前期試験
ルルたち一年生の前期の試験が始まった。
初めの二日間は、学科試験。
計算や語学などはそれほど難しくはないのだが、地理と歴史、海外の情勢、竜の生態、飛行の名称、隊での合図などはとても難しいものになっていて、皆で集まって勉強会をし、覚えたことがとても役に立っていた。
「あの図、分かりづらかったですわ。言葉での説明もですけど……」
「確かに分かりづらかったよね。過去問やっといて正解だったよねー。やってなかったら、もっと悩んでたと思う」
「私は地理が難しかったわ。一生懸命覚えたけど、似た名前の地域は自信がないなぁ……」
ルルとミア、クラリスの三人で寮へ戻りながら、学科試験の話をする。
あの科目は難しかった、引っかけ問題があったよね、とそれぞれが感想を言いながら帰路に着くが、今夜は集まって勉強することはしない。
明日からは実技試験。
今夜は何よりも体を休めることが大事だった。
寝不足で実力が発揮できなかった。
そんな言い訳は通用しない。
だから皆、自分の体と向き合った。
そして翌日、ルルたちは万全の体調で試験に挑んだ。
初日は基礎体力。
校庭を走ったり、腹筋、背筋、腕力など、いろいろな項目の試験をこなしていく。
今回はまだ一年生の前期だから男子とそれほどの差はないが、三年生に近づくほど男女の差ははっきりと出てくる。
そこは仕方がないため、ルルもミアもクラリスも割り切っている。
けれど、スタミナや柔軟性では負けるつもりはない。
自分たちの強みを伸ばしていこう。
女子三人はそう話し合っていた。
そして二日目。
二日目は武器の試験。
各自、メインの剣はもちろん、第二、第三の武器まで試験となる。
ルルは軽い剣をメインにしているため、素早さが命だ。
先生との打ち合いとなるが、力では負けてしまうため、攻撃をかわしつつ、一手一手、先手を取れるように頑張った。
そして弓は、止まっている的を狙うだけならルルには楽勝だった。
動いている動物を狙うわけでもなく、竜の上から獲物を狙うわけでもない。
風を読み、それほど遠くない的を狙うことは、点を取れるありがたい試験だと思ってしまうほどだった。
そして最後は投擲、ナイフ投げだ。
こちらも祖父仕込みの武器のため、ルルは問題なく結果を出せた。
学園に入ってから、実は鞭も学び始めたルル。
第四の武器となっているため試験は免除されているが、本心としては試験を受けたかった。
授業で頑張ったこともあるが、上達した自分がどの程度なのかを知りたかった、というのもあった。
そして三日目は、竜に乗った飛行試験。
竜アンカーの使い方から、竜に乗り込むまでの時間。
そして空へ飛び上がる際の姿勢など、細かく審査されていく。
すべて授業で習ったことなので、落ち着いて試験を受ければ、落ちる者はいない。
特に飛行に関しては自信があるルルにとって、点を稼げる科目ともいえた。
そして最後は、一人で飛ぶ速さを計測される。
これは成績の低い順に行われるため、ルルの順番は最後となる。
一年生の距離は短く、一番近い休憩所までで、学年が上がるほど遠い休憩所までの計測となる。
そんな中、ルルとセレスはただ一番を目指すのではなく、歴代最高速度を目指すことにした。
過去の一年生たちに勝とうと、二人でそう話し合っていた。
最初の計測の順番はミアだ。
ミアは入学するまで竜と触れ合う機会どころか、竜についてもそれほど詳しいわけではなかった。
入学試験に向けても、図書館へ通い、そこで仕入れた知識をもとに勉強していたというのだから、ポテンシャルの高さがうかがえる。
ミアは相棒のモカを励まし、励まされながら、一人での飛行をやり切った。
スピードは決して速いものではない。
けれど、ふらつくこともなく安定した飛び方を見せ、無事にゴールした。
本人も大満足の結果だったのだろう、笑顔だった。
そして二番手はノア。
ノアは勉強は得意だけれど、実技は苦手だと本人は言っている。
けれど、それでも竜騎士を目指すだけの体力も根性もあり、できなくても投げ出すことはせず、竜アンカーの使い方なども必ず身に着けてきた。
だから一人で飛ぶことも、皆ノアならできると信じていた。
