学園祭の準備
ルルたち一年生は学園祭で使う食料品の買い出しのため、今クラス全員で街へ出ていた。
学園祭では学園に品を下ろしている商会へ発注すれば簡単に食材は手に入る。
けれどその商会を使わなければいけないという決まりはないため、ルルたちは親睦も兼ねてミアの両親が営む店へ足を運んでいた。
「ウチは下町にある普通のお店だし、別に面白いものは何も無いのよ」
ミアは照れたような、少し困ったような様子で答えたが、田舎出身のルルやエドは『王都のお店』というものに興味があるし、貴族出身の子供たちは『下町の店』というものに興味津々で、ミアの実家のお店に行くことは全員一致で決まったと言える。
特にディーンは乗り気で、自分の知らないお店を見てみたいと、新しい食材が見つかるのではと、楽しみにしていた。なのでこれは女子の圧に負けて決まったことではない。
その証拠に街へ出た男の子たちの顔には楽しげな笑顔が浮かんでいて、「あれはなんだ?」とミアに色々と聞いていて、心から喜んでいるようだった。
「えっと、あそこが私の実家……ベルナード商会です」
辻馬車に乗り、王都の南にある下町の商店街へ向かうと、大きな三階建ての店をミアが指さした。
ミアはお金がかからず学べる場所を探し、竜騎士学校へ入学したが、店の構えや賑わいを見れば、そこまで困窮しているわけではないと分かる。
だけどミアは十人兄弟の長女。
下に弟や妹がたくさんいるとなれば、学費に戸惑うのも分かるし、優しいミアならば色々考えて結論を出したことも目に浮かぶ。ミアらしい行動に納得しながら、ルルはベルナード商会の外観に目を奪われる。
「うわぁ、ミアの実家のお店、凄く可愛いねー」
「本当ですわ、日用品のお店だと聞いていましたけど、雑貨屋さんでもおかしくない可愛らしさですわね」
「えっと、ありがとう、その……お父さーん」
褒められるとミアは頬を染め、店の中へ駆け込んでいった。
そんなミアが新鮮で可愛くて、ルルとクラリスはくすくすと笑ってしまう。
「ミア! どうした? 学校で何かあったのか?」
竜騎士学校へ通う娘の突然の登場に、ミアの父が驚いた様子を見せる。
「う、ううん、違うよ。あの、学園祭で使う品の買い出しに来たの。みんながウチの店に来てみたいって言うから……」
「ああ、そうか、そうなのか、学園祭、もうそんな時期なのか。ああ、いいよ、いいよ。それに光栄だね。じっくり見て決めなさい。それに多少はおまけもするからな」
「うん、お父さん、ありがとう」
父親と話すときのミアは学園にいる時よりも少し幼く見えて可愛い。
それに父親にも甘えている様子で、頭を撫でられて喜んでもいる。
家族仲の良さが分かる様子を見守りながら、ルルたちもミアの父親へ「よろしくお願いします」と頭を下げた。
「それで、何が必要かな? 量も決まっている範囲で教えてほしいが……」
「はい! ミアさんのお父さん、これを見ていただいても宜しいですか?」
普段大人しいディーンが元気に手を上げ、ミアの父親の傍へ寄っていく。
学園祭ではルルの得意なマフィンとクッキー、そしてフロランタンを作ることに決まった。
料理が好きで気合の入るディーンは「○○領で作られた小麦粉と、○○領のバターはありますか?」と産地の名前付きでミアの父へ問いかける。
一日の販売数による必要な食材の量も計算してくれたのはディーンだ。
いつもカイルの後ろで申し訳なさそうな、怯えたような様子を見せていたディーンだったけれど、人は変われば変わるもの。別人のようにシャキシャキと取り仕切ってくれた。
「ディーンってカッコいいよね」
「分かりますわ、いてくれるだけで心強いですもの」
「普段大人しいから、尚更こういう時に素敵に見えるよね」
女子三人からの株が爆上がりなディーンだけれど、ミアの父と相談中のため、それには気づかない。
ただ他の男子生徒たちにはしっかりと女子三人の話は聞こえていて、ちょっとだけ嫉妬の視線がディーンへ向けられていた。
「よーし、食材もそろったし、試作品を焼いてみよう。ルルはマフィン担当、エドとミアはクッキー担当。それで僕がフロランタン。他の皆はクラリスを中心にお茶を淹れる練習ね。美味しいものが出来るように頑張ろう!」
「「「うん」」」
ミアの店で注文を終え、練習用の食材だけ持ち帰った一年生たちは、学園の食堂の空いている部分を借り、お菓子作りの練習と、お茶を淹れる練習を始めた。
すっかりチームの中心となったディーンの声掛けに従い、各自練習や試作を行う。
