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竜騎士見習いルル~田舎娘は仲間たちと空を駆ける~  作者: 夢子


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夜会の準備

 新入生の歓迎会の日を迎えた。


 だけど歓迎会は夕方からなので、ルルは朝から竜舎へと向かい、新しくできた相棒セレスと挨拶を交わす。


 残念ながら新一年生はまだ飛行訓練をしていないため、朝の散歩の許可は下りていない。

 だけど、どうしてもセレスに会いたくて、作業着に着替えてセレスのいる竜舎へ向かえば、ルルが来たと分かったセレスが「キュウ」と可愛く鳴いた。


「セレス、おはよう。会いたかったよー」


 相棒認定されたので遠慮なくセレスに抱き着けば、周りにいたお世話係たちから一瞬「ああ」と心配するような声が上がる。けれど女帝にパートナーができたことは知られているようで、何もないことを確認すると離れていった。


 そんな様子を気にすることなく、綺麗な白銀の鱗を撫でていれば、セレスがその大きな舌でルルをぺろりと舐めて愛情を示した。


「ギャウギャ」


「うん、そうだよ! 私、セレスが大好き」


「ギャギャ」


「うん、乗りたいのはやまやまなんだけど……まだダメなんだって。みんなで飛行訓練するまではセレスに乗れないの……私もとっても悲しいよ」


 ルルの本心が漏れると、セレスが「自分が学校に言ってやる」と言い出したので、慌てて止める。

 竜の中に序列があるように、人間の中にも決まりがあるのだ。

 それを伝えれば何となく理解はしてくれたけれど、セレスは納得していないようだった。


 女帝だと言われるセレスは、ここにいる竜たちのボス。

 そのボスのパートナーであるルルが、他の人間の言うことを聞かなければならないことが、あまり好ましくないようだった。


「あのね、セレス、気持ちは嬉しいけど、校長先生を襲わないでね。本当に飛べなくなっちゃうから、ね」


 セレスの部屋を掃除しながらそう伝えれば、「キュウ」とまた可愛く鳴いた。

 どうやら「仕方がないわね」と分かってくれたようだけれど、セレスの視線が校長室へ向いているような気がして、愛情深いセレスの視線がちょっとだけ心配になったルルだった。






「ルル! あなた、どこへ行っていたのよ!」


「ルルちゃん! 今日は歓迎会よ。早く準備をしないと」


 ルルが寮へ戻り、遅めの朝食を済ませ、三階の女子部屋がある廊下へたどり着くと、クラリスとミアが怒った時の母ミレイユのような顔をして待ち構えていた。


 歓迎会は夕方から。

 今はまだお昼前、準備をするにしては早すぎると思うのだけど、汚れたルルを見た二人は悲鳴を上げそうな勢いだった。


「えっと、もう準備するの? まだ全然早いよね?」


 ルルの呑気な言葉を聞くと、クラリスとミアに角が生える。

 いや、実際には生えてなどいない。

 ただそう見える、それが恐ろしかった。


「何を言っているの? 私たちにはメイドもいませんのよ。自分たちの準備を全て自分たちでしないとなりませんのよ!」


「そうだよ、ルルちゃん。ドレスを着せてくれるのもルルちゃんしかいないし、お化粧だって、髪を結うのだって私たちルルちゃん頼りなんだよ! ルルちゃんがいてくれないと準備が何も進まないんだからね!」


「あ……はい……すみません……」


 二人のあまりの気迫に、ルルは押されてしまう。

 貴族出身のクラリスは、当然最低限の身の回りのことしか知らず、平民出身のミアは三つ編みぐらいしかしたことがなく、そして衣装もワンピースぐらいしか着たこともなく、ドレスなんて生まれて初めてで、どう着ていいのかも分からない状態だ。


 ミレイユに色々と仕込まれたルルは、自分で自分の髪を綺麗に編み込むこともできるし、王子様と踊るからと、ドレスアップも徹底的に勉強させられていた。


「えーっと、じゃあ、準備しようか? あの、エミリア先輩は?」


「エミリア先輩は婚約者のセドリック先輩のお屋敷が近いから、そちらで準備されるそうよ」


「そ、そうなんだ……えっと、男の子たちは?」


「男の子たちなんて今はどうでもいいよ、ルルちゃん。取り敢えずシャワー浴びてよ。なんだか今日のルルちゃん、生臭いよー」


「……」


 竜舎に行き、竜たちの世話をし、セレスになんども舐められて、ルルは生臭くて当然だった。

 けれどクラリスとミアの緊迫感に「あたりまえでしょう」という言葉は飲み込み、無言のまま部屋へ行くと、速攻でシャワーを浴びた。


 その後は同じようにシャワーを浴びたクラリスとミアの身だしなみを、念入りに整えていく。

 まだ若い二人なので、母に行うほどのマッサージは必要ないが、それでも今日一番の可愛らしさを身に着けてほしくて、祖父の竜グレイヴの耳裏マッサージを行う程度には力を入れた。


 そして先に二人のドレスを着付ける。

 あまりコルセットを締めると何も食べられなくなるだろうから、軽めに締め、その後化粧に入る。


 クラリスはドレスに慣れているが、ミアは初めてのドレスなので、クラリスの化粧を先に行った。

 そしてミアまで仕上げると、最後は自分の番。


 クラリスとミアにコルセットを締めてもらい、ルルはミレイユが手直ししてくれた水色のドレスを着る。そして女の子の中で一番適当に化粧をし、簡単に髪を整えれば、準備万端。