多少ふらつくこともあったけれど、それでも相棒フィンを信じ、ノアは堂々とゴールした。
嬉しさからか、ちょっと涙目になっていたらしいが、ノアも男の子だ。それは秘密となっていた。
そして三番目はディーン。
ディーンの竜フレアは、ディーンと似て食べることが好きな竜。
だからスピード型の竜ではない。
どちらかというと、パワー重視の竜といえる。
ただ、性格がとても穏やかなため、フレアが争うところは想像できない。
なのでこの試験でも、絶対に勝とうという闘志はなく、ディーンとフレアの飛び方はお散歩感覚に見えた。
ゴールのあと、先生から果物の木が気にならないように躾けた方がいいぞと言われ、ディーンは苦笑いしていた。
だって、雪が多く残る森の上を飛んでいて、果物の木がどこにあるのか分かるフレアは凄いと言えるからだ。
四番目はハルト。
ハルトは何でもそつなくこなす、万能タイプ。
その上、明るくて社交的で、相棒ソルとの仲もとてもいい。
いつもニコニコなムードメーカーでもあるハルトは、この日は様子が違った。
真面目な顔でソルに乗り込み、「トップを狙うぞ」と声を掛ける。
スタートから猛ダッシュ。
結果は自己最高速度だったので、二人は良い笑顔だった。
ただし、その結果を受け、残りの皆にも気合が入る。
自分たちも負けていられない。
残された皆の顔つきが一瞬で変わった。
五番目はクラリス。
クラリスの飛び方はとても綺麗だ。
幼いころから両親を見てきたからだろう、教科書の標本通りの型で飛ぶ。
相棒アストラもクラリスと同じく、綺麗に優雅に飛ぶ。
きっと竜の飛行ショーがあればダントツの人気を得る、そんな飛び方だ。
二人もまた無事にゴールし、お互いをたたえ合っていた。
六番目はレオン。
レオンと相棒グランのコンビは、安定した飛行と言える。
本当はもっと早く飛べると思うのだけど、レオンはグランに無理をさせないし、グランもレオンに負担のかからない飛び方を心がけている。
気を遣う性格同士、気が合うのだろう。
だけどルルには少しもどかしくて、もっとできるのにと、つい思ってしまう。
レオンは本来、リーダーにもなれるタイプだ。
それはあの特別飛行の時に先頭を飛び、皆にその実力を認識されている。
だけど本人だけがそれに気づいていないような、気づかないようにしているような、そんな気がしてならなかった。
七番目はエドだ。
エドはグレイヴのお陰もあり、飛ぶことには慣れている。
でも相棒は新人竜のロッソ。
人を乗せることに慣れていないロッソを、エドが指導している。普段はそんな様子だ。
ただ、この日のロッソは様子が違った。
ハルトの相棒ソルにライバル心があるようで、気合十分。
何度も飛んだ道だからお前ならやれる、というエドの声掛けに、「ギャウ!」と力強い返事を返した。
そしてロッソは新人とは思えない飛行を見せ、自己最速のスピードでゴールしてみせた。
エドは竜を育てるのも上手らしい。
よくやったとロッソを褒めるエドは、ルルの父ロイドにちょっと似ていた。
「ルル・ヴァルド、私はお前に必ず勝つ!」
八番目はカイル。
カイルは相棒レグスに乗り込む前、ルルにそう声を掛けてきた。
隣に並ぶと宣言したり、勝つと宣言したり、認めてやると宣言したり、カイルはとても感情の揺れが忙しい。
ルルは「頑張ってねー」と手を振り、応援した。
カイルとレグスがルルとセレスを越える飛行を見せてくれるのは大歓迎。
そうであってこそのライバル。そう思っていた。
最近はカイルの影響なのか、レグスもセレスにアプローチをしてくることがある。
レグスは年頃の竜のため、強く美しいセレスが気になるのだろう。
だからか、セレスに負けない飛行をしてみせると、気合十分な様子だった。
そして飛び出したカイルとレグスは、とても速かった。
ただ、肩に力が入りすぎているのか、授業で飛んだ時の方が速いように感じた。
だからだろう、自己最速のタイムは出せなかったようだ。
悔しそうなカイルの顔と共に、レグスも「ギャウ!」と鳴いていて、どこまでも似た者同士な二人だった。
そして最後、ルルの番となった。
