前期終了
前期の試験の結果が出た。
飛行のタイムが良かったからか、ルルは一位をキープすることができて、とても嬉しかった。
そして二位はなんとエド!
学業に力を入れたのもあるが、エドは竜アンカーなどの扱いも上手く、何より竜の構造には誰よりも詳しいと言えた。
「後期からは隣の席だね」
エドにそう声を掛けると「ああ」と言ってカイルにちらりと視線を送ってから、エドはニヤリと笑った。
どうやらカイルとエドのライバル関係は、ルルが思っているよりも熱いものらしい。
(男の子ってそういうところあるよねー)
ちょっと羨ましいような、それでいて子供っぽいなと笑いたくなるような。
カイルとエドを見ていると、面白いと思ってしまうルルだった。
そして三位はカイル。
ガイウスの話ではエドとは僅差だったらしい。
多分、飛行の際に肩に力が入りすぎていたのが原因だろう。
順位を聞いたカイルは物凄く悔しそうだった。
そして四位はレオン。
レオンは順位を聞くと、カイルとは違い、悔しがることも嬉しがることもなく、ホッとしているように見えた。
五位はクラリス。
クラリスは順位よりも成績の内容を気にしていて、自分に足りないものを休みの間に補うと言っていた。
六位はハルト。
ハルトは飛行の成績が思った以上に良かったようで、「学科は不安だったけど……」と言いながらも嬉しそうにしていた。
七位はディーン。
ディーンは成績よりも、フレアが果物好きなため、森を飛ぶときにそちらに意識が向かないようにするにはどうすればいいか、ガイウスに相談しているのが印象的だった。
八位はなんとミアだった。
ほぼ何も知らない状態で入学し、順位を上げたミア。
これにはミア本人も驚いていて、自分の成績表を何度も見直していた。
そして九位はノア。
ノアは飛行が苦手なこと、そして他の子よりも体力がないことが減点の理由だったらしい。
だけど、退学にならなかっただけでも奇跡だと、ノアは喜んでいた。
「皆、素晴らしい成績だった。順位よりも何よりも、一年生全員が前期を乗り越えられたことを誇って欲しい」
「「「はい」」」
前期を終えた時点で誰も退学していないことは、数年ぶりの奇跡らしい。
ガイウスの言葉を聞き、一年生全員が胸を張る。
自分たちは皆で協力し、頑張った。
その意識があるからこそ、誇りある笑顔を浮かべていた。
「ルル、ミア、少し先に行ってて下さる?」
「クラリス?」
「どうしたの?」
「私、少しレオンと話がありますの」
「「レオンと話?」」
「ええ、そう、話よ」
「「……」」
授業が終わった後、クラリスはそう言うとレオンの元へ近づいていった。
そしてカイルに断りを入れ、教室で二人きりになると、何かを話し出した。
ルルとミアは少し離れたところで二人を見守る。
クラリスからは少し怒っているような、そんな雰囲気を感じたからだ。
「私でしたら、そんな相手を友達などとは呼べませんわ!」
そんな声が聞こえ、思わずルルとミアは教室内を見てしまう。
クラリスはちょうどレオンから離れるところで、レオンは茫然として立ち尽くしていた。
寮への帰り道。
クラリスの怒りは収まらない。
普段の優雅な歩き方よりも、ちょっとだけ力強く歩いていることで、ルルたちにも怒っているのだと分かってしまう。
そしてクラリスは無言のまま寮へ入ると、自分の部屋に引きこもってしまった。
「ミア、クラリス、どうしたのかな?」
「うん……レオンともめてる様子なんてなかったよねー?」
心配だったけれど、今は一人にしてあげようと、ルルとミアも部屋へ戻り、帰郷の準備を始める。
雪が降るこの時期は、帰郷するにも時間がかかる。
冬休みは一か月あるけれど、下手をしたら馬車が思うように進まず、ベルン村で過ごす時間は一週間しかない、そんな可能性もないわけではなかった。
そして夜になり、夕食を終えるとクラリスの部屋の戸を叩く。
何だか入寮した日みたいだねとミアが笑い、ルルも思い出して笑ってしまう。
あの頃とは今では違う。
クラリスはきっと、レオンと何があったか話してくれるだろう。
そう思っていると、クラリスが顔を見せてくれた。そして「どうぞ」と当然のように部屋へ入れてくれる。
「今お茶を淹れるから座っていて頂戴」
「「うん、ありがとう」」
