学園祭
遂に学園祭の日を迎えた。
校長先生の開会の挨拶が終わると、一年生は与えられた教室へ向かい、喫茶店開店の準備を行う。
女子生徒は騎士学校をイメージした紺色のワンピースに白いエプロン。何となくメイドのような服装で、シュガーベルに憧れがある女子たちは大満足だ。そして男子生徒はベストスタイルに騎士学校のネクタイを締め、執事風に装っていて、みんなカッコいい。
そして普段は偉そうなカイルには、今日は優しい接客を心がけてもらっている。クラリスにしっかりしごかれたので、大丈夫だと信じたいところだ。
「みんな、準備は良い? お店開けるよ?」
「「「おう!」」」
皆の勢いある返事を聞き、ルルは安心して店のドアを開ける。
すると、そこにはすでに多くのお客様が並んでいて、ルルは驚いた。
(うわぁー、凄い、シュガーベルの行列みたい!)
竜騎士はこの国では憧れであり、人気の職業だ。
当然、竜騎士学校も人気があるわけで、将来の竜騎士たちに会えるこの日を街の人たちは楽しみにしているようで、朝から校門前に並ぶのが、毎年の恒例風景なのだそうだ。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
ルルが笑顔で最初のお客様に声を掛けると、嬉しそうな笑顔で「三名」と教えてくれる。
そして一番最初のお客様は、接客が上手なエドが席へ案内し、メニュー表を渡す。
「お菓子はマフィン、クッキー、フロランタンの三種類、お飲み物は紅茶、コーヒー、オレンジジュースの三種類からお選びいただけます」
村のお祭りの出店に慣れているエドは、スムーズに商品の紹介を行っている。
そんな様子に安心しながら、ルルは次々とお客様を案内していった。
「お、お茶を、お持ち、致しました……」
あれほど練習したけれど、やっぱり初めての接客は緊張するらしく、ぎこちない手つきと言葉で、どうにかカイルは接客をこなしている。
(カイル、頑張れ! きっと一時間もすれば慣れるよ! たぶん……)
希望的観測のもと、クラリスのあの特訓を乗り越えたカイルならば大丈夫とルルは信じ、次々とお客様を案内し皆に分配していく。
もし集客が物凄いことになったら、一組の滞在時間は三十分以内にしようね。
そんな強気な冗談は、本当になってしまった。
お客様には申し訳ないが、時間で区切らせていただきますと伝えると、皆いい方たちばかりで誰も嫌な顔をしなかった。
「他も見て回りたいから大丈夫よ。喫茶店、頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
そんな優しいことを言ってもらい、ルルは笑顔でお礼を返す。
この竜騎士学校は、多くの人に見守られている。
竜騎士は街の人に愛されている。
この学園祭は、それを実感できる良い機会になったと言えた。
「やあ、ルル。凄い繁盛しているではないか。頑張っているな」
「わっ、アルフレッド先輩! 来てくれたんですか?」
三年生のキャプテン、アルフレッドが友人と喫茶店に顔を出してくれた。
個人的な研究発表や模擬店を行う上級生はとても忙しい。
その上、最終日には竜騎演技を行うことになっているため、尚更だ。
そんな中でも一年生を気にしてくれるアルフレッドは、とても頼りになる先輩だと思う。
ルルもいずれは、後輩や仲間から頼られるアルフレッドのような人になりたいと願ってしまう。
「先輩、どのメニューにしますか? マフィンは私が作りました。クッキーはミアとエドが、フロランタンはディーンが作ったもので、プロに負けない味ですよ」
「ああ、ルルが作ったあのマフィンか。じゃんけん大会で負けて食べられなかったからな。俺はそれにしよう」
「じゃんけん大会?」
「ああ、まあ、そこは気にするな。お茶はコーヒーで頼むな」
「はい!」
残りの先輩たちはクッキーとフロランタンを選び、三人でシェアして食べるようだ。
仲が良さそうな三人の姿にほっこりしながら、次のお客様を受け入れる。
すると、部屋の入口にハマりそうなほど大きな体格の男性が入って来た。
「お兄様!」
「ああ、クラリス、頑張っているようだな」
クラリスそっくりなお兄様は、とても綺麗な淡い金髪に紫の瞳を持ち、神秘的な顔をしている。