ルルは母に教えてもらったレシピ通り、手際よく作業を進めていき、その横ではミアとエドも、分量をきちんと量り、何種類かのクッキー作りに挑戦している。
だがそんな三人の前で、料理人そのものの手際を見せるのがディーンだった。
慣れた手つきで生地を伸ばし、綺麗な四角形を作り上げる。
そしてキャラメルアーモンドを作り、生地の上に均等に並べていく。
ルルは手を動かしながらもディーンの手元に夢中だ。
素早いだけでなく手の動きに無駄がなく、ディーンはプロの料理人と言えるほどの腕前だった。
「ディーン、凄いね。竜の料理を研究したいって言ってたけど、その意気込みが分かる。すぐにでも竜専用の料理人になれそうだよね」
焼き上がるお菓子を待ちながら、ルルがディーンに話しかければ、ディーンは照れたように笑う。
「ありがとう。実はさ、この前、僕の竜フレアに初めておやつを作ってあげたら凄く喜んでくれたんだ。もしよかったらルルの相棒にもお菓子作るから、様子を教えてくれないかな?」
「えっ? いいの?」
「うん。その子によって好きな味がちょっと違うと思うし、好みを聞いて、その子が喜ぶものを作ってあげたいんだ。そうすればご褒美が出来て、竜も喜ぶと思うし、仕事や訓練も頑張れるはずだからね」
「うん、私もそう思う! ディーン、凄いよ。私、そういうとこ、尊敬しちゃうな!」
竜好きなルルは竜を想うディーンの気持ちが嬉しくて、感動して、思わずディーンの手を握り、凄い凄いと褒めちぎる。すると「ゴホンッ」「ゴホンッ」と二つの咳払いが聞こえた。
一人はエドだ。
ディーンの手を離せ、迷惑をかけるなと、その目が言っている。
ディーンは貴族の子供。
だからエドは不敬になると注意をしてくれたのだろう。
そしてもう一人はカイル。
親友のディーンとライバルであるルルが仲良くしているのが許せなかったらしい。
酷い目つきで睨んでいて、ハンサムが台無しだ。
そしてそんなカイルの様子にディーンは真っ青になってしまって、ルルは「ごめんね」と謝りながらディーンの手を離した。
「ルル・ヴァルド、私の淹れたお茶を飲んでみろ。きっと驚き感嘆するはずだ。私はお茶の淹れ方をもう覚えたからな」
「へー、そうなんだー……じゃあ、お菓子も焼けたし、みんなで試食しようか。お茶はカイルに入れてもらってさ」
クラリスへ視線を向けると、疲れ切った様子だった。
キッチンには使ったお茶の葉がこんもりと積まれていて、どれほど失敗……いや、練習したのか分かる状態だった。
カイルは胸を張り、皆のためにお茶を淹れ始める。
ちょっと危なっかしくって、茶器を壊してしまいそうで、ルルは見ているだけで心臓がどくどくとひどい音を立てたが、そんなことも知らずにカイルはどうにかお茶を淹れることができた。
ちょっと色が濃い気もするが及第点。
飲めないことはない見た目だった。
「さあ、皆、疲れを癒すために飲むがいい。この私が初めて人に淹れたお茶だ。味わって飲め」
「……うん、カイル、ありがとう。みんな休憩しよう、お菓子の感想も聞かせてね」
ドキドキしながらカイルの淹れてくれたお茶を飲む。
少しだけ渋いけれど、飲めないことはない味だ。
クラリスの苦労が分かり、涙が出そうだった。
レオンは器用でそつなくお茶の淹れ方を覚えたけれど、カイルは不器用で茶葉を零したり、お湯を零したりと色々大変そうな様子がルルにも見えていた。
なのでクラリスのお皿には少しだけ多くお菓子を乗せたのだけど、クラリスにはその想いが伝わったようで、ルルへ向けニコリと笑ってくれて、「私、頑張りましたでしょう」と言っているのが分かるようだった。
「カイル、凄いよ、飲める! このお茶、ちゃんと飲めるよ!」
「お? おお……?」
ルルの大絶賛を聞き、カイルが微妙な顔をする。
褒められているのか? と困惑気味の顔ともいえるものだ。
「カイル、お疲れ様。こんな短時間でお茶を淹れられるようになって凄いね。クラリスが頑張ったんだね」
「ま、まあな……?」
ミアにも褒められたのだが、カイルは何故か疑問形の答えだ。
それも仕方がない。感動で泣きそうなミアの視線がクラリスへ向いている。
それに頷く他の生徒たちも視線はクラリス一直線。
クラリス凄い!
それが正直な生徒たちの心の声だった。
「お菓子も美味しく焼けたし、学園祭、楽しみだねー」
ルルの言葉に、順調に準備を進める一年生皆が頷いたのだった。
こんにちは、夢子です。
本日二話目、お昼に投稿してみました。
皆さん忙しいかしら。
読んでいただけると嬉しいです。




