第六十四話
「もうすぐ学園に入学することもあって、魔法の勉強を始めたのですが、なかなかに才能があると褒められましたわ!」
どうやら魔法の才能があると褒められたと口にすることで、クロード様の関心を引こうとしているらしいローレル様。
「私も入学に備えて習い始めましたの。でも、あまりうまくできなくって……」
一方で、シーダ様は逆にうまくいっていないことをアピールしている。
もしかして? 私がやったようにクロード様から教えを乞うことで距離を詰めようとしているのかしら?
だとすると同じ手段を使っている手前止めにくいと思っていると、二人に続くように他の子たちも会話に入ってくる。
「私はあまり才能がないと言われてしまいました」
「私もです。でも、魔法の勉強は楽しいですわ」
「私は座学はちょっと苦手ですけど。魔法が発動すると興奮しますの」
「私はまだ勉強していませんが、好きになれそうな気がしています」
「私もまだです。でも興味はありますのよ?」
皆、クロード様と話したくて仕方がない様子である。
さてさてどうしたものかしら? 魔法についての話題であれば、クロード様もそこまで邪険にしないとは思うのだけれど……。
でも、ローレル様とシーダ様を含めて、この子たちは魔法に興味があるフリをしているだけだから、そこが問題かしら?
だって私の知る限りだと、普段の会話で彼女たちが魔法を話題にしたことなんて、数えられるほどだったはずだもの。
しかも、その数少ない機会の中で、シーダ様が魔法の勉強なんて嫌いだと愚痴をこぼしていたことを私は覚えている。
それも確か、躓いたのは普通に勉強していれば問題ないはずの初歩の初歩みたいなところだったわよね?
シーダ様以外の子たちにしても、学園入学前から魔法の予習が始まったことに、気乗りしない様子を見せていたし。
だから正直、そんな彼女たちがクロード様の関心を引けるほどに、魔法の話題を盛り上げられるはずがないと思うのよね。
「なるほど。皆さん、魔法に関心があるのですね。それは素晴らしい」
「ええ」
「はい」
「そうなのです!」
その証拠に、クロード様が純粋に感心したようは声をあげると、喜びながらも何人かは控えめな仕草で目を泳がせている。
クロード様の素直な反応を見て、後ろめたさを感じたのか。あるいは話題が広がったときに、ぼろが出ることを恐れたのかもしれない。
「ええとても。でも、やっぱりうまくできないので……。ですので、あの。よろしければクロード様に指導をお願いできたらと……」
だが、そんな中でもシーダ様は恐れることなく勝負に出たようで、控えめにクロード様に指導をお願いできないかと口にした。
やっぱり、指導を口実にクロード様との距離を詰めようとしているらしく、こうなるとさすがに見過ごしてもおけない。
だってそんなの、うまくいくはずがないもの!
似たような手段を使った私が言うのもなんだけど、シーダ様のレベルでクロード様から魔法の手ほどきを受けようなんて……。
身の程知らずにもほどがあるというか、良い未来がまったく見えないのだけど、どうやらシーダ様はその辺がわかっていないらしい。
察するに、シーダ様的にはクロード様に手取り足取り魔法を教えてもらう未来を想像しているのでしょうけど……。
だけどシーダ様のレベルでは望み薄である。だって少し熱を入れて勉強すれば通過できる初歩の初歩で躓いているのだから。
それなのに魔法に興味がありますというのは苦しいと思うのよね。
そんなところで躓く者が、果たして本当に魔法に興味があるのかと問われると、疑問を挟まざるを得ないだろう。
きっとクロード様だって疑問に思うでしょうし、すぐにシーダ様は魔法への興味が薄いと見抜いていしまうに違いない。
だってシーダ様のことだから、魔法の勉強なんてそっちのけでクロード様にべたつこうとするのが目に見えているもの。
そうなればクロード様も、自分に近づく口実に魔法を使っただけなのだと察してしまうでしょうし、きっと目も当てられないことになる。
「それならば優秀な家庭教師を紹介いたしましょう。私はまだまだ若輩です。それに、人に教えるのは得意ではありませんので」
ただ、幸いなことに私が口を挟むまでもなく、クロード様がやんわりとお断りの言葉を口にしたので、その未来は回避された。
まあ、そもそもクロード様が簡単に了承するはずがないわよね。
「それでもかまいません。家庭教師だと堅苦しいですし……」
しかし、それでもシーダ様は諦め悪く食い下がろうとする。
「なら、私が教えてあげましょうか?」
なので、私も口を挟むことにした。
あるいはきちんと魔法を勉強してきたうえで、クロード様から手ほどきを受けたいと言うのならばともかく。
今の不勉強が見て取れる状態でクロード様から魔法の手ほどきを受けようとするのは、どう考えても悪手でしかない。
そんな有様ではすぐに魔法に興味がないとクロード様に見抜かれて、不快に思われるのが目に見えているもの。
だから私としては、クロード様を不快にさせないためにと思いながらも、シーダ様にも助け船を出したつもりだったのだけど……。
「メリス様が、ですか?」
シーダ様には伝わらなかったらしく。
「ええ」
私が頷くと、シーダ様は僅かに目を細めた。
「ですが、ご迷惑では?」
シーダ様的には邪魔をするなと言いたいのだろう。目が笑っていない。
「そんなことありませんわ! 私でよければ是非!」
だけど、私はそんなものは無視して満面の笑みを浮かべてみせる。
「人に教えれば自分の理解も深まると聞くもの。だからシーダ様も、遠慮せずに頼ってくれたら嬉しいわ」
こうして善意を前面に押し出して迫れば、断りにくいわよね?