クラリスも王都のタウンハウスへ戻る準備を終えているのか、部屋の中はきちんと片付いていて、ボストンバッグがベッドの横に置いてあった。
「さあ、どうぞ。お茶請けはキャンディーしかないけれど、エトワールで購入したものだから味は保証しますわ」
「うん、いただきます」
「ありがとう、エトワールの味は気になってたから嬉しい」
エトワールは貴族が通う高級喫茶店。
その店の飴はミルク味が濃厚で、とても美味しい。
クラリスが「冬休みが明ける前にエトワールに行きましょうか?」と誘ってくれたので、ルルとミアはうんと頷く。
何でもない話で落ち着きを取り戻したクラリスは、そっと話し出した。
「レオンとのことを心配してくれているのでしょう?」
ルルとミアが聞かなくても、やっぱりクラリスは話を始めてくれた。
そして、レオンが本気を出していないことに怒りを覚えているのだと教えてくれた。
「ああ、それは私も思ってた。レオンってちょっと遠慮してる? ううん、力を抑えてる感じは前から気になってたんだー」
「本当に? 私、自分のことで精一杯で全然気づかなかったよー」
クラリスも最初は気づいていなかったらしい。
けれど、特別飛行訓練の際にレオンと並んで飛び、普段の飛行とは違うことに気が付いた。
そして今回の飛行試験の時、その疑惑は確信に変わった。
「レオンの家はアシュフォード家の寄子なのですわ」
「「よりこ?」」
「ええ、アシュフォード家に連なる家と言えばいいかしら。つまりカイルのお父様の部下みたいなものね。貴族にはよくあることなのよ」
「「そうなんだ……?」」
「そうなの。だからレオンはいつもカイルよりも成績が上にならないように気を付けているのよ。竜騎士は実力主義とは言え、寄り親の家の子に勝つのはまずいと、そう思っていたのでしょうね」
「「……」」
だけど、それはなかなか難しいことだと思う。
カイルの成績を想像し、それに勝たないように調整する。
レオン自身に実力がなければできない技だ。そして、長い間そうしてきたからこそ、無意識にできてしまうのかもしれない。
「レオンの気持ちも分かるわ。私だって貴族ですもの。レオンのお父様の立場とか、お家のことを思えば、カイルを立てて当然かもしれないわ……でも、あの二人は友人でしょう? カイルの方はレオンを親友だと思っているわ。そんな相手に手を抜かれて嬉しいと思う? それはカイルのことを馬鹿にしているのと同じだし、友達だと思っていないのと同じだと思って注意したら、レオンったら、カイルと友達? って驚いていたのよ」
「「えっ……?」」
「レオンはカイルのことを友達とも認識していなかったみたいだわ。きっと幼いころからカイルのお世話をするように親に頼まれていたのでしょうね? カイルがあの性格だから分かる気もして……ちょっと同情してしまって、言い過ぎた自分を反省したわ。でも成績表を見た時のレオンの姿が許せなかったの……それに手を抜いた相手に私は負けたんだって思ったら情けなくて……」
「「クラリス……」」
レオン本人は、もしかしたら手を抜いている自覚もなかったのかもしれない。
だからだろう。クラリスに注意されたあの時のレオンの顔を思い出すと納得できた。
自分の行動に驚いている、そんな様子だった。
「ごめんなさいね、明日レオンに謝るから安心して頂戴。ルルは朝早いんでしょう? 長旅なのだし、そろそろ寝た方が良いわ」
「うん、クラリス、話してくれてありがとう。クラリスもゆっくり休んでね」
「ええ……」
本心ではクラリスとレオンのその後を見守りたいけれど、仕方がない。
ルルは明日、エドと共にトーマスの迎えの馬車でベルン村へ向かうのだ。
時間を考えると変更もできないし、トーマスに迷惑もかけられなかった。
「ルル、私がクラリスとレオンを見守るから安心して」
「うん、ミアお願いね、頼りにしてるよ」
そう約束し、ルルは自室に戻る。
(貴族って子供も大変なんだなー)
何だか心配でその日の夜は寝付けないと思ったけれど、これまでの試験の疲れもあったからか、ルルはぐっすりと眠ってしまった。
そして翌朝、セレスに挨拶を終えると、迎えに来たトーマスの馬車に乗ってベルン村へと出発したのだった。
こんばんは、夢子です。
帰りました。
本日二話目です。
楽しんでいただけたら嬉しいです。




