エドの夢
「エド、エマとアルベルトにも合格の報告に行ってらっしゃい。きっと喜ぶわ」
王立アストリア竜騎士学園の合格通知を受け取ったエドは、ルルの母ミレイユの言葉に「うん」と元気よく返事をする。
エドが竜騎士になる夢を持ち始めたころから、両親も弟もずっと応援してくれていた。だから合格できて、その期待に報いることができて正直ホッとしている。
それにルルの家族もエドを応援してくれて、本当の娘であるルルと変わらない指導をしてくれた。
エドはそこにいるヴァルド家の家族に向かって頭を下げた。
「じいちゃん、おじさん、それにミレイユおばさんも、俺が竜騎士になりたいって夢を応援してくれてありがとう。俺、絶対に頑張るし、ルルのことも守るって約束します」
「まあ、エド……頑張ったのは貴方じゃない。私たちは見守ることしかできなかったわ」
「そうだ、エド。君はグレイヴの世話も進んで手伝ってくれた。それにルルのこともいつも守ってくれている。私たちは君を頼りにしているよ」
「おじさん、おばさん、うん、ありがとう。俺、これからも頑張るね」
「ああ、エド。おまえはルルと同じ、儂の弟子で孫だ。だから胸を張って竜騎士学園へ行け。まあ、ついでにルルの無鉄砲さを止めてくれると嬉しいがな」
「はい! 任せて下さい!」
「もう! おじいちゃん酷い! 私、無鉄砲じゃないもん!」
ルルの突っ込みで、室内は笑いに包まれる。
緊張気味だったエドにも笑顔が戻り、もう一度深くヴァルド家の家族に頭を下げる。
そして自然とルルと手を繋ぎ、外へ向かって駆けていく。
「ねえ、エド、おじさんもおばさんも、きっと驚くね」
「ああ、リオは叫ぶかもしれないぞ」
「アハハハ、そうだね。リオならすご~いって叫びそうだよね」
弟のリオが叫び出し、喜ぶ姿を二人で想像しながら、ルルとエドは笑い合ってハーヴェル家へ向かった。
「母さん、いるー?」
「おばさん、おはようございまーす。おじゃましまーす」
二人はいつものようにハーヴェル家へ入り、エドの母エマがいそうなキッチンへ向かった。
「エド! お帰りなさい。結果はどうだったの?」
「えへへ、受かった! 受かったよ母さん! ルルも俺も受かったんだ! 俺たちもうすぐ竜騎士の卵だ!」
「まあ、エド! 凄いわ!」
洗い物をしていたエマは手を止め、エドを抱きしめる。
その目には少しだけ涙が浮かんでいた。
竜騎士はこの国のエリート。
そもそも竜に認められなければ、どんな家格の者であっても竜騎士にはなれない。
そのため竜騎士学園の学費は免除されている。
毎年多くの者が受験するが合格率はとても低く、入学生は少なければ十人以下、多くても二十人に届かない。
竜騎士を祖父に持つルルはともかく、エドは合格できるか分からないとエマは思っていた。
なにより、竜騎士になりたいと努力してきたエドの姿をずっと見てきた。
だからこそ、その夢が叶ったことが嬉しくて、涙が出てしまうのも仕方のないことだった。
「母さん、父さんは?」
ルルの前だからか、少し恥ずかしそうにエマから離れ、エドは問いかける。
そんなエドの頬に優しく触れ、エマは涙を拭って微笑んだ。
「もう仕事に出たわ。お父さんへの報告は帰ってからね。でもリオは庭にいるから、教えてあげてちょうだい。きっと大喜びするわよ」
「うん。ルル、行こうぜ」
「うん!」
庭へ行くと、リオが家庭菜園の野菜たちに水をあげていた。
村では子供も大切な働き手だ。
神殿で開催される勉強会へ参加することもできるが、家事を手伝うことが優先される。
そんな環境の中、エドは竜騎士になりたいという夢を持ってから、努力を重ねてきた。
家で竜について学び、息をするように知識を身につけていたルルより、最初の一歩は遅かった。
それでも、エドは合格した。
ルルの祖父バルガスが、胸を張れと言うのも当然だった。
「リオ!」
「兄ちゃん、ルル姉ちゃんも!」
ルルとエドを見た瞬間、リオが駆けてくる。
その顔を見れば、二人が何の報告に来たのか、もう分かっているようだった。
「リオ、俺たち合格した! 竜騎士の卵になったぞ!」
「うわぁー! やったー、やったー! 兄ちゃんもルル姉ちゃんも凄い! かっこいいー!」
リオは飛び跳ね、全身で喜びを表す。
二人の弟分として、カッコいい二人が自慢でもあった。
