竜騎士団の見学
ルルたち一年生は今、王城へ向かっている。
今日は王城に勤める竜騎士団の見学に行ける日だ。
話を聞いてから楽しみにしていただけに、一年生皆の目が輝いている。
竜騎士学園から馬車に乗り、王城へはだいたい十分ぐらい。
アレクシスもこんな感じでセレスに会いに来ているのかなと、そんな考えに行きつくと、ルルは先日掛けられた言葉を思い出す。
『一番の楽しみはルルとの逢瀬なんだ』
いつもルルを驚かすことばかりしているアレクシスのことだ。きっとルルの反応を面白がって、逢瀬なんて言葉を出したのだろう。今度会ったら何か仕返しをしなきゃと思いながらも、頬が緩みそうになり、ほっぺの内側を噛む。
アレクシスのことを考えると、なんだか少し落ち着かなくて、ルルはこの感情が何なのかまだ分からないでいた。
「竜騎士学園一年生の諸君、よく来てくれた。私がアストリア王国竜騎士団団長、ヴォルフ・レグナードだ。よろしくな!」
「「「よろしくお願いいたします!」」」
なんと、ルルたち竜騎士学園の生徒を案内してくれる相手は、竜騎士団の団長ヴォルフだった。
レンガ色の髪は短く刈り揃えられていて、琥珀色の瞳は一見鋭く見えるが、ルルたちに向けるその目には優しさと温かさが溢れていた。
(おじいちゃんにちょっと似てるかも……)
顔が似ている訳ではない。
声が似ている訳でも、背丈が似ている訳でもない。
だけどヴォルフからあふれ出る空気が祖父バルガスを思い出させる。
強く、優しい。
その雰囲気がまるでバルガスのようで、冬休みに会ったばかりなのになんだか会いたくなってしまう。
「よーし、まずは王城の竜に会いに行くぞ。皆、ちゃんとついて来いよ」
「「「はい!」」」
ルルは出会った一瞬でヴォルフが好きになった。
強い竜騎士に憧れがあるからだろう、校長ヴァルター・グランディスと会った時と同じような好感を持つ。
竜騎士団の団長でありながら、ヴォルフには偉ぶったところはなく、ルルたちと一緒に行動することが楽しそうな様子だ。
「さあ、ここが新人の竜騎士の竜がいる竜舎だ。皆の竜が入団するときは最初にこの竜舎に入ることになる。そこから所属する隊の竜舎に移動になるが、竜だけは一年この竜舎となる。竜が環境に慣れるまでは、顔見知りの竜と過ごさせることになっているので、皆安心して欲しい」
「「「はい」」」
竜はあの体の大きさでありながら繊細な生き物だ。
竜は強いけれど好き嫌いがはっきりしており、嫌いなものが近付けばストレスとなり、攻撃を仕掛けるだろう。
勿論、中には呑気な竜もいる。ルルが出会ったあの水色ちゃんがその代表かもしれない。
あの子は今も森と竜舎を行き来し、毎日を楽しんでいるようだ。
けれどセドリックの竜のように、ストレスで体調を崩す竜もいる。
二年の先輩の竜が飛べなくなってしまった理由も、パートナーの感情を強く感じ取ってしまったからだと思う。
ルルは王城の竜の管理方針にとても納得し、大きく頷いた。
(でもセレスなら竜騎士団の竜舎も大丈夫そうだけどね……)
セレスが知らない竜に怯え、遠慮する姿は想像できない。
先輩の竜に対しても遠慮なく圧をぶつけそうで、そのうち竜騎士団でも女帝と呼ばれそうだなと笑ってしまう。
「よし、次は竜騎士団の寮を見に行くぞ」
「「「はい」」」
竜騎士団の寮と言っても、一般の騎士と同じ寮を使っているらしい。
ただし、竜騎士団は竜騎士団で使える棟が決まっており、男性は南棟、女性は一般騎士を含め女性騎士全員で西棟を使っているそうだ。
そんな話を聞くと女性騎士がいかに少ないかが分かる。その上、竜騎士の女性となると尚更少ない。クラリスの母親は結婚後も竜騎士を続けているが、それこそが珍しいことだった。
結婚したら仕事を辞める。
その常識は、家の仕事という貴族の女性が担う仕事の大きさがあってのことだけに、外での仕事を続けることは難しい。
「俺はクラリスにはずっと竜騎士でいて欲しいよ」
「ーーっ!」
レオンがそっとクラリスに囁く言葉がルルの耳にも入り、思わずルルが頷いてしまう。
クラリスは平静を装っているけれど、きっと心の中では嬉しいはずだ。
ルルとしては一生竜騎士でなくても良いけれど、一生竜に携わる仕事に就いていたいとは思う。
