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竜騎士見習いルル~田舎娘は仲間たちと空を駆ける~  作者: 夢子


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相棒決め

 遂に相棒決めの日がやって来た。


 ルルは朝からウキウキソワソワ。食事の時間になっても、ご飯が喉を通らない。

 心配するエドに話しかけられても、何でも「うん」と答えるばかりで上の空だ。

 今なら結婚の申し込みをされても断る確率が低いくらい、ルルの意識は竜に向いている。


 寮から学園へ向かい、担任であるガイウスが来るのを待ちながら、ルルは時計を何度も何度も確認し、教室の扉もチラチラと見てしまう。

 クラス中がそんなルルに生暖かい視線を送っていると、ようやくガイウスが教室へ入って来た。


 するとルルが一番に声を掛ける。


「先生! おはようございます!」


「お、おう……ルルか。今日はいつも以上に元気がいいな」


「はい、元気いっぱいです! 先生、さっそく授業を始めて下さい。待ってましたので!」


「あ、ああ……そうだな。では、授業を始めようか……」


「はい!」


 前のめり気味に話すルルに困惑しながらも、ガイウスは普段通り点呼を行い、今日の授業について説明を始める。


 相棒選び。


 それは竜騎士の卵にとって、最初の難関だ。


 この日、自分が気に入った竜に同じように気に入ってもらえるとは限らない。

 相思相愛となるのはなかなか難しく、自分に合う竜を探すことも大切な課題なのだ。


 中には相棒を見つけることができず、入学してすぐに退学する者もいる。


 これからずっと命を預ける相棒なのだ。

 ルル以外の皆が慎重になるのも当然で、ガイウスの話を真剣に聞き入っていた。


「それから前にも話した通り、竜舎は三つある。まだ一度もパートナーを持ったことのない竜が集められている第一舎。そして、一度か二度パートナーを持ったことのある竜がいる第二舎。最後に、長年竜騎士の竜として活躍していた竜や、年齢の高い竜、それからずっとパートナーが付かない竜がいる第三舎だ。その中の竜たちに自由に会い、自分に合う竜を探して欲しい」


