変人セドリック・フェルナン
歓迎会が明けた翌日。
週末で学園も休みのため、昨夜はっちゃけた生徒たちがまだ眠る中、ルルはいつものように目を覚ますと、作業着に着替え、相棒セレスのいる第三竜舎へ向かう。
セレスと会える、それだけでスキップしたくなるほど嬉しい気持ちだが、昨日新しくできた友人アレクシスを思い出すと、なんだか胸がくすぐったいような、不思議な感覚になる。
(王子様ってやっぱりカッコいいんだよねー。村の男の子たちとは全然違うよ)
村で一緒に育ってきた乱暴で悪戯が好きな男の子たちを思い出すと、アレクシスはその存在がもう異次元のように感じる。
立ち居振る舞いが綺麗で、大きな声で笑っても品を失わない。
それにルルへ向ける視線も優しく温かで、それでいてちょっとだけ両親のような甘さもあるような気がして、思い出すとちょっぴり恥ずかしい。アレクシスがカッコいいのがいけないのだと、ルルは照れ笑いを隠し、そんな納得をする。
(貴族でも立場が高いカイルはあんな態度なのに、アレクシスはやっぱり王族だから違うのかな?)
アレクシスとの楽しい会話を終えた後、ルルは約束していたエドとダンスを踊った。
エドとのダンスは元気いっぱいな楽しいもので、ちょうど歓迎会も盛り上がっていたので、心まで踊ったような気持ちとなった。
けれどその後、カイルに「仕方がないから踊ってやってもいいぞ」と、なぜか上から目線で言われたので、ルルは「遠慮します」とお断りを選んだ。
ちょうどチークタイムという甘い曲が流れる時間だったということもあるけれど、楽しい思い出の最後を、仲の良いとは言えないカイルと踊って終えるのが嫌だったのが一番の理由だ。
(カイルって本当に何を考えているのか不思議だよねー)
グレイヴと同じ頑固であってもやっぱりちょっと違う。
グレイヴからは優しさを感じるけれど、カイルにはそれがない。
常に上から目線。ルルが自分の言うことを聞くのが当たり前と思っているように感じてしまう。
カイルのことは同級生として認めているけれど、いつもいつも睨まれるので、あまり側に寄りたいとは思えない相手でもあった。
「セレス、おはよう。今日も綺麗だねー」
「ギャウ、ギャギャギャ」
「昨日の歓迎会? うん、楽しかったよ。でもセレスと踊れたらもっと楽しかったと思う。早くセレスと一緒に空を駆けたいな。その日が待ち遠しいよ」
「キュウ……」
私もよ、と言っているようにセレスが甘い声で鳴き、ルルは思わずセレスに抱き着いてしまう。
白く、日に当たれば銀に光るセレスの鱗。
ちょっとだけ冷たくて艶があり、その上、多くの人を魅了するほど綺麗で、ルルを惹きつけて止まらない。
「セレス、今日はね、学校お休みで時間があるの。背中の鱗を綺麗に磨いてもいい?」
「ギャウ」
「危なくないよ。私、背中に乗るの慣れてるの。だからセレスをもっと磨きたい。世界一の相棒だって、みんなに見せつけたいんだ」
「キャウゥ」
困った子ね、と言いながらもセレスは嬉しそうで、竜尾の先が少しだけ揺れているのを見ると、ルルまで嬉しくなってしまう。
「わー、凄いね、君、竜と話ができるんだー!」
「えっ?!」
セレスとの甘い時間を楽しんでいると、突然背後から声を掛けられ、ルルは驚いてしまう。
そんなルルに反応するように、セレスもその声の主の方へ向き、警戒を強める。
ルルに何かしようものなら踏みつぶすわよ!
