19話 暴走
「――んだよっ、びびらせやがって……ただのガキじゃねえか」
「あぁ? 何見てやがんだ?」
男たちは、不敵な笑みを浮かべて僕をジロリと見た。
相手は三人、見たところ武器は持っていない。
……だからと言って、いざ戦いになれば僕は確実に負ける。
あぁ、なんで無策で突っ込んだんだよ、僕のバカっ!!
ここは冷静に……とにかく理性的な話し合いを心掛けるんだ。
……相手が応じてくれるかは別だけど。
「あの、さっき、ロナンって人のことを話してるのが聞こえました。 もしかすると、その人は僕がお世話になった人かもしれなくて……何か知ってることがあれば、教えてくださいっ!」
僕は誠心誠意気持ちを込めて、頭を下げた。
そんな僕に返ってきた言葉は――
「は? 嫌にきまってるだろカス。 殺すぞ?」
あぁ、もう最悪だ……。
そもそも、話が通じると思った僕が馬鹿だったし、こんなやり方しかできない要領の悪さも腹立たしい。
「なんで見ず知らずのガキにそんなこと教えなくちゃならねぇんだ? おぉ?」
無精髭を伸ばした男が、そう言ってすごんできた。
なんでって言われても、なんででもだよ!
でも、そんなこと絶対に言える訳はないし……なにか、交渉材料になるものは……!?
ふと視線を動かすと、中身が荒らされたトランクが目に入った。
「え、いや、えぇと――そ、そうだっ、そこは僕の野営地で、あなたたちが許可なく滞在してるからです! 僕の荷物も、そんなに荒らして――」
「ギャハハハハッ!!」
僕の必死な交渉は、これ以上話す余地すらなく汚い笑い声に遮られた。
「お、おい聞いたかよお前ら! 『そ、そこは僕ちんの場所なんでしゅう!』だってよ! ガハハハハッ!!」
「ああ、聞いた聞いた! このクソしょうもない野営地の所有権を、いっちょ前に主張してやがるぜ!『あぁっ、ボクちんの荷物も勝手に触ってるぅ!』ってか!? ガハハッ!!」
「ヒイッ、ヒイィッ、もうやめて――ギャハハハハッ!!」
「あは、はは……」
男たちは手を叩き腹を押さえ、唾を飛ばし、僕のことなんて気にも留めない様子でゲタゲタと笑っている。
僕も思わず、乾いた笑いが漏れた。
さっきまでの、燃えるような怒りも嘘みたいに冷えきった。
そう、こんな大人だっている。
僕の周りが恵まれ過ぎていただけで、世界はだいたい、こんなもんだ。
その時、僕の心の中にひどく冷たい何かが流れ込んでくるのを感じた。
なんとなく直感で分かる……これは魔力の躍動だ――と。
魔力と感情は密接につながっている、これは魔法使いを志す者にとっては周知の事実だ。
じゃあ、ここしばらく感情が大きく動きっぱなしの僕の魔力は一体どんな状態なのか?
そのことに先に気付いたのは、男たちのほうだった。
「ギャハハハッ!! ハァ、ハァ……ん?おい、お前いったい……なんのつもりだ?」
「……え?」
「それだよ、それ。 魔法だろ?」
そう言われて、自分の手を見て驚いた。
魔力が、みなぎっている――いや、というよりもこれは……暴走。
煌々と青く光る魔力の粒子が、僕の腕にまとわりつくようにして漂っている。
自分では抑えきれない魔力が、行き場を失っているんだ。
これはもしかすると少し……いや、かなりマズイかもしれない。
あらぬ誤解を生む前にと、僕は慌てて腕を振り払った。
――が、それがまずかった。
「テメェ動くなっ!!」
それが魔法の動作と勘違いされたらしく、怒声が飛んだ。
「ちっ、ちがっ……これは……」
「……おい、おめぇいい度胸してんな? ガキだからって、手を出されないとでも思ったか?」
無精髭の男が静かに言った。
いつの間にか男たちの手には、物騒な山刀が握られている。
「ま、待ってください! 本当に僕は何もするつもりは――」
『――やれ――』
「えっ!?」
頭の中に、声が響いた。
まるで透き通るような、澄んだ声が。
『――お前の力を、見せてやれ――』
「何を、言ってるんだ……!?」
謎の声がする度に、まるで何かの意識がするりと僕に入り込んでくるような、不思議な感覚に襲われる。
「んだお前……まあ、いいや。 死ね」
無精髭の男は、のしのし近づいてくると、大きく山刀を振り上げた。
瞬間、僕の頭の中にイメージが流れ込んだ。
次々と駆け巡り、敵をなぎ倒していくような強い力。
バチバチと、痺れるような一撃のイメージが――。
咄嗟に腕を伸ばし、叫んだ。
「光×電気×水――【稲妻よ駆け巡れ】ッ!!!」
ビリッ――――バチバチィッ!!!
次の瞬間、まばゆい閃光が走った。
時間にして、一秒にも満たない一瞬の出来事だったと思う。
でも、僕の目には、やけにスローモーションに……鮮明にそれが映った。
まず、僕の腕から激しい放電が迸った。
そして水の魔力で練られた道筋に沿って、青白い光となって駆けた。
バチバチと激しくスパークしながら進む電流は、男たちの手にした山刀をまたたくまに覆い、バンッ!という音を立てた。
直後、山刀を握りしめたまま男たちはドサドサと倒れ込んだ。
「――ぐぅっ……!」
暴走した魔力の影響か、僕自身も全身に刺すような痛みに襲われた。
けれど、心の中は驚く冷静だった。
一気に魔力を消費した疲労感も、どこか心地良いくらい――。
僕の周りには、依然としてほとばしる魔力が電気となって、バチバチと火花を散らしていた。
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