 ガイウスは一度言葉を切ると、クラスの皆に笑顔を向ける。


「それと、今日決まらなくても大丈夫だ。期間は一週間ある。ゆっくり考えてもいいし、迷ってもいい。気に入った竜がいれば私に声を掛けてくれ。竜との挨拶を教えるからな」


「「「はい」」」


 生徒たちは自分にはどんな竜が合うだろうかと、それぞれ考える。


 今までパートナーのいなかった若い竜を選べば、仲良くなるのは早いだろう。

 しかし経験が少ないため、飛び方や人間との接し方には慣れていない部分がある。


 そして、一番のお勧めだと言われるのが、パートナーを持った経験のある中堅の竜だ。

 人間との関係にも慣れていて、人を乗せて飛ぶことにも慣れている。


 ただし、元のパートナーと比べられることもあるため、そこは考慮しなければならない。

「前の人はこうしてくれたのに」と拗ねてしまうこともあるようだ。


 そして第三舎にいる竜は、気難しいものが多い。


 何度もパートナーが変わった竜の中には、人間の儚さに心を痛めているものもいる。

 人には伝わらないが、「もう絶対にパートナーなど持たない」と決めている竜もいるらしい。


 人間から世話をされることは許容できても、背に乗ることは許せない。


 頑固な竜ほどプライドが高く、パートナーに求めるものも多くなる。

 そのため、竜騎士の卵など嫌だと、首を縦に振らないものもいるらしい。


 それと、高齢の竜もいる。


 人間からすれば高齢だと思われても、竜は飛ぶことが当然の生き物なので、まだまだ十分に活躍できる。それに経験も豊富で、空での行動も楽になる。


 ただし、やはり高齢になるほど頑固さや繊細さは強くなるようで、パートナーと認めてもらうのも一苦労するらしい。


 どうしても認められたくて、竜舎に一週間寝泊まりして気に入ってもらったという話もあるそうだ。


 ルルは興奮しながら、竜のあるある話に聞き入っていた。


「よし、ではこれから相棒決めを行う。各自、好きな竜舎へ向かえ。危険がないよう、竜に近付くときは世話係に声を掛けて傍にいてもらうように、いいな」


「「「はい」」」


 第一、第二竜舎へ向かう生徒が多い中、第三竜舎へ迷いなく向かったのはルルだけだった。


 そんなルルの後ろを、担任のガイウスが邪魔しない程度に距離を置いて付いてくる。


 ガイウスは、ルルが「女帝」に興味を持っていることを知っていた。


 女帝は、この竜舎の中で一番の力を持つ、まさに女王そのもの。

 数年前にパートナーを失ってこの竜舎に戻ってきたが、それ以降、誰かに興味を持つことはなかった。


 その上、竜騎士試験では人を見る目が一番厳しい竜でもある。


 過半数以上の竜が認めれば竜騎士学校への入学は許可されるが、女帝はほとんどの生徒に不許可を出していると言ってもいい。


 そんな女帝もまた、ルル・ヴァルドに興味を持っている。


 何故なら、女帝が入学を許可すると素直に頷いたのは、ルルただ一人だったからだ。


 他の生徒には、どちらでもいい……いや、どうでもいいといった態度だった。


 そんな二人がもう一度顔を合わせたら、一体どうなるのか。


 今日の日を楽しみにしていたのは、ガイウスも同じだった。


「こんにちは」


 第三竜舎へ進んでいったルルは、心配そうに見守る世話係に大丈夫だと笑顔で頷くと、女帝の元へ向かい声を掛けた。


 ルルの挨拶を聞き、女帝は顔を上げる。


 何の用だと言っているような表情だが、その瞳はルルに真っ直ぐ向けられている。

 瞳孔の動きで、ルルに興味を持っていることが伝わってくる。


「私の名前はルル・ヴァルド。ルルって呼ばれてるよ」


 名を名乗った後、ルルは竜に向かって深く頭を下げる。


 片方の手は胸に置き、竜への敬意を示す。

 そしてもう片方の手は広げ、竜の羽を表して見せる。


 それは祖父バルガスに習った、竜への挨拶のやり方だ。


 初めて会う竜には敵意がないことを示さなければならない。

 頭を下げ、羽を広げ、行動でそれを示す。


 竜から許可が下りるまで、時間をかけてゆっくりと。


 ルルが優雅な流れで竜式の挨拶を行うと、女帝は思ったよりも早く「ギャウ」と鳴き、許可を下ろしてくれた。


 まるで女帝もルルに会いたがっていたかのようで、ルルは嬉しくなった。


「どうぞ、私の匂いを嗅いでみて」


 挨拶を許されたルルは女帝の前で手を広げ、自分の匂いを女帝に教える。


 竜の鼻はとても感知能力が高く、匂いだけで相手の様々なことが分かるらしい。


 竜医師である父ロイドが言っていたので間違いないだろう。


 女帝はルルを一嗅ぎしただけで、他の竜の存在を感じ取ったようだった。


「ギャ」


「そうなの、分かる? 私の家には竜がいてね、おじいちゃんの竜でグレイヴっていう黒龍なんだよ」


「ギャウ、ギャギャ」


「そうそう、黒龍は頑固だよね~。フフフ、竜の中でもそんな常識なんだ。でも貴女は真っ白で、ところどころ銀色に光っていて、とても綺麗ね。きっと繊細で優しい性格なんでしょうね……だから悲しんでいるんでしょう? 何か辛いことがあったの?」


「……ギャギャ、ギャウギャウ」


「……そうなの……前のパートナーが亡くなってしまったのね……」


「ギャギャギャ」


「うん、人間は弱いよね……貴女の気持ち、よく分かる。私にもニコっていう小さな妹がいるから、別れを考えると悲しくなるもの……」


「ギャウ……」


 女帝の姿はどこか悲しげで、その気持ちがルルにも伝わってくる。


 彼女の胸の痛みを思うと涙が出そうになるが、ルルはグッと堪えた。


 一番悲しみを背負っているのは彼女だ。

 ルルまで泣いて、彼女をもっと落ち込ませたくはなかった。


「ねえ、良かったら私の相棒になってくれないかな?」


「ギャギャ?」


「うん、貴女が前の主を忘れられないままで良いの。それでも私は貴女の背に乗って空を駆けたい。貴女の悲しみを一緒に背負って、家族になりたい。貴女を一目見た時から、貴女のことが気になって仕方がなかったの」


「ギャウ」


「ウフフ、うん。私は貴女の番にはなれないって知ってるよ。それに私は女の子だし、人間だしね。そうだねー……うん、私、貴女と親友になりたいの。それで一緒に空を駆けて、楽しい思い出をたくさん作りたいの。いつか虹の橋を渡ったら、前のパートナーに自慢できるぐらいたくさんの経験を一緒にしよう。私、貴女を大切にするって約束するからさ」


 ルルが手を差し出すと、女帝は一瞬考えるような素振りを見せた。


 そして、ルルの手に額を軽く当てる。


 それが、相棒になるという女帝からの答えだった。


 それを見てルルは喜び、女帝に抱き着いた。


「ありがとう! 凄く嬉しい! ずっと貴女を夢見てたの! 貴女以外を相棒にするなんて、考えられなかったんだー」


「ギャギャ」


「えっ? 名前? 私がつけていいの? うーん、じゃあね、セレスはどう? セレス、白くて綺麗な貴女にピッタリな名前でしょう?」


「ギャウ」


 セレスは気に入ったと一言答えると、ルルの頬を優しく舐めた。


 それは竜の愛情表現の一つ。


 セレスは、新しくできた親友ルルをもう気に入ってしまったらしい。


 一緒に空を駆ける。


 そんな言葉を口にする相手に、また出会えるだなんてセレスは思っていなかった。


 試験の時に感じた直感は正しかったらしい。


 セレスがルルへ向ける視線は、どこまでも優しいものだった。




「ハハハ、マジかよ。あの女帝を自分の相棒にしたのか……」


 ルルとセレスの行動を一部始終見ていたガイウスは、思わず素のまま呟いてしまう。


 竜舎の中で、頑なな様子で心を閉ざしていたセレス。


 けれど、ルルが竜騎士試験に来た日から少しだけ人に対する態度が軟化し、新しい生徒が入って来たと知ると、そわそわしている日が増えたと聞いていた。


 そして今日、ルルは運命のように女帝を相棒にした。


 それも一瞬と言える速さでだ。


 女帝がルルを待っていたことが分かるというもの。


 その上、ルルは竜の言葉が分かるような様子だった。


 バルガス・ヴァルドの孫ということで注目を集めているルルだが、その能力はバルガスをも凌ぐのではないか。


 ガイウスは今日目にしたものを見て、それを実感した。


 ルル本人を「凄い竜騎士」だと、認めるしかないのだと、ガイウスは思っていた。

おはようございます、夢子です。

本日もお読みいただきありがとうございます。

セレス、ルルの相棒です。

優しく強い女帝、群れのボスです。

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