「やったー! やったー! 二人とも竜騎士だー!」
リオはひとしきり喜ぶと、「友達に言ってくる!」と言って駆け出して行ってしまった。
残されたルルとエドは苦笑いし、菜園の野菜たちに水をあげる。
「フフ、村中に知られちゃうね」
「いや、リオが言わなくっても知られるだろう。竜騎士だぜ。隣村にだって伝わると思うぞ」
たったそれだけの会話でも二人は楽しくて、アハハと声を上げて笑い合う。
「私ね、エドは竜医師になりたいのかと思ってたんだ」
「ああ、まあ、そうだな……最初はそうだったかもしれないな」
最初にエドが興味を持ったのは、竜そのものだった。
ルルとは幼いころから知り合いで、ヴァルド家の竜の存在も当然知っていた。
けれど自我が目覚め、竜という生き物を理解し、大きな体を持つ竜を診るロイドの姿を見て凄いと感動したのも、その頃の話だった。
「じゃあ、なんで竜騎士を目指そうと思ったの? 竜のお医者さんだって、エドならなれたと思うよ」
「それは……」
ルルがグレイヴに乗っている姿が綺麗だったから……
そんなこと、今のエドが言えるはずがない。
ルルは幼いころからグレイヴに許されていて、五歳の頃には一人で竜を乗りこなしていた。
朝日に向かって飛ぶグレイヴと、その背に笑顔で乗るルルは、とても綺麗で目を奪われた。
今まで幼馴染で、自分の妹ぐらいの感覚でしかなかったけれど、その時確かにエドの胸は、どくんと大きく跳ねたのだ。
そして自分も竜に乗せてもらうのではなく、自分の力で乗りこなせる存在になりたい。
ルルのように空を駆ける力を自分も身に付けたい。
そんな憧れが、エドの中に芽生えた。
「ほ、ほら、俺はルルの兄貴分だからな。俺がいないとルルは何をするか分からないだろう」
「えっ? ちょっと待って、私がエドの姉代わりだけど? エドは私がいないと、まだグレイヴに乗れないじゃん。私がお姉ちゃん、そこは絶対でしょう!」
「いやいや、ちょっと待てよ。俺の方が誕生日早いだろう。俺が兄ちゃんだぞ」
「何言ってんの? 誕生日って二か月しか変わらないじゃん。そんなの誤差の範囲だよ。それに身長は私の方が高いし、見た目も私の方がお姉ちゃんでしょう」
「いやいや、身長って二、三センチしか変わんないじゃんか。俺は精神年齢の話をしてるの。ルルは首席って言葉も知らなかったし」
「そ、それは偶々でしょう! そういうところがエドって子供っぽいよね。全然紳士じゃないもん」
「紳士って何だよ。そんなこと言ったらルルだって全然淑女じゃないじゃんか」
いつも通りの言い争いをしながら、ルルとエドはどちらからともなくフッと笑う。
こんな風に遠慮なく言い合えるのも二人だからだ。
だから一緒に竜騎士学園へ行けることを、お互いに嬉しく思っていた。
「エド、絶対に竜騎士になろうね」
「当たり前だろう。卒業までに俺、ルルに勝つ成績を取るからな。待ってろよ」
「私だって負けないよ。それに竜も大事にするんだ。相棒だもんね」
「ああ、そうか。俺にも相棒ができるんだ! すっげえ! めっちゃ嬉しい。俺もやっと空が飛べるぜ! ルル、楽しみだ!」
「うん!」
祖父の竜グレイヴは、ルルが自分に乗って操縦することを許しても、エドが操縦することは許さなかった。
それは当然だ。
グレイヴにとってルルは孫同然。
だけどエドは、どんなに仲が良くてもグレイヴの家族ではないのだ。
竜のプライドはとても高く、自身を操る者を選ぶ生き物。
だから竜に乗るにはそれなりの覚悟が必要だ。
竜騎士試験が難しいと言われるのも、竜に気に入られるという、勉強ではどうにもできないものがあるからだった。
「入学までにもっと勉強しておかないとね」
「ああ、そうだな。入学したら落ちこぼれなんて嫌だからな。じいちゃんの弟子として胸を張っていられるように頑張らないとな」
「うん」
二人の頭の中は、もう竜騎士学園のことでいっぱいだった。
その後もずっと二人の話は続き、エマがお昼よと声を掛けるまで、庭での議論は続いたのだった。
もうあと三か月。
ルルとエドの旅立ちは、間もなくだった。
こんばんは、夢子です。
本日二話目です。
エドとルルの身長差は五センチ。
エドも強気の誤差を出しております。
そして誕生日はルルが五月、エドが三月と考えています。
今は六月、入学は九月です。