「……そうですか。では、機会があればお願いしますわ」
読みは正しく、シーダ様は僅かに逡巡したのちに笑顔を見せる。
「ええ機会があれば」
なので私も、たぶんそんな機会は訪れないだろうと思いながら頷いた。
「あ、あの! でしたら我が家で勉強会などいかがですか?」
すると、そこで声を弾ませたプラム様が会話に入ってくる。
「勉強会?」
正直、そんなことをプラム様が言い出すとは思っていなかったので驚く。
「ええ。私もメリス様に魔法を教わりたいですし、我が家に集まってお茶でもしながら魔法の勉強会をしませんか?」
私の疑問の声に目を輝かせながら早口で食いついてくるプラム様は、なんというか随分と積極的な様子に見えた。
(なんだか意外ね。プラム様からそんな提案があるなんて)
先ほど、私とクロード様の会話に入ってきたときに、魔法の勉強に力を入れていると口にしたのも意外だったけれど。
まさかプラム様が魔法の勉強会をそこまで熱望するなんてね。
『そんなの魔法を出汁にしているに決まってるじゃないの』
私が意外に思っていると、訳知り顔でメリスが予測を口にする。どうやら疑問が心の声となっていたらしい。
でも出汁にするとはどういうことかしら?
(それって。プラム様もクロード様の関心を引きたいってこと?)
そんな素振りまったくなかったわよね?
『違うわよ。プラム様が引きたいのはあたなの関心よ』
私が疑問をこぼすと、メリスからはすぐに否定の言葉が返ってきた。
(えっ、私の?)
私はその答えに最初は合点がいかずに目を瞬かせる。
(……ああなるほど。それでさっきからアピールしているわけね)
ただ、言われてみればなるほどと思ったので、すぐに納得した。
つまり勉強会は私を家に呼ぶための口実ってわけね。うーん……。
「メリス様、シーダ様。今度の日曜日にでも、どうですか?」
「そうねぇ……」
正直に言えば、私は本気で誰かに魔法の教鞭を取るつもりがなかったので、あまり乗り気にはなれなかった。
全部シーダ様の目論見を阻むための行動だったし、シーダ様からしてみても私に魔法を教わりたいとは思っていないだろう。
だから話は有耶無耶なうちに流れると思っていたので、本気で誰かに魔法を教えることになるとは考えていなかったのである。
そもそも人に教えられるほどの知識はないし、ここは……。
「いえ。やっぱりまずは家庭教師とともに頑張りますわ。わざわざメリス様のお手を煩わせるのも悪いですし」
私がどうお断りしようと悩んでいたら、先にシーダ様が動く。予想通りだけど、シーダ様も私からは教わる気がなかったみたいだ。
よし。なら私もこの流れに乗らせてもらうことにしよう。勉強会を理由に私を呼び出したいだけと聞くとなおさら乗り気になれないし。
あるいは万が一にも本当に魔法の勉強がしたいだけだったとしても、やはり私では力不足が否めないので家庭教師を頼るほうがいい。
そう考えた私はプラム様の提案を流してしまうことにした。
「そう……。まあ、考えてみると私もまだまだだし。きちんとした先生に教わるのが一番かもしれないわね」
「はい。ですのでプラム様。ありがたい提案なのですが、遠慮しておきますわ」
「せっかく提案してくれたけど、またの機会にしましょう」
「そうですか。残念ですけど仕方ありませんわね」
そうして私とシーダ様やんわりとお断りすると、望みがないと見たのか、プラム様は残念そうにしながらも引き下がった。
長らく投稿を滞らせてしまい誠に申し訳ありませんでした。
どうにも創作意欲が湧かずに怠けていたら、あっという間に月日が過ぎさっておりましてですね……。
すべては私の至らなさゆえなのですが、読者の皆様を随分とお待たせするかたちになってしまいました。
重ね重ねお詫び申し上げます。
もう本当にダメダメな作者ですが、今後ともどうぞよろしくお願いします。




