一年生の決意と試験の季節
特別飛行訓練の後、ルルは叱られた。
それは教師陣からではない。同じ学年の一年生たちから、代わる代わるキツめの注意を受けたのだ。
学園に戻り、寒さで固くなっていた体が緩んだ瞬間、その時間はやって来た。
悪いことをして心配をかけてしまったという自覚があるルルは、大人しく皆の言葉を聞くしかなかった。
「ルル! お前なぁ! 俺たちを逃がすためだったかもしれねーけど、あんな無茶をするだなんて! 俺たちがどれだけ心配したか……ちゃんと考えて反省しろ! それまで許さねーからな!」
エドが怒るのはいつものこと。
だけどこの日のエドは少し涙目で、流石のルルも言い返すことはなく、心配をかけてごめんなさいと何度も謝った。
「ルル、貴女! 次に同じことをしたら許さなくってよ! お友達の縁を切りますからね!」
「ルル、本当にどれだけ心配したか! お友達が私たちのために飛び出したのに、後ろを振り返ることができない、何もできない自分が情けなかったよ!」
「うん、クラリス、ミア、本当にごめんなさい。次があったら気を付けるから、泣かないで……」
「泣いていませんわ。それより次ってどういうことですの?」
「気を付けるって、全然反省していないでしょう? もう、すぐ下の弟みたい。ルル、一人行動禁止だからね」
ちゃんと反省もしているし、申し訳なかった気持ちもあるけれど、あの時の行動は正しかったとルルは思っている。水色の竜は大人しくいい子だったけれど、本来野生の竜は縄張り意識が高く、見知らぬ竜がいれば戦いを挑んでくるものだ。
もしあのまま、まとまって飛び続けていたら……
友好的な水色ちゃんとは違い、他の野生の竜が相手ならば戦いになり、怪我をする生徒がいたかもしれない。
たとえセレスがいたとしても、そこは変わらない。
セレスとルルならば多少相手を惹きつけることはできただろう。けれど、残念ながら他の生徒が足手まといになるのも本当だ。
まだ戦うことを習っていない生徒たちが乗る竜が、戦いを知る野生の竜に勝てるはずがないからだ。
「まあ、そう責めるな。先生方も謝っていたではないか。自分たちの管理不足だったと。ルル・ヴァルドだけが悪いわけではない」
「カイル……」
珍しくカイルがルルを擁護する。
それは冬の特別訓練の前、先生方が森に危険がないか、生徒たちが飛ぶ道を調べたからのことだった。
野生の竜が生息しているなどという報告はなく、何も問題ないと結論付けたのだが、結局今回のような事件が起きてしまった。
だが、それは当然のことだ。人間が自然を抑えることなどできない。
あの子は先生方が山々を調べたときには、そこにいなかったのだろう。
興味津々な様子の水色の竜を思い出し、親とはぐれ、この辺りまで来てしまった、ルルはそんな気がしてならなかった。
「それでルル・ヴァルド、我々に足りないものは何だ」
「えっ……?」
「お前の中で我々は守る程度の実力ということだろう? この先お前と戦うには何が足りない? お前と肩を並べて飛ぶために私たちに必要なものは何だ? 教えて欲しい」
「カイル?」
そう言ってカイルは少しだけ頭を下げる。
まさかカイルがこんな行動をとるなど思わず、一年生の皆が固まっているのが分かる。
(カイルって、やっぱり頭がいい子なんだ……)
勉強ができるとかではなく、カイルは竜騎士になるため常に考え、自分に何が必要なのかを探すことができる子だった。ルルはそれが嬉しくて、カイルに自然と笑顔を向けた。
「カイル、ありがとう。一緒に戦うって言ってくれて……」
「ーーっ!」
ルルの言葉を聞いてカイルは真っ赤になった。
だけど目を逸らすことはなく、ルルの瞳をジッと見つめている。
だから誤魔化すことなく、ルルは皆に足りないものを伝えることにした。
「みんなはまだ一年生だから、できないことがあって当然なんだけど……」
