18話 来客
元の場所で生活を再スタートさせてから、一週間が経った。
食料面は、ロナンさんに貰った大量のワーグの干し肉があったから、それほど困ることはなかった。
それ以外は相変わらずくくり罠と採取がメインの食料源だけど、なんだかお腹は空かないから少量でも充分だった。
……なんだか、あの謎の串焼きが無性に恋しく感じる。
一人きりの生活に戻って、新魔法の魔力調整などの細かい作業に没頭することができたと思う。
ただ、今までみたいなやりがいは感じないけど。
ロナンさんと離れて、寂しくないかと言えば嘘になる。
今頃何してるのか、用事はうまくいっているのか――時々、そんなことが頭にフッと浮かんではブンブンと頭を振っている。
こういう感情は一人での生活で邪魔にしかならない。
合理的に、現実的に、これからのことを考えていかないといけない。
それは、分かってるつもりなんだけど――。
「……僕って、意外と未練がましいやつだったんだな」
そして今日も、新しい一日が始まる。
* * *
朝の魔法研究を終えた僕は、日課である罠の確認と食料調達へ向かった。
空はどんより曇っていて、いつ雨が降るかも分からないから、いつもより駆け足の作業だ。
一通り見て回り、リス二匹と、拳ひとつ分くらいのベリーをなんとか集められたけど……近くで採れるものも少なくなってきた。
そろそろ、狩場を探したり新しい食料調達のルートを確保しないとな……
そんなことを考えながら森の出口まで近づいた時、ふと妙な気配を感じた。
慌てて茂みに身を潜めて目をこらすと、僕の野営地の近くに人影らしきものが見えた。
――まさか、盗賊!?
見たところ影は――二……いや、三人くらいだろうか。
ギリギリまで近付いてみると、どうやら僕のトランクの周りで談笑しているようだ。
まあ、談笑というか”悪だくみ”、なのかもしれないけど……さすがに内容までは聞き取れない。
「……まさか、いきなり飛び出していく訳にもいかないしなぁ」
仮に盗賊だった場合――いやまあ、貴重品なんて持ってないから、さして困ることはない。
強いて言えば、トランクと衣類は残しておいて欲しいけど……
けど、向こうがさらに厄介だった場合。
例えば、問答無用で襲い掛かってくるような輩だった場合は……正直、今の僕に太刀打ちするすべはない。
爆ぜよ水で吹っ飛ばせるかもしれないけど、三対一では不利すぎるし、ましてや僕は対人格闘の経験なんてまるでない。
「……まずは、情報収集に徹したいけど」
うーんと頭を捻り、必死に打開策を模索する。
必要なのは、攻撃じゃない。
あくまでも、今の現状を変える、もしくは有利に動ける状態を作ることだ。
「――あれ、試してみるか」
僕は意識を集中させ、魔力を練り上げた。
風属性に、無属性を混ぜ合わせる。
比率は三対一くらいで風属性優位にして――うん、できた。
「風×無――風よ来い」
僕の詠唱に応えるように、そよ風が吹き抜けた。
無属性の基礎魔法、魔化の効果である”純粋な魔力を顕現”させる効果と風魔法の融合――その結果、ある程度広範囲まで魔力の風を自在に操作できるようになった。
……と言っても、僕が操作できるのはそよ風程度だ。
出来上がったときは正直、こんな魔法何の役に立つんだろうかと思っていたけど……要は使い方次第ってことだ。
僕は魔力の風を操作して、野営地周りから森に目掛けてそよ風を流した。
声――もとい、音が伝わるメカニズムは、ざっくり言うと空気の振動だ。
発生した音が空気によって伝わり、それを耳や脳が音として認識する。
さらに言えば、今の天気は曇り……上空の大気が温かく、地表は逆に冷えてるはず。
もしそうなら、音の性質的に水平に広がりやすい。
この状況下、僕の魔力で生成した風があいつらの周りを辿って僕の耳元へと向かえば――
『――だなぁ――――腹減ったわ』
『お前が――するからだろ? あの時――』
「よし、聞こえる」
途切れ途切れだけど、確かに聞こえる。
ボソボソと内緒話するくらいの声量だけど、僕の耳にはしっかり届いた。
『――どうする? この場所を使わせてもらうか?』
『やめとけ――――戻って来るかもしれないだろ』
『――いやいや、もう魔獣に襲われて死んでるだろ、あいつみたいに。 えーと――』
『ああ、”ロナン”だろ? さすがに――――』
ドクンッ。
僕の心臓が弾けた。
今、確かに聞こえた。
あいつらの口から、”ロナン”って。
よほどの偶然がない限り、僕の知っている人とは別のロナンって人が、こんな辺境の森に揃うはずはないだろう。
あいつら、何者だ……!?
ロナンさんのこと、何か知ってるのか!?
思わず、駆け出しそうになるのとグッと堪えた。
そう、違う。
感情的に動くのは、最たる愚行だ。
一方的に情報を得ることができる、この状況を活かすんだ……!
僕は意識を集中させ、耳をすました。
『――そうだな。 いやぁ、本当に馬鹿で助かった』
『ハハッ! 騎士になれる、だなんてホイホイ信じやがってなぁ。 本当に――――』
『――随分と稼がせてもらったしな! それに――――』
『――まあ、ここらでくたばったほうがアイツの為ってもんよ。 知らんけど!』
はっ?
僕の心の中は、何か冷たいもので溢れかえった。
気付けば、全身に魔力がみなぎっていた。
ロナンさんは、言っていた。
騎士になるのが夢だって。
まっすぐな目で、夢を語ってくれた。
「……あいつ、ら……」
さっきの話を聞けば、だいたい察しはつく。
おおかた、魔獣退治やら雑用をロナンさんにさせてお金を稼いでいたんだろう。
この仕事を終えたあかつきには、騎士にさせてやる――そんな適当な話を吹っ掛けながら。
人が良いロナンさんのことだ。
協力させるための方法は、多分いくらでもあったんだろう。
そして、そんな彼女の優しさにつけこんだんだ。
「あいつら……許さないっ……!!」
僕は心の中で爆発した感情に突き動かされ――気付けば、あいつらの元へ向かっていた。
「あのっ……! 今の話、どういうことですかっ!?」
僕は、震えていた。
恐怖や緊張なんかではない……激しい怒りに。
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