アプローチとアプローチ?
午前中、全ての授業で武器の練習を行い、体を動かしたルルたちは、お腹を空かせて食堂へやって来た。
実技の後は一年生全員で仲良く食堂へ行くのが当たり前の日課になっている。
ワイワイガヤガヤと皆での会話を楽しみながら食堂へ行き、各自好きなメニューを選んで席へと着くと、ルルはある男子が目に入る。
それはクラリスの隣の席をキープしているレオンだ。
レオンの行動はとてもスマートで、食堂でもクラリスの前に立ち、メニューを受け取った後、後ろに並ぶクラリスを含め、ルルたちにも水を運んでくれる。しかも、それをごく当たり前のようにやってのけるのだ。
そして席に着くと、必ずクラリスの隣を選び、椅子を引いてあげたりもする。
普通ならクラスの中で悪目立ちしそうだが、レオンの動きはあまりにも自然で、嫌味がまるでない。
そしてクラリスも「ありがとう」とお礼を言うだけで済ませているところが、貴族令嬢らしい。
レオンはクラリスだけに夢中になるのではなく、他の生徒たちとも話しながら、それでもクラリスに上手にアピールしているように見える。
自分の気持ちをクラリスに押し付けるわけでもないし、かといって遠慮して何もしないわけでもない。
「貴族男子ならば、それぐらい出来なければいけませんのよ」
クラリスはそう言っていたけれど、その頬は少し赤かった。
まるでレオンからのアプローチがまんざらでもないと言っているかのようで、照れる姿を誤魔化す様子は可愛らしい。こんな二人ならお似合いだし、上手くいけばいいなとも願ってしまう。
それと共に、押し付けが強いカイルと、何でもスマートにこなすレオンが何故友人なのか分かる気もした。きっとカイルの両親は、レオンを見習ってほしいと友人に選んだのだろう。それが成功しているかどうかと言えば……ルルは苦笑いを浮かべてしまう。
「ルル・ヴァルド、そんな少ししか食べないのか? フフ、私を見ろ。練習後であっても、私はこれだけの量を食べられるぞ」
今日も今日とて子供のようなことを言うカイルを見て、ルルは「すごいねー」と小さな子をあやすような言葉を掛ける。するとカイルは満足そうな顔をして、綺麗な所作で食事を始めた。
(カイルのご両親、残念ながら作戦は失敗だと思うな……。レオンがいるから、カイルは全然成長できていない。そんな気がするよ……)
見た目は王子様のようにカッコいいカイルだけど、その中身はエドの弟リオよりも幼く感じてしまう。最初はライバル心からルルに色々と言ってくるのだろうと思っていたが、カイルのこれは違う。小さな子がお母さんに褒められたいと頑張る姿に、とてもよく似ている。
最近はカイルが何か言ってきたら「凄いね、流石だね、カッコいいね」の三つの言葉を返せば受け流せると、ルルは知った。
(学園を卒業するまでには、もう少し大人になっていればいいけど……)
竜騎士団に入団した後、カイルとレオンが同じ隊に入れるとは限らない。
レオンやルルのようにカイルの自尊心を守ってくれる相手が、隊の中にいる確率はとても低いのだ。
その時、自分の実力を思い知らされてカイルの心が折れなければいいと、ルルは願う。
残念ながら、カイルからの猛烈なアプローチは分かりにくく、ルルには全く届いていないようだった。
「クラリス、クラリスたち女の子は、よくシュガーベルって喫茶店に行ってるんだって?」
レオンからの問いかけに、クラリスが「ええ……」と答える。
少し警戒しているような、何を言われるのだろうと思っているような、用心深い様子は猫のようで、クラリスらしい姿だと言える。
「じゃあ、最近街に出来た『おやつの森』って知ってるかい? クレープを作ってくれる店なんだけど」
「「「クレープ?!」」」
「そう、苺とか、ブルーベリーとか、季節のフルーツが選べて、チョコとか、アイスとか生クリームなんかのトッピングを選んで乗せることが出来るんだ。味もとても美味しいらしくて、週末は激混みらしい。店の中は小さくて席はあまりないけど、店の外にはパラソル付きの席があるみたいで、連日にぎわってるみたいなんだよ」
「アイス……」
「クリーム?」
「チョッコレート?!」
甘いもの好きなクラリスはもちろんのこと、ルルやミアの目も輝く。
自分好みのクレープが食べられるお店。
もう絶対に行くしかない!
