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竜騎士見習いルル~田舎娘は仲間たちと空を駆ける~  作者: 夢子


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女の子の親睦会

「エミリア先輩、こんばんはー」


 ルルは竜騎士学校の寮、女子部屋がある三階のエミリア・ローズの部屋の戸を叩いた。

 今日は新入生と在校生、同性同士の顔合わせの日だ。


 男子生徒は寮内で一番広い食堂へ集まり、男同士の集いをするそうで、女子生徒はとても少ないため、エミリアの部屋へ集合することになった。


 いつも通りのルルとは違い、クラリスとミアは少し緊張気味だ。

 竜騎士学園の先輩。

 それは実力主義の竜騎士であっても、やはり身構えてしまうところがあるようで、その上、初対面に近い先輩の部屋へお邪魔するとなると、色々と考えてしまうようだった。


「はーい、三人ともようこそ。さあ、入って。待ってたのよー」


 エミリアは淡い金色の髪と、珍しい桃色の瞳を持った可愛らしい先輩だ。

 ルルとは違い、すっかり大人びた雰囲気があり、普段の制服姿とは違う私服姿に、ルルは思わず見入ってしまう。


「エミリア先輩、いい匂い~。それに、すっごく可愛いお部屋だねー」


「まあ、ルルちゃんありがとう。私ね、竜が好きな匂いを研究したくて、部屋で実験してたりするの。でも今日はルルちゃんたちが好きそうな柑橘系の香りにしたのよ。私が研究している匂いだと……ちょっと今日の場には合わないと思ったから。ウフフ、今、お茶を淹れるから座って待っててちょうだいね」


「はい、ありがとうございます。クラリス、ミア、入ろう」


「はい、失礼いたしますわ」

「失礼します」


 エミリアの部屋にはカーペットが敷いてあり、床にはクッションも置いてあって、今日は地べたに座ってくつろげるように工夫されていた。

 そして部屋の端には、匂いを研究しているという言葉通り、小瓶が棚にたくさん並んでいて、几帳面にラベルも手書きで付けられている。


 淡い桃色のカーテンに、研究用の備品は少し合わないようにも見えるけれど、それがエミリアの人となりを表しているようで、ルルはエミリアのことをまた一つ知れて、なんだか嬉しい気持ちになった。


「先輩、私、マフィン焼いたんです。お茶請けにどうですか?」


「あら、ルルちゃんありがとう。私はクッキーを焼いたのよ。一緒に食べましょう。楽しみだわ」


「はい」


 すっかり寮の厨房にも慣れているルルは、今日の親睦会の話を聞いて、ゴードンに頼んでマフィンを焼かせてもらった。

 人数分の四つはルルが持ってきて、残りの六個はエドに渡しておいた。


「今日の歓迎会で食べてね」


 そう言って渡したが、男子生徒は人数が多いので、きっと同級生に分けることになるだろう。


 ルルはそう思っているが、実際は同時刻、食堂でじゃんけん大会が開かれ、マフィンの争奪戦が起きていた。


「さあ、じゃあ、改めて自己紹介をさせてもらうわね。二年のエミリア・ローズです。どうぞよろしくね」


「はい、エミリア先輩。ルルです。よろしくお願いしまーす」

「クラリス・ヴァレンティアですわ。よろしくお願いいたします」

「ミア・ベルナードです。よろしくお願いします」


 様式美のようにそれぞれが挨拶を終えると、エミリアがフフッと可愛らしく笑う。

 同性だけれど、エミリアのその姿はどこか大人っぽく、ルルだけでなくクラリスとミアもちょっとだけ頬を赤く染めていた。


「三人が入学してくれて、私、本当に嬉しいのよ。同学年の女子生徒は昨年の途中で辞めてしまったし……今の三年生には女子生徒はもういないでしょう? 卒業した先輩に一人女子生徒がいたけれど、接点があまりなかったから、今は正直ホッとしているの。この広い三階に一人っていうのは、やっぱりちょっと寂しかったからね……」


 寮にある三階には、女子生徒だけの部屋が並んでいる。

 そこで一人ぼっちで暮らしていたエミリアを想像すると、同情しかない。

 下からは男子生徒の楽しそうな声が聞こえてくるのだ。寂しさは倍増していただろう。


「あの、先輩。やっぱり女子生徒が卒業まで行き着くのは厳しいのですか……?」


 ミアの不安げな質問に、エミリアは「そうね……」と悲しそうに頷く。


 一年生の時はまだいいけれど、学年が進むにつれて男子生徒との体力や筋力の差は出てくる。

 学習面で補えればいいけれど、竜の背に乗ることや、討伐訓練で森の中に入ることを考えれば、「女の子だから」という言葉は言い訳にしかならない。


 体力面で限界を感じる。

 それが女子生徒が辞める一番の理由だった。


「私と同級生の女の子は四人いたわ。でも、竜に乗ることができなくて辞めた子もいるし、討伐で血を見ることが怖くなって辞めた子もいるし、婚約者ができて辞めた子もいるわ。騎士はどうしても体に傷ができてしまうでしょう? 相手がそれを嫌がったそうなの。仕方がないわよね……」