女帝と呼ばれるセレスの怒気は物凄い迫力で、普通の人ならば尻込みしそうなところなのだが、その声の主は「うわー!」とまた嬉しそうな声を上げた。
「凄い、凄い、女帝が怒ってるよ! あのクールな女帝が! 君、あー、えっと、ルルちゃんだっけ? 女帝の相棒になってどれぐらい? 相棒になった時ってなんかした? もしかして竜の信頼を得るコツとか知ってたりする?」
早口で質問を投げかけられ、ルルの方が後ずさりしそうになる。
けれどセレスの前でルルが怯えた様子を見せれば、セレスが目の前の彼に攻撃を仕掛ける可能性もある。
竜尾の先をパシパシと地面に叩きつけるセレスに「何でもない」と見せるために、ルルは笑顔で早口な少年と向き合った。
「えっと、あの、貴方は?」
「ああ! ごめん、ごめん、自己紹介がまだだったねー。僕は二年のキャプテン、セドリック・フェルナンだよ。エミリアから君の話を聞いてたから、もう知り合いのような感覚だったよー。ごめんねー。それで、女帝とはどうやって仲良くなったの? ん? 何か上げたりした?」
「……」
銀色の髪に、緑の瞳の少年は、エミリアの婚約者セドリック・フェルナンで間違いない。
エミリアと一緒にいるところを何度か見たことがある。
三年生のキャプテン、アルフレッドは竜騎士そのものといった体型で、大人っぽく、逞しさを感じる人だったけれど、セドリックは背は高いが真逆の見た目で、細く頼りなく見える。
寮でチラリと見かけた時も、歓迎会や入学式など、学校で見かけた際も、何となく無表情で、何となく覇気がないような様子で、きっと落ち着いた人だろうと思っていたけれど、どうやらそれはルルの勘違いだったようだ。
今、目の前にいるセドリックはルルに興味津々。いや、セレスに興味津々、そんな感じだ。
ルルは(エミリア先輩、この人のどこが良いんだろう……?)と、ちょっと心の中で毒を吐きながら、セドリックの顔の前に、ストップの意味を込めて手を出した。
「えっと、セドリック先輩? でいいですか?」
「ああ、うん、呼び方なんて何でもいいよ。それよりさ、君、竜語できるの? 僕にも教えて欲しいんだけど」
「えっと、ちょっとすみません。質問止めてもらっていいですか? あの、私、今はセレスのお世話がしたいんです。セレスが先約。そのこと、分かっていただけますか?」
もしかして嫌みに取られてしまうだろうかと思ったけれど、セドリックはルルの言葉を聞き、ハッとすると頭を掻きながら「ごめん、ごめん」と謝ってくれた。
「ごめんね、僕さー、竜が好きで、気になることがあると他が目に入らなくなっちゃって、エミリアにもよく怒られるんだよねー、僕の良いところだけど悪いところでもあるって、エミリアって可愛いけどしっかりしてて本当に素敵な女性だよねー、エヘヘ」
エミリア先輩に怒られることはご褒美なのか、セドリックはデレデレした締まりのない顔で笑う。
ちょっと変わった人のようだけど、エミリアへ向ける愛情は間違いないようだ。
それに竜が好きという部分はとても好感が持てる。
きっとエミリアもそんなところが好きなのだろうと思えば、同じく竜を愛するルルとしては納得できる部分だった。
「じゃあさ、ルルちゃん、僕も掃除とか手伝うよ。そんで、お喋りしながら色々質問してもいい?」
「えっと、セレスが許すなら私は構わないですけど……セドリック先輩の相棒はいいんですか? 先輩が他の竜のお世話してたら、相棒が焼きもちを焼きませんか?」
「ああ、うん、普通そうなんだけどさー。なんか僕の竜、あんまり僕が近付くと疲れちゃうみたいで、授業以外のお世話は世話係に任せた方が良いって担任にも注意されてさー。朝こっそり竜舎の窓から様子を見るだけにしてるんだ。僕がいると食欲も落ちちゃうみたいでねー」
「……」
「キュゥ……」
セレスが気の毒そうに鳴く。
きっとセドリックの竜は、セドリックの愛情を一身に受けすぎて疲れてしまったのだろう。
竜は一人の時間も欲しがる生き物。
なのにセドリックに四六時中ベタベタとされれば、ストレスもたまる。
だけど自分が決めた相棒のため、深い愛情もある。
知能が高い竜だからこそ、人間のように悩む姿が想像できて、セドリックの竜に同情しつつも、世話係たちの判断は正しいものだったとルルは感じた。
「それでさ、ルルちゃんは竜の言葉が分かるの? セレスと話してるみたいだったけど?」
箒を持ちつつ、セドリックがさっそく質問を開始する。
見るからに力がなさそうな体型だけど、そこはやはり竜騎士を目指すだけあって力があるようで、テキパキと動いてくれる。
そんな姿に感心しながらも、ルルは「いいえ」と質問に答えた。
「ハッキリ言葉が分かる訳じゃないです。竜耳や、竜尾、それに目の動きとかで何となく言っていることが分かる、そんな感じです」
「おおお! 成程、そうなんだ! じゃあ、セレスとはどうやって仲良くなったの?」
「うーん、セレスとは心を通じ合わせて仲良くなったって感じかな? セレスがどんな気持ちか、何を嫌がって、何を悲しんでいるのか、傍に行って話しかけた? そんな感じでしょうか?」
感覚で生きるルルにはどう言っていいのか分からず、抽象的な答えになってしまう。
そもそも竜は言葉が分からない相手だ。聞こえてくる心の声が正しいかは分からない。
だけどルルがセレスをどれだけ好きか、心配しているか、そして一緒に空を駆けたいのか……それだけはちゃんと伝えられたと思う。
だからセレスもルルに心を許してくれた。そんな自信があった。
「いやー、竜って面白いなー。本当、知れば知るほど僕は竜を好きになるよ。たまんないよねー」
「はい、私もそう思います。竜って毎日違う顔を見せてくれるから、一緒に成長してるって感じられて、すっごく楽しいですよね」
「その通りだよ! ルルちゃん、分かってるー!」
その後もルルとセドリックの竜談義は続き、お昼の時間を迎えるころには仲良くなっていた。
セドリック先輩って面白い人だよねと、ルルの中で変人から面白い人へと昇格されたセドリックだった。
おはようございます、夢子です。
セドリック、やっと出せました。
エミリアとは相思相愛で仲良しです。
そして相棒はライズ。
大変気苦労の多い竜となっております。
鱗が剥がれた原因はセドリックの研究のせいだったりもします。w