だけど、その体格は本当にクラリスが言っていた通り、ゴリラそのもののマッチョさだ。
服の上からでも分かるほどの上腕二頭筋は、今にも袖がはちきれてしまいそうで、ルルは思わずその腕の太さに見とれてしまった。
「お兄様、来てくださったのね」
「ああ、父上も母上も顔を出したがっていたからな、代わりに私が来た。あの二人と違って若手の私は休みの申請も通りやすい」
「ありがとうございます、お兄様。ウフフ、凄く嬉しいですわ」
そう言ってクラリスは兄に抱き着く。
クラリスの細さだと、ギュッとされたら背骨が折れてしまうのではないかと心配になったけれど、そこは兄妹、慣れているのだろう。ルルの心配は杞憂に終わり、ホッとする。
すると、そんなマッチョなクラリスのお兄さんの肩をポンと叩く強者が現れた。
「レオニス、妹さんには会えたようだな」
「レオニス、妹が心配だからって先に行くなよ。ちゃんと俺たちにも紹介してくれよなー」
淡い紫色の髪をした男性と、明るいオレンジ色の髪をした男性が、クラリスの兄レオニスに気軽に声を掛ける。
その仲の良さからして、友人なのだろう。
クラリスの兄は竜騎士だと聞いていたので、ルルの心は(もしかしてこの二人も?)と期待で高鳴った。
「レオニスの妹さんだね。アルノー・グランツだ。年齢は一つ上になるが、レオニスとは隊が同じ、竜騎士だ」
「俺はアレン・クロフォード。レオニスとは同級生だよ。よろしくねー」
「まあ、グランツ様、クロフォード様、兄がいつもお世話になっております。ようこそお越しくださいました。お席に案内いたしますわね」
やっぱりこの二人も本物の竜騎士だったようで、ルルは思わず三人の行方を追ってしまう。
そして、それは他の生徒たちも同じだった。
自分たちの未来の姿が、今、目の前にある。
仕事をしながらも、教室にいる生徒たちの視線は三人へと集まっていた。
「クラリス、お勧めは何だい?」
「お兄様、もちろん全部、ですわ」
そう言いながらクラリスはお菓子とお茶の説明をし、レオニスたち三人は三種類のお菓子と、クラリスが得意な紅茶を頼んだ。
そして「美味しいよ」と言って、お菓子もお茶も綺麗に平らげてくれる。
最後に紅茶を飲み干すと、レオニスはクラリスに声を掛ける。
「クラリス、この前お世話になった友達を紹介してくれるかい」
この前とは、きっとクラリスの婚約者、ルシアン・エヴァンスとのことだろう。
ハッキリ言わないのは、この場が人の多い場所であることと、クラリスを気にしてのことだとルルは思った。
「お兄様、私の友人、ミア・ベルナードとルル・ヴァルドですわ」
「君たちが、クラリスの友達か。仲良くしてくれてありがとう」
「はい、初めまして、ミアです。あの、私の方がクラリスさんにお世話になっていますから……」
「お兄さん、初めまして、ルルです。クラリスのこと、優しくて大好きです。だから仲良くなるのは当然なんです」
ミアとルルが挨拶をすると、レオニスから「この子が」と小さな呟きが漏れる。
多分、ルルのことを言っているのだろうけれど、ルルには聞こえないほどの音量だった。
「そうか、二人ともありがとう。君たちのような友人が居てクラリスは幸せ者だな。それと年明けには、毎年一年生が王城の竜騎士団へ顔を出すんだ。その時にまたみんなに会えるだろう。クラリスのことを、これからも頼むな」
「「はい」」
レオニスにそう声を掛けられルルとミアは笑顔で頷く。
妹想いの兄、レオニスは、どこまでもカッコよく優しい人のようだ。
「クラリスのお兄さん、カッコいいよねー」
あんなお兄さんが欲しかったと、ルルの心の中は叶わない羨ましさでいっぱいだ。
そんなルルの言葉を聞いて、クラリスが揶揄ってくる。
「まあ、そうですの? でもルル、ダメですわよ。兄には婚約者がいますから、アプローチは受け付けません」
「えー、そうなのー? ざんねーん、大きな魚を逃がしちゃったなー」
アハハハと笑い合う女の子三人。
その会話に耳を傾けていた男子二人は、レオニスに婚約者がいてよかったと、ホッと息を吐いていた。
こんばんは、夢子です。
遅くなりました。
朝投稿しようと思ったら、修正が中途半端なままでした。
本日もよろしくお願いいたします。