まず一番に必要なのは飛ぶ力。
今はまだ竜に乗っている状態で、飛んでいるとはとても言えないこと。
その次に技術、竜の背に乗った状態で武器を扱えるのは、今はたぶんルルだけだ。
エドならばもしかしたらなんとかできるかもしれないが、それでも武器を持って戦うなど無理だと言えた。
そして最後に敵を判断する力。相手が野生の竜なのか、それとも飛ぶ魔獣なのか、それとも人間なのか。それによりこちらの動きは変わる。そして飛ぶ隊形も変えなければいけない。
だからルルはあの時、一人で抜ける選択をした。
一人で戦う方が危険がなく、動きやすかったから。
それはつまり、今の一年生は役に立たない。
そう言っているのと同じだった。
「分かった……もし次があれば、お前の横に立てるよう、我々は努力する。だからルル・ヴァルド、我々を高みへ導いて欲しい、頼む」
カイルだけでなく、クラスの皆までルルに頭を下げた。
まさかこんなことが起こるなんて、ルルは少し焦ったが、そこは友の心をちゃんと受け止める。
「うん! 私のできる範囲で皆を引っ張るね。でも私の指導はグレイヴ直伝だから、そこだけは覚悟してね。グレイヴって頑固なだけじゃなくって物凄く厳しいからね」
ルルが笑えば皆も笑う。
幼いころから竜に乗って飛ぶことを学んできたルルは、一年生にしてはあり得ない実力を持つ。それは本来ならば、すぐに竜騎士になってもおかしくないほどのものだ。
けれど、一年生たちはそんなルルを認め、特別枠に置くことなく、自分たちも追いつくのだと、追いついて見せるのだと、そう宣言をした。
既に今年の一年生は成績がいいと言われているが、実はここからこの学年の伝説は動き出す。
この学年は何かが違う。
そう言われ始めるのも、もう間もなくのことだった。
「さて、来週から試験が始まるぞ。そしてその後は冬の休暇、前期の休みとなる。勉強もそうだが、退寮の手続きや、戻る日の日程もあらかじめ申請しておくように。遠い者は余裕をもって日時を決めろよ。騎士としての基本、時間厳守を忘れないようにな」
「「「はい」」」
一年生前期の試験がもうすぐ始まる。
これまでの基礎学科はもちろん、竜騎士には飛行の実技や、剣の扱い、そしてその他の武器の扱いなど、数多くの試験があるため、試験期間は一週間になる。
あまり気負い過ぎて本番に疲れ切っている状態でもいけないが、かといって力を抜きすぎてもパフォーマンスを発揮できないだろう。己の体調を見つつ、すべての試験を万全の状態で乗り切る。まずはそこからだった。
「最初の二日間が学科、残りの三日が実技だ。徹夜をして熱を出すなんてことはないようにしてくれよ。自己管理も一つの課題だと思ってくれていい」
「「「はい」」」
ガイウスの言葉に皆が頷く。
一夜漬けなどする者はいないと思うが、今はただでさえ寒い時期。はやり病にも気を付けなければと、皆気合を入れていた。
「ねえ、ルル、勉強会をしませんこと? 得意な科目を教え合えば一年生の学力は上がると思いますわ」
「うん、いいね! あ、でも、場所どこにする?」
「図書室に勉強できるスペースがあったよね? そこがいいんじゃないかな?」
女の子三人でそんな風に盛り上がっていると、ノアが近付いて来て「僕もいいかな?」と声を掛けてきた。もちろんと答えていると、その後もハルトやエド、それにディーンもレオンもカイルも参加することとなり、結局一年生全員で図書室へ向かい、勉強することとなった。
試験はもう間もなく。
仲間でもありライバルでもある一年生だけど。
それでも皆友達。
前期の親睦ですっかり仲が良くなり、竜騎士団と同じようなまとまりのあるチームになりつつある一年生たちの未来は、明るい道が広がっているようだった。
おはようございます。
本日もよろしくお願いします。




