初めての飛行訓練
今日は、竜騎士学校へ通いだしてから初の飛行訓練の日。
ルルのように自ら竜を操り空を飛んだ経験のある生徒などいないため、今日はまず竜の乗り方を習うのだが、それを知ってもルルの心は跳ねる。
やっと竜騎士らしい勉強ができる!
それだけで今日は一日ハッピーデー。
たとえ隣の席のカイルに睨まれようとも、今日のルルはまったく気にしない。
ルルの機嫌は人生最高潮と言えた。
「皆、ちゃんと着替えてきたな?」
「「「はい!」」」
「よし、今日は一年生初の飛行訓練だ。無理することなく、怪我のないように心がけろ、いいな!」
「「「はい!」」」
担任ガイウスの言葉に、ルルが一番大きな声で返事を返す。
ルルだって竜の初乗りの経験があるため、竜に乗り込むことがどれだけ危険かは分かっている。それにルルの飛行の師匠は祖父バルガスだけど、本当の意味で厳しい師匠は黒龍であるグレイヴだ。
竜騎士学校への入学が決まっても、ルルの飛び方はまだ荒い、激しい、乱暴だと口煩く言ってきたグレイヴのお陰で、ルルは慢心するところがない。
それに上空から落ちたらどうなるかも、ルルは十分に理解している。
なので一年生の中で、ルルが飛行の怖さを一番理解し、一番真剣に聞いているともいえた。
「さて、この中で竜に乗ったことのあるものはいるか?」
ガイウスの質問に、ルル、エド、カイル、レオン、クラリスの五人が手を上げる。
ルルとエドは当然、祖父の竜グレイヴに乗ったことがあるのだが、他の子たちも竜に乗る経験をしているようだった。
「先生、私は父の竜に乗せてもらったことがありますわ」
竜騎士の家系に生まれたクラリスが答えると、生徒たちが次々に自身の経験を答えていく。
「私は親族に竜騎士が生まれ、その者に乗せてもらいました。レオンも一緒です。素晴らしい飛行でした。あの時の空の美しさを私は忘れることはないと思います」
「そうか」
カイルから何故かドヤ顔を向けられてしまう。
竜に乗ったことのあるものはお前だけではないんだぞ。そう自慢しているような顔だが、ルルは全く気にしない。どんな竜に乗ったのかなぁとニコニコして話を聞いていた。
「皆の体験は分かった。ではその際、どうやって竜に乗り込んだのかを今度は聞かせてもらいたい」
「はい、私はまだ幼かったので、父に抱えられて乗り込みました。場所は王城の竜発着場ですわ」
「そうか、カイルは?」
「はい、私も同じく王城の竜発着場です。王家の方や両親が見守る中、大空へと飛び立ちました。あの経験はかけがえのない宝物です」
「そうか」
だからカイルは竜騎士を目指したのだろう。フンッと鼻で笑い、ルルを見る。
田舎者のお前には経験できないことだろうと自慢げだが、ルルにそんな気持ちが届くはずはなく、「良かったね」と温かい視線を受けるだけだった。
「クラリス、カイル、良く答えてくれた。だが、それは誰かに乗せてもらうときの乗り方だな。君たちを乗せた竜騎士はどうやって竜に乗り込んでいた? 覚えているか?」
「はい……父は私を抱えたまま竜ラダーを使って乗り込んでいたと思います」
「先生、私も同じです。竜騎士は竜ラダーを使っていました」
「うん、そうだな。王城の発着場ではそれが普通だろう」
ルルの頭の中で『竜ラダー=竜梯子』だと繋がる。
ルルの家に竜ラダーはなかったが、竜の勉強をするうちに、そんな便利な道具があることを知った。
グレイヴに一人で乗りたくて、坂道を走り一生懸命訓練をしたルルがちょっと馬鹿みたいだったけれど、どっちみちルルの家には竜ラダーなどなかったのだから、必要な訓練だった。はずだ。
「では聞く、竜ラダーがない場所で君たちはどう竜に乗り込む?」
ルルとエドが手を上げ答えようと思ったが、ガイウスに目で制されてしまう。
教科書に載っていない正解を、生徒たちに考えさせたいガイウスの前では、先を知るルルとエドは今は邪魔なようだった。
大人しく黙ったままでいると、「はい」とハルトが手を上げた。
「先生、我が家の領地はかなり田舎なのですが、そこで竜騎士が休憩していったことがあります。その時にロープのような道具を使って竜に乗り込んでいる姿を私は見たことがあります」
「うん、そうだな。それが竜アンカー。今の竜騎士たちが使っている道具で、一般には広められていないものだな」
ガイウスが自身のベルトについている、小さな丸い箱のようなものを取り出し、皆に見せる。
それは紺色で、銀色の線があり、少しだけ竜騎士学園の生徒のマントに似ている。
そしてガイウスがその箱についているボタンに触れると、細いワイヤーがシュンッと飛び出してくる。
竜騎士になってから知ることができる道具に、ルルは目を輝かせた。
