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基礎魔法士は見返したい!~無能な落ちこぼれと呼ばれた僕は、基礎魔法×全属性で成り上がる~  作者: スギセン


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11話 月夜の出会い

「ね、ねえキミ……大丈夫?」

 

 そう言いながら近づいて来たのは、どうやら若い女の人らしい。

 ランタンに照らされたその姿は、ふんわりした声からは想像もできないほど屈強な見た目をしていた。


 深い赤茶色の革鎧に全身を包み、ここらでは見たこともない異様ないで立ちだ。

 口元まで覆う革兜からは、その表情も読み取れないけど……敵意はない、のかな?


「えと、いや……大丈夫じゃないです、多分……?」


 人と話すのが久々なせいか、なんだかぎこちない言葉になってしまった。

 そんな、僕の変な返しに女の人はうんうんと頷く。

  

「まー、そうですよねぇ……見るからにズタボロですし。 あっ、とりあえず、向こうの木の所まで――って、えぇっ!?」


「えっ!?」


 女の人は突然大きな声を出して、信じられない、という様子で口を抑えた。

 ――かと思ったら、僕の手を掴んでぶんぶんと振った。


「こ、これってもしかして……魔法ですか!? あなたってもしかして、魔法使いさんですか!?」


 女の人は光輪(ラース)の光を指差しながら、興奮した様子で迫ってきた。

 声のトーンが数段上がり、夜の暗がりでも分かるくらいに目を輝かせている。

  

 すごく近い。

 すごく痛い。

 そして、少し怖い。


「いっ――!!」


「わあっ! ご、ごめんなさい、痛かったですよね!?」


 僕が顔をしかめてるのに気付いたのか、女の人はパッと手を離した。

 けれど、その目のキラキラはまったく抑えられていない。


「……で、それって魔法、ですか? 魔法、ですよね?」


「え、えぇ、まあ――」


「キャーー!やっぱり! ”本物の魔法”見るのなんて、久し振りっ!!」


 女の人はさらに声高らかに叫び、僕の手を取ってぶんぶん振った。

 

「あぐっ――!?」


「わあっ! 本っ当にごめんなさい!!」


「……ははっ」


 女の人は、すっごく申し訳なさそうにしながら僕の手を離した。

 僕は激しい痛みよりも呆れのほうが勝って、思わず乾いた笑いが漏れた。


 なんだろう、この人は。

 僕の人生の中で関わったことのないタイプの人だ。


 ぐいぐい迫ってきて、初対面の相手にも感情表現豊かに接してくる。

 ……まあ、不思議と嫌な気分はしないけど。


「あっ、そうだ! とりあえず、向こうの落ち着ける場所まで行きますか!」


「そ、そうですね――ってうわっ!?」


 女の人は僕の腕をグイッと持ち上げたかと思うと――小さい子どもでも扱うかのように、僕の体をヒョイッと担ぎ上げた。


「えっ!?」


「あっ、ごめんなさい、痛かった?」


「い、いやまあ、痛いは痛いですけど……お、重くないですか?」


「え? ぜーんぜん!キミくらいだったら、あと数人は運べちゃいますよ!」


 女の人はそう言うと、フフンッと笑った。

 冗談なのか本気なのか分からないけど、この人なら本当にやってしまいそうだな……。

 

 何にせよ僕は、生まれて初めて女の人に運ばれるという経験をした。

 それも、ちょっとした荷物くらいの感覚で軽々と――


 こんな姿を父上が見たら――と思うと、背筋がぶるっと震えた。

 

 * * *


「――じゃあ、改めまして……」


 女の人は僕を木の根元に丁寧に下ろすと、ウウンっと咳払いを一つ。


「私はローナ……じゃなくて、ロナンって言います! ちょっと用事があって、この近くで野営をしてます!」


 女の人――ロナンさんは元気よくそう言うと、ソワソワしながらも黙って僕を見た。

 え、もしかして、僕の番を待ってるってこと?


「あ、えと……レキム=ウィンド――」


 当たり前に家名を名乗りかけて、思わず口をつぐむ。

 僕はもう、あの家の一員じゃない――ただの、一人ぼっちの人間なんだ。


「……いや、ただのレキムです」


 自分でそう言いながら、なんだか泣きそうになってしまった。

 

「うんうん、それで!?」


「うん、それから――えっ!?」


 ロナンさんは僕の複雑な心境のことは気にも留めない様子で、何かを催促してくる。


「なんであんな所に倒れてたの? どうしてそんなにボロボロなの? それから――あなたって、魔法使いなの!?」


「え、えぇと……ははっ」


 思わず、乾いた笑いがこぼれた。

 さて、何から話すべきか――


 正直、色々と話すことはあるけど、一つだけ言っておくべきことがある。


「……ま、まず断っておきますけど、僕は魔法使いではありません」


「えぇー!そうなの!? だってほら、コレ!」


 ロナンさんはそう言って、光輪(ラース)の放つ光を指でつついた。


「そ、それは確かに魔法なんですけど、これはただの基礎魔法で――」


「ほらやっぱり、魔法使いさんじゃないですか! わー、初めて生で見ました!魔法も、魔法使いさんも!」


 ロナンさんは僕の言うことも聞かずに一人で盛り上がっている。

 確かに、魔法を使える人を総じて”魔法使い”と呼ぶ風潮があるのは知っている。


 でも、”ただ魔法が使える”ことと”魔法使いである”ということには、天と地ほどの違いがある。


「あのー、大変恐縮なんですけど、魔法使いっていうのは魔法のプロ中のプロのことであって、僕みたいな無能が名乗っていいものじゃないんです」


「え~と、あれですよね? ”魔総連”の承認を受けてるかどうかってことですよね? そんなの、私からしたら関係ないですっ! 魔法が使えるんだから、魔法使いさん!それでいいじゃないですか。フフッ。」


 ロナンさんはそう言って嬉しそうに笑った。

 

 正直、驚いた。

 まさかこんな所で”魔法総合機構統括連盟”――通称”魔総連”の名前を耳にするとは。


 ロナンさんの言う通り、正式に魔法使いを名乗る為には魔総連に申請をして、承認される必要がある。

 僕みたいに、基礎魔法しか使えない無能な落ちこぼれが、おいそれと名乗っていい肩書などではない。


「……ま、まあとにかく、僕は魔法使いではありませんからね。 本当にただの、一般人です」


「……うん、分かった。そこまで言うなら、キミは魔法使いさんじゃないです。 でも、私にとっては魔法使いですけどねっ! 綺麗だなぁ、この魔法。すごいなぁ……」


「…………ははっ」


 この人は、本当に分かっているんだろうか。

 やっぱり、不思議な人だ。


 それでも僕は、嬉しかった。


 久々に人に会えたことが――

 久々に誰かと話せたことが――


 そして、僕のなんてことない魔法を褒めてくれたことが――

 心の底から嬉しかった。

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