14話 命の実感
――頭が、重い。
まるで鉛を入れられたみたいに、重く苦しい。
それに、体中痛い。
全身に痺れが走って、痛いのにむず痒い。
意識がはっきりするにつれ、ズクン、ズクンと、その痛みは増していく。
「あっ……うぅ……」
うっすらと開いた目に飛び込んできたのは、まばゆい光だった。
嘘みたいに晴れ渡った空で、キラキラと太陽が輝いていた。
「僕は――」
「わぁっ!起きたんだねっ!! もう、心配したんだから~!!」
ドサッと、何かが僕に覆いかぶさって、ビキビキと痛みが走った。
「……ロナンさん、痛い、ですって」
「わ、わぁっ! ご、ごめんなさいっ……!!」
ロナンさんは慌てて僕から離れて、ペコペコと頭を下げた。
すっごい既視感のあるやり取りなんですけど……
「…………」
まだぼんやりとした頭で、辺りを見渡す。
周りは木々に囲われた、開けた場所。
そして、その中央には不自然にえぐれた地面があった。
ああ、夢じゃなかったんだ。
僕はようやく、昨夜の色々な出来事を実感し始めた。
命からがらワーグから逃げた先で、謎の魔法を習得。
そしてロナンさんと出会い、再びワーグとの戦い。
……ロナンさん、めちゃくちゃ強かったな。
そして――偶然発現した、あの魔法。
僕の持つ基礎魔法からは考えられないほどの威力だった。
考えることは色々あるけど、今はとにかく――
「僕、生きてるうぅ~…………」
情けない声をあげながら、僕はへなへなと倒れ込んだ。
本当に、昨日だけで何度死を覚悟したことか……
「フフッ……レキムさん、すっごく気の抜けた顔してますよ?」
ロナンさんは僕の隣にゴロンと寝転んで、小さく笑った。
「そりゃあ……今、すっごい生きてますから」
「フフッ、なんですかそれ! ワーグがレキムさん目掛けて走り出した時は――」
「「完全に死んだと思った」」
僕とロナンさんの声が重なり、思わず笑い合った。
「いや、僕も本当に死んだと思いましたけど……どうやら、ロナンさんが言ってた”秘密の力”ってやつがあったみたいで、運よく生き長らえましたよ」
「運よくって……咄嗟にそんな力使いこなせる人なんて、そうそういないと思いますけど~?」
「いやぁ、もう、本当にたまたまで……ははっ」
ポリポリと頭をかいて、乾いた笑いを返す。
実際あの魔法についてはなんにも分かってないし、奇跡的にワーグを倒せたこと、勘違いしないようにしないとな。
「……それより、ロナンさんの方こそ――」
ぐぐぅっ――。
僕のお腹の音が、恥ずかしいくらい響いた。
そ~っとロナンさんの方を見ると、彼女も僕を見ていた。
その予想外の至近距離に、思わず顔が引きつった。
「……ご飯、食べる?」
「……!! はい、食べたい、です」
お腹の音が鳴って恥ずかしかったのと、ロナンさんが優しい笑顔でそう聞いた顔に、僕はドキドキしてしまった。
* * *
「簡単なものしかないけど……召し上がれっ!」
「…………わぁ」
しばらくして、僕の目の前に出された食べ物は――
一見して料理と見分けるのが難しい代物だった。
一応、何かの串焼きっぽいけど……串は燃えたのか見当たらず、当の肉らしきものは真っ黒で正体不明。
ロナンさんには悪いけど、本当に食べ物かを疑わずにはいられなかった。
「えぇと、ロナンさん、これは……?」
「ん? ワーグの串焼きですよ!」
「ブッ――!?」
思わず、食べる前から吹き出してしまった。
いや、魔獣を食べる文化があるというのは知っている。
それをとやかく言うつもりはないし、こういう環境下で、限られた栄養源を無駄にしないということはすごく合理的だ。
でも、その……ワーグの見た目が犬っぽいってことが妙に引っ掛かってしまう。
そもそも、魔獣を食べようという考えが浮かばないほど、僕は魔獣食とは縁遠いというか、特に興味があるわけでもなかった。
「…………」
ワーグの串焼きを前に、ゴクリ、と唾を呑む。
それは空腹のせいなのか、はたまた緊張のせいなのか――
ロナンさんは、「なんで食べないの?」とでも言いたげな顔で僕を見ている。
――えぇい、こんなことで迷ってる暇なんかない。
それくらい、僕は……僕のお腹は追い詰められているんだ……!!
「い、いただきますっ!」
バクッ。
意を決して、かぶりついた。
シャリシャリとした、炭の食感が口中に広がる。
次に、ジャリ、ザリ――これは砂だろうか?
ようやくお肉部分に到達したかと思えば、妙にねっとりしていて、それでいてゴムのように硬い。
「……どう、かな?」
ロナンさんは、期待と不安の入り混じった顔で僕を見つめた。
ゴリ、ゴリ、ムニィ――ごくんっ。
僕は力の限り飲み込んだ。
「……と、とっても、野性的な味がします」
褒め言葉かどうかも怪しいけど、とにかく嘘はついていない。
だって、何味ですかって聞かれたら”大自然”って答えるほかない味だったのだから。
「そう、よかったです!」
僕の答えに満足したのか、ロナンさんも串焼きを食べ始めた。
あれほど硬いお肉を、モリモリ食べ進めるロナンさん。
――やっぱりこの人は、色々と不思議な人だなぁ。