 実際には、エリートとなる竜騎士になられることを嫌がられた可能性もある。

 自分より妻のほうが立場が高い。

 それを嫌う者も当然いる。


 それに竜騎士学校に合格できた。

 それだけでも十分、肩書としては使えるため、女子生徒の親の中には卒業まで望まない親もいるそうだ。


「あの、先輩には婚約者がいらっしゃるのですか?」


 クラリスの質問に、エミリアが「ええ」と微笑む。


 ルルはもう知っているけれど、エミリアの婚約者は二年生のキャプテン、セドリック・フェルナンだ。


 チラリとその姿を見たことはあるけれど、セドリックは基本的に自室にこもっていることが多く、直接挨拶はできていない。キャプテン同士、挨拶が必要だと分かっていても会えないのだから仕方がない。


 ただ、その代わりにエミリアと仲良くなれたという理由もあるが、こんな可愛いエミリアの婚約者であるセドリックが、気になる存在なのも確かだった。


「セドリックとはね、幼いころから仲がよくて、竜に興味を持ったのも彼の影響なのよ。あの人、竜の話しかしないから、私まで詳しくなっちゃったの。ウフフ、彼、面白い人なのよー」


 セドリックとエミリアは貴族同士の婚約者とはいえ、相思相愛なのかもしれない。

 セドリックの話をするエミリアは、どこか嬉しそうだ。


 惚気ともいうのかもしれないけれど、セドリックは人に影響を与えるほどの竜好きらしい。

 それを聞いたルルは、ますますセドリックの中身が気になり、早く挨拶をかわしたいなと思うようになっていた。


「私の話はおしまい。さあ、今度は三人の話を聞かせてちょうだい」


 エミリアの問いかけに、「はい」と答えて、先ほど質問をしていたクラリスが話し始める。


「私は竜騎士の家系で育ちました。父も母も竜騎士で、兄も二年前に竜騎士になりました。ですから私も、幼いころから両親のような竜騎士になりたいと憧れていました」


「ヴァレンティア家は有名ですものね。もしかして、クラリスちゃんにも婚約者がいるの?」


「はい、おります。今の三年生と同学年ですわ。竜騎士試験には残念ながら落ちてしまいましたが、今は騎士になるため、騎士学校へ通っていますの……」


 婚約者のことが好きなのか、普段クールなクラリスの頬が赤く染まる。


 恋バナなんてルルは初めてで、エミリアやミアと一緒に「どんな人なの?」とクラリスを質問攻めにしてしまう。これは真っ赤になるクラリスが可愛すぎるのがいけないのだと思う。


 ルシアン・エヴァンス。

 クラリスの婚約者について、とても詳しくなってしまったのも仕方がないことだった。


「私は十人兄弟の長女で……」


「「「十人……?」」」


 ミアの衝撃的な自己紹介に、ルルだけでなくクラリスとエミリアの目も丸くなる。


 貴族では多妻も多く、兄弟が多い話はよく聞くが、ミアは平民で、お母さんは一人だ。

 一人の女性が十人も子供を産むと聞き、驚きしかない。


 それにミアは十二歳。

 母親が毎年子供を産んでいるような計算になる。


 口を開けてミアを見つめる三人を見て、ミアも苦笑いになった。


「兄弟には双子もいますけど、母はやっぱり大変で……父は小さな商会を営んでいますけど、それでも生活は結構苦しくて。それもあって、私は竜騎士の道を選んだんです。……その、竜騎士はお給料が良いですし、学校は授業料も制服代もすべて免除されるので……」


 赤い顔で俯くミアは恥ずかしそうだけれど、竜騎士の試験は難しい。

 家族のことを考えながら試験に挑んだミアは、相当な覚悟があったのだと思う。


 一人っ子で大事にされ、甘やかされてきたルルは、尊敬するしかなかった。


「ミア、カッコいい」

「ええ、素敵ですわ。家族のためにだなんて、なかなかできることではありませんもの」

「本当に、ミアちゃんは努力家なのね。私、そういう子、大好きだわ」


 エミリアがミアを引き寄せ、ぎゅっと抱きしめる。

 突然のことに、ミアは全身真っ赤になった。


 かなりの衝撃だったのだろう。

 ルルはちょっとだけ羨ましくなった。


「えっと、私は子供の頃から竜が好きで……それで竜騎士になりたいと思いました」


 特別大きな理由がないルルが紹介を始めると、三人がなぜか当然のように頷いた。


 バルガス・ヴァルド様の孫ですものね。


 ルルの祖父は想像以上に有名らしく、ルルが竜騎士を目指すことになんの違和感もないようだった。


「そうだ、ルルちゃんとエド君は婚約しているの? とても仲がいいようだけど?」


「エド?! エドと婚約? えええっ! ないないない! エドは弟みたいなものだよー。結婚するなんて絶対にあり得ないよー」


「「「……」」」


 アハハハと大きな声で笑うルルの前で、三人の女の子は気の毒そうな表情を浮かべる。


 どうやらエドの気持ちは彼女たちにすっかりバレているようで……


 ルルの中、まったく意識にも上がっていないエドに、三人は同情するしかないようだった。


「えー、えっと……それじゃあ、お茶だけど乾杯でもしましょうか? お菓子もあるし、今夜は長くなりそうだものね」


「「「はい」」」


 そこからも女子生徒四人の話は盛り上がった。


 歓迎会の話や、相棒となる竜を決める話。

 それにもちろん恋バナもたくさん話し合って……


 夜も深けるころには、四人は「友達」と呼べるほどに仲良くなっていたのだった。

おはようございます、夢子です。

いつも応援ありがとうございます。

またブクマ、いいね、評価など、励みになっております。


女の子たちの親睦会は平和でした。

でも食堂では地獄の争い。

ルルのマフィンは勿論、エミリアのクッキーも戦いの商品です。

じゃんけん大会ですが。w

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