「竜騎士はこれを使い乗竜できなければならない。ハルトの話の通り、外へ出たはいいが竜に乗ることができなくなっては本末転倒だ。それに竜だってずっと空を飛び続けられるわけではない。休憩が必要なことは必ずある。その度に竜ラダーの代わりになるものを探すわけにもいかない。そのため、一番初めにこの竜アンカーの使い方を学ぶ必要がある。竜騎士学校では最初から竜アンカーで乗り込ませるからな」
「「「はい!」」」
ニヤリと笑うガイウスに、皆が返事を返す。
竜に乗り込むことから難しそうだと顔を青ざめる者もいるが、ルルだけは違う。
竜アンカーって凄くカッコいい! と視線がガイウスの手元に向いていた。
「よし、ではそれぞれ竜アンカーを取りに来い。これは大事な命綱でもあるからな。毎日の点検を怠らないように。竜に乗り込む瞬間にアンカーが切れたらどうなるかは、皆簡単に想像がつくだろう。実際、昨年の一年生で事故が起きている。まあ、その者は退学して二年になることはなかったが、今年の一年生ではそんなことが起こらないよう、皆で声掛けを行ってくれ、いいな」
「「「はい!」」」
ガイウスが持つものと同じ、竜騎士学校の生徒が使う竜アンカーが配られる。
不備がないか中を確認し、皆がまずはボタンを押し、伸ばしたり引き寄せたりを訓練する。
そして全員が確実に動作できるようになると、学園の二階まで届きそうな高さのある鉄棒が並ぶ場所へと皆で移動した。
「よし、ではまずお手本を見せよう」
ガイウスがそう言った瞬間、竜アンカーがシュンッといい音を立てて伸びていき、背の高い鉄棒へシュルルと絡まった。
そしてガイウスはアンカーを出すと同時に走り出し、勢いよく飛び上がる。
アンカーの反動と、ボタンによる伸縮を使っての飛び上がりだろう。
ガイウスは高く飛び上がると、鉄棒を軽々と飛び越え、降りてきて皆の前で綺麗に着地を披露した。
その跳躍の高さや身のこなしは、ガイウスが元竜騎士だったと分かるもので、 ルルは先生カッコいい! と尊敬の目を向けたが、それは他の生徒も同じようだった。
「よし、では、最初に挑戦したい者はいるか?」
「はい!!」
「はい!」
ルルとカイルの挙手と声が重なる。
だけど、ちょっと早かったのはカイルの方で、ガイウスは最初にカイルを指名する。
「フンッ、ルル・ヴァルド、お前には負けないからな」
「うん、カイル頑張ってね。カッコいいとこ見れるって期待してるよ」
「ーーっ!」
応援しただけなのに、何故かカイルにまた睨まれてしまった。
耳まで真っ赤になっているので、きっと照れているのだろう。
ツンデレ属性を知るルルは、心の中でだけ、睨まなければかわいい子なのにと、そんな感想を持っていた。
「では、行きます!」
カイルは上手く竜アンカーを使い、上空に飛び上がる。
けれどガイウスのような勢いはなく、鉄棒に届かず降りてきた。
だけど着地はとても上手で、初めてのアンカー使いとは思えないものだった。
「うん、カイル、なかなかいいぞ。その調子で励めば、今週中にはアンカーを使いこなせそうだな」
「はい、ありがとうございます」
ガイウスに礼を言ったあと、カイルはルルへ視線を向け、どうだと笑って見せる。
ルルはその笑顔に頷き、良く頑張ったねと拍手を送る。
エドよりもちょっと年下、リオくらいの男の子だと思えば可愛いものだ。
ルルに自分の方が上だと示したかったのか、失敗したカイルの顔は酷いものに変わったけれど、ガイウスに「次はルル」と指名されたため、その顔には気づかないルルだった。
「じゃあ、行きまーす」
竜アンカーを使うのは初めてだけど、ルルには竜に乗るコツが分かっている。
いつもはグレイヴの竜尾を駆け上がって乗り込むルルだけど、祖父にはロープで乗り込む練習や、木を使って乗り込む練習もできるようになるまでさせられた。
どんな場所で、どんなことがあっても竜に乗れなければ竜騎士にはなれない。
祖父のそんな教えがあったため、ルルができないはずがなかった。
「よいしょっと!」
くるんと上手に鉄棒を飛び越え、ストンと軽い音を立てて着地をして見せれば、クラスの皆から「おお!」と歓声が上がり、拍手が送られる。
ルルの家にはグレイヴがいるので当然の結果だけど、やっぱり褒められれば嬉しくて、本心で「ありがとう」とお礼を言ったのだが、カイルだけには伝わらないようだった。
「うん、ルル、いいお手本だった。皆もあれぐらいはできるようになるまで練習するぞ。だが、まずは鉄棒に竜アンカーを上手く回せるようになるところからだな。皆、焦るなよ。何事も正しくできるまでは無茶は禁止だからな」
「「「はい!」」」
その後は一心不乱に練習に励んだ。
エドもすぐ竜アンカーに慣れ、その日の内に鉄棒を越えることができるようになったけれど、他のみんなはまだまだ時間がかかりそうだった。
「でも絶対に大丈夫だよ! みんななら必ずできるようになるよ!」
友を信頼するルルの励ましを聞き、「絶対に飛び越えて見せる!」と気合が入る一年生たちだった。
こんばんは、夢子です。
本日二話目。
少し話を進めたいので頑張ります。




