第六十五話
プラム様の提案を断った後は、話題も魔法から離れてクロード様を中心に他愛のない話が続いていき……。
「……まだ他の子たちともお話したいし。そろそろ失礼するわね」
そうしてほどなくすると、ナルシス様が席を立つ。
「あの。クロード様。せっかくですからご一緒にいかがですか?」
私はナルシス様の言葉に続くように、クロード様に声をかける。
ローレル様やシーダ様のようにクロード様に熱を上げている子たちの中に、クロード様を残していくわけにはいかないからね。
「クロード様にも、友人たちを紹介したいですし……」
だから私は友人を紹介したいと言ってクロード様をお誘いする。
「そうですね。ではご一緒します」
すると、クロード様は私のお誘いを快諾して立ち上がった。
「それなら私も――」
「それでは皆様、また後で」
私は後に続こうとしたローレル様の言葉を遮って笑顔でけん制すると、残念そうな気配を放つ周りを置いて歩き出す。
「それではまずあちらから」
まだナルシス様に紹介していない子たちは、二つのグループに纏まっているのが確認できたので、まず近いほうへと向かう。
私の後ろにはナルシス様とクロード様、プラム様の三人が続いた。
そうして近いほうのグループのもとへと辿り着くと、私はそこに居たリディエ様とその友人二人に声をかける。
「楽しんでいるかしら?」
「はい!」
「もちろんですわ」
「楽しんでおります」
「それは良かった。ナルシス様。こちらはメサス子爵家のリディエ様です」
私は元気よく返事をしてくれた三人に微笑むと、まずは手前に居たリディエ様をナルシス様に紹介する。
「レクス侯爵夫人、初めまして! リディエ・メサスと申します。お見知りおきいただけましたら幸いです」
「よろしくね」
「それでこちらが……」
更に続けて友人二人の紹介も済ませる。今日だけでも、もう何度も繰り返したことなので、手慣れたものである。
「皆は何を話していたところだったのかしら?」
三人の紹介が終わると、ナルシス様が尋ねて会話が始まった。
そこからは、ローレル様たちのグループのときとは違い、もっぱらナルシス様を中心に他愛のない話題が続いていく。
クロード様はあまり会話に入れていないけれど、今はそれが丁度良い小休止になっているはずだし、問題はなさそうね。
ここともう一つのグループの子たちは、クロード様に迷惑はかけなさそうな子たちばかりだし、後は消化試合になるかしら?
退屈そうなのはかわらないが、ローレル様たちのようにぐいぐいと来ない三人を前に、肩の力を抜いているように見えるクロード様。
そんなクロード様を気にしながら、私も少しだけ肩の力を抜いていたけれど、しかしそこでリディエ様の様子がおかしいことに気付く。
なんだか、そわそわとしているように見えるわね。それに私やクロード様のほうをちらちらと窺っているようにも……。
えっ? まさかリディエ様もクロード様を狙ってたりするの?
一瞬、リディエ様もクロード様を狙っているのかと思ったけれど、リディエ様の好みを思い出して違うと思い直す。
リディエ様はジールス兄さまのような筋肉質な方が好きだから、細身のクロード様は好みから外れているので狙うはずがない。
だけど、そうなるとこの態度は何なのかしら?
(ねえ。リディエ様がそわそわしているように見えるのだけど、どうしてそんな態度を見せているのかわかる?)
疑問に思った私はメリスの知恵を借りることにする。
『うーん確かに、言われてみれば落ち着きがなく見えるわね。でも理由なんか聞かれてもわからないわ』
しかし、どうやらメリスも理由を見つけられない様子。
「あの。ナルシス様とクロード様のお二人は、頻繁にメリス様とお茶会をしていると聞きましたが、本当でしょうか?」
すると、そんな私たちの前で意を決した様子でリディエ様が尋ねる。
「ええ。よくお茶会をしているわ」
「やっぱり! そうなのですね!」
ナルシス様の答えに、なぜか目を輝かせるリディエ様はどこか興奮している様子で、私はそれを見て首を傾げてしまう。
どうしてそんなに興奮しているのかしら?
『あっ! 不味い。話を止めなさい!』
(えっ? 何事?)
一方で、そんな私とは裏腹に、何か思い至ることがあったらしいメリスが叫んだけれど、いきなり言われても戸惑うことしかできず……。
「それであの。最近はメリス様とクロード様がお二人でお茶会をしていることもあると、そんな風にも聞いているのですが……」
そうこうしているうちに会話は進み。そこでようやく私もリディエ様の真意に気が付き、メリスに遅れて雲行きの悪さを察した。
ちょっとこれ! リディエ様の恋愛脳が出てるじゃない!
リディエ様は大の恋話好きであり、それも妄想を飛躍させるタイプだったということを、今さらながら思い出したのである。
そしてどうやら今回リディエ様のターゲットとなったのは私とクロード様のようであり、リディエ様は私たちの関係を邪推しているのだ!
「それも本当なのでしょうか?」
そのために、こうやって私とクロード様が二人でお茶会をしているのかと確認しようとしているみたいで。
だからこそ私は、このままだと不味いと慌てて動き出す。
私がクロード様に恋をしているのは事実であるため、リディエ様の邪推もあながち的外れではないことが問題なのだ。
だからこそちゃんと否定しておかねばならない。今はまだ、私の恋心をクロード様に知られるわけにはいかないのよ!
「いいえ。クロード様とお茶会をするときは、いつもナルシス様もご一緒よ」
私は努めてなんでもない風にさらっと否定する。
事実、お茶会をするときはいつもナルシス様が一緒だもの。クロード様だけとお茶会をしたことはない。
代わりに魔法談義はしているし、そこでお茶を嗜むことはあるけれど、それはお茶会ではないはずなのである!
というか、どうしてお茶会をしているなんてことに?
おそらくクロード様が私の特別な目を目的として、我が家を訪ねてきていることから話が発展したのでしょうけど。
そもそもなんで、そのことがリディエ様の耳に入っているのだろうか?
クロード様が我が家に訪れていることは、別に隠しているわけでもないが、広めようともしていないのでおかしいわよね?
馬車の往来は知られていたかもしれないけど、中に誰が乗っているかはわからないはずだし、誰を訪ねているかも同様のはず。
だから普通はそこで、仲は良いと評判で昔から行き来があったナルシス様とお母様が、交流していると考えるはずであり。
いくら今日のお茶会で私とクロード様に交流があったと知っても、そこから二人でお茶会をしていると疑問を持つだろうか?
いやまあ。リディエ様の恋愛脳は暴走しがちだし、あり得ない飛躍でもないのかもしれないけれど……。
「そうなのですか? ではカリス様がおしゃっていたクロード様がメリス様に会いに来ることがあるというお言葉は……」
と、思ったのだけど、原因はどうやらカリス兄様にあったらしい。
いやカリス兄様! いったい何をリディエ様に教えてるのよ!
「それは事実だけれど、お茶会はしていないわ」
非常に不味い。今さらだけど、クロード様が特定の令嬢のもとへと頻繁に訪れるということの威力を失念していた。
そんなの、私だったら間違いなく邪推するもの!
「魔法の教えを乞われたので、指導をしていただけです」
私の援護をするかのように、ただ事実だけを口にするクロード様。
だけど、そもそもそうやって魔法の指導をするだけでも、十分に仲が良さそうに見えてしまうというところが問題だった。




