の子でも、大好きな彼氏の前では可愛い女の子になってしまうようだ。
目の前の甘い光景ですでに胸がいっぱいになり、楽しみにしていたクレープが食べられなくなるかもと心配になっていると、後ろからはレオンとクラリスの会話が聞こえてきた。
「クラリスは何にするか決めた?」
「え? ええ……アップルシナモンカスタードにしようと思っているけれど、お勧めは苺クリームみたいだから少し悩んでいるわ」
「じゃあ、俺と半分こしようか」
「えっ?」
「ん、嫌?」
「べ、別に嫌ではないですけど……」
「じゃあ、お互い一口だけ交換っていうのはどうかな? それなら気にならないでしょう? クラリスが両方先に食べればいいし」
「……ふ、普通に半分こで構わないわ」
「そう? なら良かった、俺もその方が嬉しいしね」
「「……」」
後ろでも甘いいちゃつきが始まり、ルルとミアの心は「無」の境地へと至る。
自分たちの食べたいクレープにだけ集中し、他は気にしない。二人はそんな気高き境地へと足を踏み入れていた。
「ミアは何にする?」
「んー、やっぱり苺クリームかな。お勧めって書いてあるし」
「うん、分かる。苺クリーム気になるよね。でも私はダブルベリーにしようかな。ブルーベリーも大好きだし」
「うん、ダブルベリーも美味しそうだよね。アイスは乗せる?」
「もちろん、クリームだってダブルクリームにしちゃうんだからね」
「私もー」
決して恋人がいないためのやけ食いではない。
ルルたちはシュガーベルに行ったときだって、これぐらいはぺろりと平らげる。
今日のクラリスとエミリアがおかしいだけ。
普段から運動しているから大丈夫と、ルルとミアはいつもの言い訳を掲げ、クリームたっぷりのクレープを注文した。
「ここの席に座ろうか」
クレープを手にした六人は、空いているパラソル席へと向かった。
レオンはさりげなく日陰の席をクラリスに勧め、セドリックはエミリアの椅子を引いてあげると、自分の椅子をそっとエミリアに近づける。
仲の良い二組のカップルを横目に、ルルとミアは美味しそうなクレープにかぶりつく。
ふわふわで甘くて、ベリーの甘酸っぱさがアクセントになっていて、とっても美味しい。
皆も一口食べると笑顔になり、口に出さなくても美味しいと言っているのが分かった。
「レオン、良いお店を教えてくれてありがとう。ここにも通っちゃいそうで怖いけど」
「アハハ、いいや、偶然だよ。でも、また良いお店があったら紹介するから、みんなで行こうか? 何なら他の一年生も誘ってもいいし」
「他の一年生か……」
レオンの友人といえば、カイルとディーン。
食べ物に興味のあるディーンならともかく、あのレオンと一緒にクレープを楽しく食べる姿が思い浮かばない。一緒に行っても「私は大盛りで食べられるぞ」とかなんとか言って、ルルと張り合いそうだ。
これほど美味しいクレープが、全く美味しくなくなりそうな光景が目に浮かび、ルルは首を横に振る。
このメンバーが良いと、本当は女の子だけの方が気楽で気遣いもいらないけれど、そこは気を遣って答えておく。クラリスとエミリアだって、大勢よりもこのメンバーの方が良いはずだから。
「私……次回はレオンと二人きりでもいいですわよ」
「えっ……? クラリス、今なんて?」
「な、何でもありませんわ。聞こえなかったのなら気にしないでくださいませ」
「え、ちょっとクラリス、もう一回言ってよ」
「何でもありませんわ!」
頬を赤らめ、クラリスがフイッとレオンとは反対方向へ顔をそむける。
ルルにはクラリスの言葉がはっきりと聞こえていたので、笑いをこらえるのが大変だった。
どうやらレオンは、もう一歩クラリスの心に近づいたようだ。
あとで「デートに誘えば成功すると思うよ」と教えてあげよう。
今、余計な口を挟めば、クラリスは意地になってレオンとのデートを断ってしまいそうだ。
残りのクレープを頬張りながら、仲の良いクラリスとレオンの姿に満足するルルだった。
おはようございます、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
私もクレープが食べたくなりました。
どこか美味しいお店ないかなぁ~。
学年で一番レオンが背が高いと作者は思っていますが、どうでしょう。




