6話 狩猟本能
僕が森にたどり着いてから五日が経った。
生活は厳しいけど、意外となんとかやっていけてる。
無能な僕でもこうして生きていけるのは、やはり森の恵みのおかげだ。
キノコ類や、木の実、ベリーなどなど……必要な時に必要なだけいただくことにしている。
……本音を言えば、お腹いっぱい食べたいけどね。
それに、ずっとお風呂に入れてないっていう衛生面の問題も、森が解決してくれる。
洗浄作用がある〔マグナの樹皮〕の煮汁と、〔ニガヨモギ〕をすり潰したものを合わせると即席の洗浄剤のできあがり!
目と口に入らないように気をつけさえすれば、汚れからくる感染症の心配もない優れものだ。
ただ、問題があるとすれば――
「……なんか……力が、出ないなぁ」
昨日の朝から、どこか体の調子がおかしい。
フラフラと足元はおぼつかないし、なんとなく体もだるい。
思い当たる節は、いくつもある。
まず一つは、まだまだ肌寒い春の夜を野ざらしで過ごしているっていうこと。
十分に眠れていないことの睡眠不足もあるし、寒空の下で免疫機能が低下して風邪をひいてしまったっていうのも考えられる。
もう一つは、栄養価の偏り。
手頃に採れる森の恵みは、種類が限られてくる。
その結果、ビタミン類はとれていても、徐々に体の機能が正常に働かなくなってきている可能性がある。
最後に、栄養不足。
正直これが、体の不調の原因を一番大きく占めてると思う。
小さな木の実やベリーなんかでは、どう考えたってカロリーが足りない。
今の食生活では、体を動かす為のエネルギーが慢性的に足りなくなってるんだろう。
でも、大量に食べればいいかって言うとそういう訳でもない。
消化に悪い植物や果物をたっくさん食べたところで、消化に使うエネルギーが増えるだけだ。
つまり、効率よくバランスの良い食事をとることが何よりの健康の秘訣って訳だ。
えぇと、何を言いたいかっていうと――
「……お肉が、食べたい」
僕は飢えていた。
そこそこに満たされたお腹では、満足できないくらいに。
考えれば考えるほど、お肉が食べたくなる。
考えないようにすればするほど、お肉のことが頭に浮かぶ。
「はぁ……お肉屋さんの存在って、すっごく大きかったんだな」
思わずそう呟いた。
そりゃあ、そうだ。
少しのお金を払えば、いつだって上質のお肉を提供してくれるんだもの。
今の僕にとっては、神様みたいな存在だ。
在学中に何度か通ったお肉屋さんを思い返す――。
串に刺した牛肉に、特製スパイスがかかったあのなんとも言えない味……
ほんの少し想像しただけでよだれが――
ぐぎゅるぐぎゅ~~~。
異様な音を立てるお腹を押さえ、僕は決心した。
「……決めた。 今日は、お肉を食べよう」
朝日がキラリと、森を照らした。
* * *
やると決めたら、即行動。
待っていてもお肉はやってこないし、僕が動けなくなる可能性もあるからだ。
体の不調は感じるけど、さらに悪化したら手の施しようがなくなるかもしれない。
僕は両手を合わせて、祈るような姿勢をとった。
「……【神聖】」
パアァァッと、緑色の優しい光が僕の体を包み込み、沈んだ気持ちが明るくなっていくのを感じた。
固有属性という分類の、聖属性の基礎魔法だ。
傷をあっという間に治すような派手な効果はないけど、体の自然治癒力を高めたり気分を落ち着かせる効果がある優れものだ。
魔力消費が大きいのが玉にきずだけど、今は出し惜しみしててもしょうがない。
少しでも調子を整えて、お肉獲得の可能性を上げるんだ。
「……うん、気休めにはなったかな?たぶん」
肩をぐるぐると回して、とーんとーんと軽くジャンプ。
動けばフラフラは強くなるけど、さっきよりはマシだ。
「よし、やるとしますか!」
僕は二メートルほどの手頃な棒を両手に持ち、棒の片方を地面に軽く刺した。
何かに使えるかもと思って森で拾っておいた物だけど、早速役に立ったな。
「【土片】!」
棒に魔力を集中させるとモコモコと地面が膨れ、みるみるうちに棒の先端は土に覆われていく。
こうして、あっという間に出来上がったのが――
「……命名【土槍】!!」
僕は声高らかに、お手製の武器を構えた。
魔力で土を練り上げ、さながら槍の穂先のような形状に変化させる――言わば、土属性の基礎魔法土片の応用技だ。
何もない所から土を生み出すこともできるけど、既にあるものを媒体としたほうが魔力効率もいいし魔法の質も上がる。
初めて試すにしては、なかなか形になっていると我ながら思う。
棒の先で魔力によって固めた土は、地面に易々と刺さるくらいに硬く、鋭い。
……そして意外とカッコイイ。
ブンッと軽く振ってみても、問題はなさそうだ。
土を固めてるから多少は重いけど、今から時間をかけて棒を削るよりも、断然効率的だし威力も高そうだ。
これで一歩、お肉へと近付いた。
僕は意味もなく土槍を空に掲げると、意気揚々と森へと足を踏み入れた。