(私、結婚しないかも……)
自分の願いを叶えてくれそうな周りにいる男の子の姿は、まだルルの目には入っていないようだった。
「よし、次は竜騎士団の訓練を見に行くぞ。今日は私の直属の部隊、第一竜騎士隊を見に行く」
「「「はい」」」
第一竜騎士隊は竜騎士のエリートが集まる部隊。
飛行だけではなく、剣の扱いや、心の持ち方、そして見た目も重要視される部隊らしい。
竜騎士に見た目は必要ないのでは? とそう思うところだが、竜騎士は国一番の注目を集める部隊のため、実力も勿論だが、見た目も必要となる。
ただし、見た目だけで選ばれたと言われる者は第一にはいない。実力主義の竜騎士と言われる所以は、そんなところにもあった。
「あ、あそこにいるのクラリスのお兄さんじゃない? お兄さん、第一部隊なんだね、凄いなー」
遠目からも分かるひときわ大きい体躯。
クラリスに言わせるとゴリラみたいな体なのだが、その顔はクラリスと似ていてとても美しい。
体と顔があっていない気がするが、レオニスはそこが魅力的な不思議な人だった。
「ルル、グランツ様もクロフォード様もいらっしゃいますわ。お兄様が、あのお二人は団のエースだと言っていましたの、お二人とも凄い乗り手だそうですわよ」
「へー、そうなんだ」
レオニスの傍に、確かに淡い紫の髪のアルノー・グランツと、オレンジ色の髪のアレン・クロフォードらしき人の姿が見える。二人は自身の竜の傍にいて、相棒を優しく撫でているようだ。これから第一隊は飛行訓練のようで、ルルたちにその姿を見せてくれるらしい。
「隊員、騎乗!」
「「「おう!」」」
副隊長らしい人物の号令を聞くと、隊員たちは素早く竜アンカーを出し、自身の相棒に乗り込む。その速さは目にもとまらぬという言葉がぴったりで、乗ることができるようになったばかりの一年生とは全く違う、熟練の技を見せつけられたような気がした。
「一番、飛翔!」
「「「おう!」」」
「二番、飛翔!」
「「「おう!」」」
「三番、飛翔!」
「「「おう!」」」
副隊長の声掛け通り、隊列の順番で空中に浮かび上がる。
ホバリングはとても難しい技術だが、第一隊にふらつく者など一人もいない。
竜たちも相棒の指示のもと、等間隔を守っていて、羽の振り方まで揃っていた。
「凄い、凄い、あれが本物の竜騎士なんだ」
「アハハハハ、そうだろう、凄いだろう。竜騎士とは竜の相棒、そして竜と一体になれるものだ。竜騎士とは竜に乗せてもらうのでも操るのでもなく、共に空を飛べるものを言う。皆、そのことをしっかりと心に刻め。君たちは今は卵だが、あと数年で彼らと同じ場で飛ぶのだからな」
「「「はい!」」」
団長の言葉にルルたちは大きく頷いた。
自分たちもああなりたい。
その目標が目の前にあり、曖昧だった未来像がハッキリと分かった気がする。
だからこそ、毎年竜騎士団の見学があるのだろう。
それも前期で竜騎士を諦め、辞める学生をある程度見届けてから、本気で竜騎士を目指す者にだけこの場を見せる。
その徹底ぶりにもルルは竜騎士になる厳しさを感じ、中途半端な覚悟では竜騎士にはなれないことを理解し、皆の目にも強い意志が浮かんでいるように見えた。
「全体、前進!」
「「「おう!」」」
副隊長が最後に飛び上がり、全体に進む号令をかける。
その声と共に、ゆっくりと竜騎士たちは空を飛んでいく。
優雅に見えるその飛行が、とても難しく技量が必要であることは一年生全員に分かるもの。
竜に乗れるようになった今だからこそ、本当の意味で竜騎士の凄さを感じ、自分たちが目指すものの厳しさや高さを改めて実感していた。
ルルは空を見上げ、第一隊が飛び立つ姿を目に焼き付ける。
今はまだ、あの空を飛ぶ竜騎士たちを見上げているだけだ。
けれど数年後には、彼らと共に空を飛んでいたいと思う。
「私も、あの空を飛びたい」
その言葉は、ルルの胸から自然にこぼれ落ちたもの。
目の前を飛んでいく竜騎士たちの背中を、ルルはいつまでも見つめていた。
おはようございます、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
遠目からでも分かるレオニス体躯。
きっと素晴らしい筋肉の持ち主だと思います。




