学園祭巡り
学園祭二日目を迎えた。
昨日の初日、ルルたち一年生が行う模擬店「喫茶店」は大盛況で幕を閉じた。
休憩時間やグループ分けを前もって決めていたけれど、残念ながらその通りにいくことはなく。
合間を見て休める者が一人ずつ、各自少しだけ休憩を取るという手際の悪さになってしまった。
これはある意味仕方がないことだった。
ここ数年の来客数を参考に来店数を想定していたのだが、嬉しいことに想定を上回る人数のお客様が来校してくれたことが、まず一つ目の原因だ。
そして喫茶店という、未来の竜騎士が接客をしてくれるという売り。
その上、貴族の子息が多くいる竜騎士学校の生徒による接客だ。
さらに今年は可愛い女性竜騎士の卵が三人もいるのだ。
行ってみたいと思わせる要素がたっぷりと重なり。
ルルたちはてんやわんやで一日目を終了した。
そして今日は二日目。
流石に昨日ほどの行列はできてはいなかったが、それでも一年生の喫茶店に来てくれるお客様は多い。
けれど大丈夫。怒涛の一日目という試練を乗り越えた一年生たちは、本物の喫茶店の店員にも負けない手腕を発揮できるようになっていた。
特に成長が著しかったのがカイルだ。
最初がお茶も入れられない状態だったため、そう見えるのかもしれないが、笑顔も作り笑いではなくなり、所作もカチカチギシギシしたものではなく、流れるように優雅なものへと変わっていた。
「何名様でしょうか?」
笑顔で来客人数をカイルが尋ねれば、本物の王子様が目の前に現れたのかと、声にならない悲鳴を上げる女性客も多い。テーブルへ案内される間、女性客の視線はカイルに釘付けで、目がハートになっているようにも見えた。
(カイル、やればできるじゃん!)
どうせならばそう声を掛けて褒めてあげれば良かったのだが、忙しい中なのでルルは心の中でだけ褒めるに留めた。そのため、ルルの中でちょっとだけ株が上がったことに、残念ながらカイルは気づくことはなかった。
「ねえ、ノア、一緒に休憩に行こうよ。あとは私たち二人だけだし」
「えっ? 僕? え、ルルと二人で? でも……」
順番に休憩を取る中で、ルルとノアが最後に残った。
もうお昼もだいぶ過ぎた時間。
合間に少しだけ食べ物や飲み物をつまんだりはしていたが、それでもゆっくりと休めてはいない。
ルルは客足が落ち着いていることを確認し、ノアに声を掛けた。
だけどノアは何故かエドやカイルの様子を確認し、本当に離れて良いのかと心配そうな顔をする。
きっと頑張りすぎなエドと、一番頼りないカイルが心配なのだろう。
だけどディーンやクラリス、ミアもいるから大丈夫。
ルルはそう言ってノアの手を取った。
「今行かないとチャンスがなくなっちゃうよ。三時を過ぎるとまた忙しくなると思うし、それにセドリック先輩の研究、見たくない? 一緒に行ってみようよ」
「行く!」
普段は大人しいノアだけど、実はあのセドリックに密かに憧れていることをルルは知っていた。
勉強が好きなノアは、セドリックの我が道を行く研究への姿勢を尊敬し、あんなふうに自由に好きなことに打ち込めたらと憧れているようだった。今回の学園祭でセドリックの研究を見たいと、そんな言葉を零しているのをルルはちゃんと聞いていたのだ。
なのでノアと手を繋ぎ、一直線にセドリックの研究が展示されている教室へ向かう。
ノアは小柄でエドよりもさらに五センチぐらい背が低く、ちょっとリオと一緒に遊んでいるような、そんな懐かしい気持ちになれた。
「セドリック先輩、こんにちはー」
「あれぇ? ルルちゃん、来てくれたんだ」
「ルルちゃん、いらっしゃい。今日は学園祭を回れたのねー」
セドリックの教室へ行くと、当然のごとく婚約者のエミリアもいて、二人きりの教室で仲良く待機していたようだ。残念ながらセドリックの研究は一般の生徒たちには興味を持たれにくいものだったようで、集客はあまりなく、室内は賑わっているとは言えなかった。
「ふっふっふ、実は今年はね、竜の糞について発表したんだ。ほら見て、これが僕の竜ライズの糞の図だよ。綺麗でしょう」
「「……」」
セドリックの説明では、竜の糞を毎日調べ、健康状態を観察したそうだ。
けれど研究の終盤には、ライズはストレスでそれどころではなくなり、セドリックは近づくことをしばらく禁止されていたため、直近の結果は取れていない。
それでもこの研究は素晴らしいと、王城の竜研究家に褒めてもらえたようだ。