声に出さなくても、三人の意見は同じだった。
「もし良かったら、次の休みに案内するけど」
「行きますわ!」
「私も一緒に良いの?」
「行きたい! レオン、案内お願い!」
迷いもなく飛びついた女子三人を見て、レオンはクスクスと笑い出す。
きっとクラリスをデートに誘うための口実だったのだろうけれど、それはあっさり成功したようで、レオンは満足げな様子だ。それに、二人きりではなくルルとミアも誘ってクラリスの警戒を解くところも凄いと思う。
(レオンって、ちょっと大人な男の子って感じだよねー)
レオンの手腕に、ルルは感動する。
クラリスが甘いもの好きだと調べているところも凄いし、街で人気の店を調べているところも流石だと思う。
「確か、いつもエミリア先輩と一緒に喫茶店に行ってるんだよね? だったらエミリア先輩とセドリック先輩も誘って、六人で行こうか? 俺も男一人よりは、その方が気軽だしね」
「ええ、いいですわ。でしたら、私がエミリア先輩に声を掛けますから、セドリック先輩にはレオンが声を掛けしてくださいね。楽しみにしていますわ」
「ああ、勿論、任せてよ。俺も楽しみだしね」
ニコッと笑うレオンは嬉しそうだ。
それに、エミリアとセドリックも誘い、六人という組み合わせにしたところも流石と言える。
「ねえ、ルル、私たち本当に行っても良いのかな……。デートのお邪魔になるんじゃないかな?」
「ミア、とりあえずクレープを食べてから考えよう。甘い雰囲気だったら、先に帰ればいいんだし」
少し前進したように見えるクラリスとレオンの姿を見て、ルルとミアはそんな言葉を密かに交わす。
ダブルデートの邪魔になるようだったら、ルルとミアは街歩きに切り替えよう。
そう決めて、「おやつの森」へ行く日を楽しみにすることにした。
「……あのさ、ルル、クレープなら俺が作ってやるぞ。クリームとか、めっちゃ増量で……」
「エド?」
「フルーツだって、ルルの好きなモノを沢山乗せて作ってやってもいいぞ。俺、そういうの得意だし……」
料理もお菓子作りも出来るけれど、そこまで得意ではないくせに、エドが強がってそんな声を掛けてきた。きっとレオンがモテモテなのが許せないのだろうが、ルルは素直ではないエドに呆れてしまう。
きっとエドが気になっている女の子はクラリスなのだろう。
レオンに取られそうだからといって、幼馴染のルルで気を引こうとするなんて、どう考えても作戦失敗だ。そんなことなら、クラリスに直接「クラリス好みのクレープを俺が作ってやる!」と言い切った方が男らしい。
ルルは小さな溜息を吐きながら、エドに顔を近づけ、誰にも聞こえないようにそっと耳打ちした。
「あのね、エド。私たちはクレープが食べたいだけじゃないの。可愛いお店に行って美味しいクレープを食べたいの。それ、分かる?」
「ーーっ!」
図星を突かれたからか、エドの顔は真っ赤になってしまった。
皆の前なので、それ以上突っ込むことはしなかったけれど、エドの隣に座るハルトには色々と察せられたようで、気の毒そうな顔をしている。そんなハルトと目が合ってしまう。
「ルル、ほどほどにね」
そう口パクで言われたので、頷いておく。
エドの気持ちは分かるけれど、クラリス相手にこれでは勝負の行方は明らかだ。
それに、やっぱりエドがどんなにいい子であっても、貴族であるレオンには一歩遅れてしまうのは確実だ。
(エドが失恋したら慰めないとなぁ……)
姉としてエドを見ているルルは、どこまで行ってもエドの想いには気づかない。
突然好きな相手に近寄られ、耳打ちされたエドのドキドキも、頑張ったアプローチも、まだ恋に疎いルルには理解できないようだった。
おはようございます、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
またブクマ、良いね、評価など、応援もありがとうございます。
励みになっております。
レオン、ルルにも伝わるほど頑張っています。
カイル、エド……頑張れ……




