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怖いものが大の苦手 (本人は否定してる) な美少女が、なぜかいつも私に怖い話をしてくる。  作者: 夏野恵


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第2話 この子、絶対何か隠してるじゃん。

「部活はこれで終わりだけど、まだ何かしたいことある?」

「あります」


普通はありませんって答えるところだけど、三輪さんは用があるらしい。


これはよくあることで、部活が終わってから怖い話をし始めるのだ。

今日もそれだろうなと思いつつ、彼女に視線を向ける。


セミロングの似合う美少女は、おずおずと口を開いた。


「……あの、私のこと、名前で呼んで欲しいなって」


彼女の柔らかい声が空気を揺らす。


斜め上の要望に少しびっくりしたけど、断る理由もない。

さっそく彼女のご期待に応えることにした。


「千尋ちゃん」

「……っ」


みるみる赤くなる彼女の顔を見て、なぜかこちらが恥ずかしくなってくる。


あれ、私、なんか変なことしたっけ?


彼女を見ると、わたわたと髪を触っている。

そんなことしてたら髪型崩れそうだけど大丈夫なのかな。


「これから私のこと、ちゃんと千尋ちゃんって呼んでくださいね?」

「え、まあ、いいけど」


いきなり距離詰めてくるなと思いつつ、これからは名前で呼ぶことにした。


「……」


一瞬、差し込まれたような沈黙が生じた。


少し開けた窓から入るそよ風がカーテンを揺らす。


「それで、なんですけど……」

「うん」


次はいつも通り怖い話だろう。


そう思って三輪さんのことを見ると、顔を赤くして呟いた。


「……私も如月さんのこと、芽衣さんって呼んでも良いですか?」


たどたどしくお願いしてから目を伏せる。


おっと、さっきの流れはまだ続いていたらしい。

それを理解すると、少し居心地の悪さを感じ始めた。


深呼吸してから、私は口を開いた。


「それはちょっと、かも」

「……そう、ですか」


三輪さんはすぐにしゅんとした表情になった。


視線が落ちて、口をきゅっと結んでいる。

いま悲しんでるんだな、っていうのがすぐわかった。


「別に千尋ちゃんがどうこうって問題じゃないから」


千尋ちゃんって呼ぶの、ちょっと気恥ずかしいなと思いつつ話を続ける。


「私、自分の名字がめちゃくちゃ好きなんだよ」

「如月って名字が好きなんですか?」

「うん」


だから、名前で呼ばれたくないって言うか。


「千尋ちゃんは『きさらぎ駅』って知ってる?」


首をふるふる振ったので、私は説明を始めた。


きさらぎ駅を簡単に説明すると、ある女性が存在しない駅に辿り着く話だ。

匿名掲示板に書き込まれたもので当時、それはそれは話題になったみたいだ。


「だから、自分の名字も同じ『きさらぎ』で好きなんだよね」

「なるほど……」


おそらく納得していないであろう三輪さんは曖昧に頷いた。


「じゃあ如月さんって呼べばいいんですね」

「よければ」

「よければだったら、芽衣さんって呼びたいんですけど」


あれ、思ったより食い下がってくるぞ。


「そんなに名前呼びにこだわる?」

「いや、そういうことじゃないんですけど……」


違うんです、と言いながら手をぱたぱたさせる。


「ほら、せっかく2人なのに名字呼びって距離感あって嫌じゃないですか!」


そういうことですよ! とでも言いたげに人差し指をこちらに向ける。


三輪さんに『芽衣さん』と呼んでもらうことと、『如月さん』と呼んでもらうことを天秤にかけてみると、圧倒的大差で『如月さん』だった。


それくらい私は、きさらぎ駅を神聖視している。


とは言っても、他の人に如月さんって呼んでもらえば済むことでもある。

ここは先輩として度量の大きさってヤツを見せるか。


「それなら、私のことは名前で呼んでも良いよ」

「ありがとうございます!」


芽衣さん、とすぐに呟いた。


頭の中で三輪さんの「芽衣さん」がぐるぐる回る。

なるほど、悪い気はしない。


「じゃあ、他に何かある?」


名前呼びの件で時間を取ってしまったが、それはおまけみたいなもの。

メインディッシュは三輪さんの怖い話だ。


「もうひとつあるんですけど……」


申し訳なさそうな様子で、彼女は呟いた。


ずっとお願いされてるけど、この流れでご飯奢ってくださいって言われないよね。

今日は手持ちが少ないから勘弁してほしいんだけど。


そこはかとなく心配していると、三輪さんはまた斜め上のことを口にした。


「芽衣さんってなんでそんなに怖い話が好きなんですか?」


いつか聞こうと思ってたんですけど、と補足する。


「好きなことに理由なんてないでしょ」

「いや、ありますよ」


すぐに三輪さんは否定してきた。


「私は好きなものにはちゃんと理由があるんで」

「へぇ」


たしかに三輪さんって色々考えて生活してそう。

めっちゃ可愛いから、気を付けないこととかありそうだし。


「千尋ちゃんは怖い話好きなんだっけ?」

「……ま、まあ、人並み以上には好きですよ」


さっきの勢いがなくなったな。


制服の裾に触れながら、三輪さんは私の首筋あたりをじっと見てくる。

そんなにまじまじ見られるとちょっと恥ずかしい。


手で首元を隠しながら続けた。


「なんで怖い話が好きなの?」

「芽衣さんが怖い話好きだからです」

「へぇ」


腕を組んで、視線を上に向ける。


私が好きだから三輪さんも好きってどうなんだろう。

本当にそうなのかもだけど、怖い話が直接的な理由じゃないし。


「……ん?」


少し引っ掛かることがあった。


私の記憶違いかもしれないけど。


「私、千尋ちゃんに怖い話が好きっていつ言った……?」


少なくとも私の記憶では、三輪さんから怖い話の話題出したはず。

だから、私が怖い話が好きで三輪さんも好きって説明はおかしい気がする。


彼女はいつ、どのタイミングで私のことを知ったんだ。


「……そんな細かいこと、今はどうでもいいじゃないですか」


私の目を見ないで彼女は呟く。


この子、絶対何か隠してるじゃん。


これって本当にあった怖い話に入る?

体験するより聞く側のほうが好きなんだけど。


色々疑問はあったけれど、今日はとりあえず流すことにしよう。


「そう、だね」


私が頷くと、彼女はほっとした表情を見せた。


「じゃあ、怖い話を始めますね」

「お願い」

「これは実際に起きた事件なんじゃないかっていわれてるんですけど……」


三輪さんの表情を見ると、少しずつ苦しそうになっていく。

ほっとしたり苦しそうにしたり、この子はほんとに何がしたいんだ。


そんなことをぼんやり思いながら、三輪さんのヒトコワ話に耳を傾けた。

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