確かに竜の健康は国にとってもとても大事なため、セドリックの研究がどれだけ価値のあるものかはルルにだって分かる。分かるけれど、それでもやはり学園祭には向かないものだなぁと、ルルは苦笑いになった。
「あ! エミリア先輩の研究もあるんですね。この瓶は香水? あ、竜の好きな香りって前に言ってたやつですか?」
瓶を手に取りエミリアへ問いかけると、エミリアはクスクス笑いながら首を横に振る。
なんだか嫌な予感がしてルルがその瓶を見てみると、『ライズ健康時の香り』と書いてあった。
瓶を開けて香りを嗅ごうと思ったルルは、そこで止める。
これから屋台を巡ろうと思っていただけに、食欲を失うことだけはしたくなかった。
「セドリックに頼まれて、ライズの香りを再現したのよ。本物の香りじゃないけど、かなり近づけられたと思うの。王城の研究者の方も興味を持ってくださったのよ」
エミリアが可愛く笑うけれど、ルルにはその香りを確認する勇気はない。
王城の研究者の人たちもまた、竜に対して熱心で凄いのだなと、「さすがエミリア先輩ですね」と褒めながら、ルルの顔には苦笑いが浮かんでいた。
「あの、セドリック先輩……今度、いえ、来年の研究、僕にも手伝わせてもらえませんか?」
「えっと、君はノア君だっけ? 君も研究に興味があるの?」
「いえ、僕は研究そのものよりも、こういった数値を集めることが好きなんです」
「へー、それは嬉しいな。良い助手ができるって喜んでも良いってことだよね?」
「はい! グラフとか作るのも、比率とか計算するのも得意なので、任せてもらえれば嬉しいです!」
ノアの言葉を聞き、セドリックはニコニコといい笑顔になった。
研究は大好きで、調べることも好きなセドリックだけど、最後の書類仕事はあまり好きではなかったらしい。
数値を出すところまでは良いのだが、その後、一般の人にも分かるようにまとめるのが面倒だったらしい。良い子を紹介してくれてありがとうと、何故かルルまで褒められてしまった。
可愛いノアがセドリックみたいなちょっと変わった人になるのは少し心配だけど、相棒にストレスを与えるようになったら、友人として全力で止めようと決めたルルだった。
「ゴードンさん、焼き鳥二本ください」
「おう、ルル、ノア、買いに来てくれたのか? ありがとな。よーし、おまけしてやるぞ。飲み物、好きなのを選べ。俺のおごりだ」
「わーい、ありがとうございます。私、オレンジジュースで」
「あ、ありがとうございます。僕はリンゴジュースでお願いします」
「はいよー」
セドリックの研究室を出たルルとノアは、行きたかったゴードンの屋台へそのまま向かった。
ゴードンの焼き鳥屋は毎年恒例の屋台のようで、竜騎士らしき人の姿もあり、「ゴードンさん、会いに来ましたよ」と声を掛けている者も多くいた。
渡された焼き鳥は、ルルの知る焼き鳥とは違い、大きくスペアリブのようなものだった。
時間短縮のため、下処理を事前に行い、屋台では表面をあぶる程度にしているのだろう。
柔らかくて美味しくて、また食べたくなる味。
これは毎年恒例になるはずだと、ルルも納得の美味しさだった。
「あ、ノア、ほっぺ汚れてるよ。ほら、こっち向いて拭いてあげるから」
「えっ……?」
リオを相手にしているように、ノアの頬をハンカチで拭いてあげると、ノアの顔は真っ赤になった。
小さく見えても同級生。流石にルルに頬を拭かれたのは恥ずかしかったようだ。
「ル、ルル、ありがたいけど、僕、自分で拭けるから……それより、みんなにそんなことしてるの? それ、かなり危険だからね。好きな人にしかしない方が良いよ」
「うん、だからノアのほっぺも拭いたんだよ」
「へ?」
「私、クラスのみんなのこと大好きだもん! だから危険なことなんてないでしょう? 本当のことだしねー」
「……うん、そうだね……まあ、大丈夫だよ、僕は勘違いもしないし、色々と分かってるからね……」
「?」
お肉を食べながら、ノアはぶつぶつと何かを呟き出した。
やっぱり研究が好きな人はちょっと変わっているんだろうなと思いながら、ルルもお肉にかぶりつく。
(来年もゴードンさんのお肉は絶対に食べよう!)
ノアと横並びに座り、美味しいねと相槌を打ちながら、満足する学園祭巡りを終えたルルだった。
おはようございます、夢子です。
本日もよろしくお願いします。
ノアは小さくて細く太れなさそうな体型です。
これから背が伸びる予定ですが、ルルたちとさほど変わらない程度で伸び終わると思います。
そこは作者にも分かりません。w