ルルは見えないゴールを見つめる。
セレスと共に出発地点に立ち、自分たちの今の力を出し切ろうと声を掛け合った。
「ルル・ヴァルド、スタート!」
担任ガイウスの声を聞き、ルルとセレスは大空へ羽ばたいた。
距離は竜にとって短距離ともいえる長さ。
人間に負担がないように短い距離に設定されているが、竜にとっては一番苦手な距離でもある。スピードに乗り切れないからだ。
長距離を飛ぶためにある大きな翼は、短距離では持て余す。
けれど、そんなことはセレスには関係ない。
短い距離には、短い距離の飛び方がある。
高いところから低いところへと水が流れていくように、セレスは自分の体を上手に使い、もの凄い速さで飛んでいく。
まさに竜と呼ばれる生き物そのものの姿で。
翼を動かす回数も最小限。
できるだけ風の抵抗を受けないように、ドリルのように突き進む。
「セレス、良いよ! 最短の道筋は知ってる。そのまま飛ばすよ。私のことは気にしないで!」
「ギャウ!」
竜がスピードを出せば出すほど、乗り手の人間は厳しい状態になる。
風を受ける圧も上がるし、手綱を握る手にも力が必要だ。
だけどルルには、どうすればそれらを最小限に抑えられるのか分かっている。
全力で飛ぶセレスの少しでも邪魔にならないよう、体をどう形作ればいいのかも分かっていた。
それにセレスの力になれるよう、ルルは風を読み、道を読み、指示を出す。
「セレス、ゴールが見えてきた! もう少しだよ!」
「ギャウ!」
ゴールが見えると、セレスはまた加速する。
それが分かっていたルルは身をセレスにくっつけ、最小限の抵抗になるようにする。
もう道を示す必要はない。ゴールは目の前だ。
あとはセレスが全力で飛べるようにするだけ。ルルはその身をセレスと一体化させた。
ヒュンッ!
セレスのスピードは、音までも他の竜とは違う。
まさに電光石火。
光のような速さで、ルルとセレスはゴールを駆け抜けた。
「……ル、ルル・ヴァルド、ゴール!」
終着地点の教師が驚くほど、ルルとセレスは速く、もの凄いスピードだった。
空中でスピードを緩める二人の姿を、皆がポカンと驚いた顔で見つめている。
「セレス、やったね! 絶対に自己最高のタイムだよ!」
「ギャウ、ギャギャギャ!」
「アハハハ、そうだね、当然だよね。うん、それに次はもっと早く飛べる。その通りだよ」
空中で一回りし、落ち着いてから地上に降りる。
すると先にゴールしていた一年生たちが、ルルとセレスの元へ駆けてくる。
「ルル、凄いわ。貴女とセレス、最高よ!」
「ルル、凄かった! 素敵だったわ! 本当に涙が出そうだよー」
クラリスとミアがルルに抱き着く。
二人とも自分のことのように喜んでくれていて、ルルはもっともっと嬉しくなった。
「ルル、やるじゃねーか! カッコ良かったぞ!」
「アハハハ、うん、エド、ありがとう」
クラリスとミアに抱き着かれているルルの頭を、エドが乱暴に撫でる。
祖父バルガスそっくりの行動で、ルルは思わず大きな声で笑ってしまう。
「ルル、凄いよ」
「さすが僕たちのキャプテンだ」
「最高の飛行だったよ」
「ルル、素晴らしかった」
ノア、ハルト、ディーン、レオンも輪の中に加わり、ルルを褒めてくれる。
それが嬉しくて、あったかくって、ありがとうと言うルルの顔は、どうしようもないほどに緩んでいる。
「ルル・ヴァルド……いや、ルル……」
「カイル?」
「歴代最高速度だそうだ。おめでとう。それでこそ我々のキャプテンだ」
カイルがルルを見つめ、手を差し出してくる。
こんなことは初めてで、ちょっとルルは驚いたけれど、カイルの手を取った。
「カイル、ありがとう。そう言ってもらえて私も嬉しい」
ルルが笑い返せば、カイルも笑う。
それにクラスのみんなも良い笑顔になって、ルルは嬉しさが増す。
この仲間たちと出会えて良かった。
セレスと出会えて良かった。
ルルは今、王立アストリア竜騎士学園に入学できたことを、心から感謝していた。
おはようございます、夢子です。
本日は土曜日。二話投稿予定です。
仕事から帰ったら投稿しますね。
ええ、土曜ですが仕事ですよ。
笑うしかないですね。w