 可愛らしい淑女たちの出来上がりだ。


「ああ、良かったですわ。ルルのお陰で綺麗になれましたわ」


 薄紫のドレスに身を包んだクラリスは貴族令嬢そのもので、とても綺麗で、ルルは見とれてしまう。


「私も、ルルちゃんのお陰で可愛くなれたよ。本当にありがとう」


 学園の貸衣装の中からシンプルなローズピンクのドレスを選んだミアは、とても可愛い。

 ふわふわの栗毛に似合っていて、つい目で追ってしまいそうだ。


「二人ともとっても可愛いよ。頑張って着付けた甲斐があるって自慢できる!」


「「……」」


 せっかく可愛いドレス姿なのに、ピースサインを向けるルルに二人は溜息だ。

 手足が長く、線が細く、けれど引き締まっているルルは、とてもドレスが似合い、普段とは違う綺麗さがある。それに軽く化粧をしているため、黙っていれば可憐なご令嬢そのものなのだが、本人に全くその自覚がなく、おしとやかにしなきゃという気負いもないため、何と言っていいのか分からない。


「まあ、ルルですものね……」

「うん、ルルちゃんだから……」


 ヒールのある靴を履き、ちゃんと回れるか確認するルルを見つめながら、困った笑顔を浮かべるクラリスとミアだった。


「あ! そうだ、忘れてた! 私、エドの髪をやってあげるって約束してたんだ! 部屋に行かないと!」


 櫛を持って飛び出しそうなルルを、クラリスとミアが慌てて止める。

 きっと今頃、男子部屋の並ぶ二階は準備をする男子生徒で溢れかえっているはず。


 そんな中に綺麗に着飾ったルルを投入すればどうなるか……


 考えるだけでも恐ろしい。

 エドだけでなく、他の男の子たちまでルルに夢中になり、開演前にダンスを申し込みそうだ。


 クラリスとミアは「マーサマーサさんにお願いして呼び出してもらおう」と提案する。


「あ、そうだね。その間にちょっと何かつまんでいようか? お昼、軽くしか食べてないしね」


 どこまでも呑気なルルは変わらないようで、食堂へ行き、エドの到着を待っている間、小さなクッキーをパクパクと食べていた。


「二人とも食べないの?」


「……私は遠慮しますわ……もう胸が一杯で……」

「私も……コルセット初めてで、何か食べたいとも思えないから……」


「ふーん、そうなんだー?」


 二人の前でルルは何も気にせず、お茶も飲む。

 主席は王子様と踊ることが決まっているのにこの度胸。

 何と言っていいのか分からない。

 きっと自分で化粧を手直しできるから強気なのだろうが、クラリスとミアはいろんな意味で胸が一杯だった。


「ルルちゃん、エド君を呼んできたわよ」


「マーサさん、ありがとうございます。わあ! エド、カッコいいじゃん! 凄い凄い、お父さんの衣装、めちゃくちゃ似合ってるよー」


 マーサに続いて食堂にやって来たエドを見て、ルルは目を輝かせて絶賛する。

 紺のジャケットに白いシャツ、それに金の装飾が入った豪華な衣装はエドにとても似合っていて、母ミレイユの見る目にルルは感心する。「お母さんはやっぱりすごい!」エドへ向ける感動のほとんどが母への絶賛だった。


「……あ、ありがと……その、ルルも、似合ってるぞ……」


「本当? 嬉しい、可愛いかな?」


 くるっと回ってエドに水色のドレスを見せつければ、エドの視線が他へ向く。

 どうやらルルよりも、綺麗で可愛いクラリスとミアに目を奪われているようだ。


 それは仕方ないと思う。

 本物の美少女にルルが立ち向かえるはずがないことを、ルル本人が一番分かっていた。


「か……可愛い……ちょっとだけな!」


「アハハハ、うんうん、そうだよねー、分かってるって。それよりここ座って、髪直してあげるからさー」


「あ、ああ……」


「「……」」


 ルルがエドの髪を直し始めると、皆に見つめられて恥ずかしいのか、エドの耳が赤くなっていることに気付く。それもそうだろう、綺麗なクラリスと可愛いミアが近くにいるのだ。男の子なら意識して当然。ルルは弟を内緒で応援することにした。


「エド、クラリスとミアと踊れるように頼んであげようか?」


「はっ?」


 耳元でそっと囁けば、エドの顔は酷いぐらい真っ赤になった。

 図星をつきすぎて驚いたらしく、その目は大きく見開かれている。


「そ、そんなの、いらねーし……」


「そう? でも女の子少ないから、早めにお願いしないと踊れなくなっちゃうよ」


「ル、ルルが、いるだろ」


「私?」


「俺は、ルルと踊れれば、それでいいから……他は別に必要ないし……」


 恥ずかしがり屋のエドには、まだ気になる女の子を誘う勇気はないようだ。

 ルルは姉として笑顔で頷く。

 可愛い弟分と踊る。

 それはベルン村で切磋琢磨してきた幼馴染としては、嬉しい誘いだった。


「うん! 一緒に沢山踊ろうね! 今夜は疲れさせちゃうぞー」


 アハハハと楽しげに笑うルルには、まだ恋など無縁のようで、クラリスとミアのエドへ向ける視線はどこまでも同情的だった。

おはようございます、夢子です。

本日もお読みいただきありがとうございます。

またブクマ、評価、いいねなど、応援もありがとうございます。

ルルはもう暫く恋とは無縁な生活となっています。w

エド頑張れー。

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