第六十三話
「血筋。神様に選ばれる。それらが正しいのかは、わからないけど……。そもそも才能って何かしら?」
「えと。才能は才能ですよね?」
私の問いかけにきょとんと首を傾げるプラム様。
「じゃあ。属性適性に差ができる原因ってなんだと思う?」
「それは……。属性適性は多くの場合、親の持っている適性が子にも遺伝すると、そう習いましたわ」
「まあ。そうなのだけど……」
うーん。私の質問の仕方も悪いけども、それ以上に大きいのはプラム様と私の認識の差がある。
確かに今までの研究だと属性適性は遺伝するというのが通説だ。でも、その辺りには興味がないのだ。
私が言及したいのはもっと別のところである。
「えっと。属性に適性があれば魔素を集めることができ。なければ魔素を集められない。ここまではわかる?」
「はい。属性適性がないと魔力が空転するのですわ」
「ええ。その通り」
例えば火属性の適性がない者が火属性の魔法を発動しようとすると、魔力の空転現象が起こり、発動に漕ぎつけない。
そしてこうなったとき、火属性の属性適性がないと判断される。ここまでは研究によって明らかにされている事実だ。
「では。属性適性がないと、なぜ魔力は空転するのかしら?」
「ええっとそれは……。その……」
「……少し考えてみて頂戴」
「はい……」
難しい顔で悩み始めるプラム様。無理もないわね。
魔力が空転するのは属性適性がないからであり、それ以上でも以下でもないというのがこれまでの研究結果だ。
さらに属性適性の有無も、そのまま才能の有り無しで語られる。そこで研究が停滞している。だからこの問いかけは……。
(ちょっと意地悪だったかしら?)
プラム様を見ながら、私は内心でつぶやく。長年識者たちが研究しても答えに辿り着けていないのに、答えられるわけがない。
私とクロード様はすでにその答えに目星を付けているけれど……。
それは私たちに大きなアドバンテージがあったからだ。
『そうね。魔素にも属性、色があることを知らないのだから、どうやったって答えられないわよ』
そう。メリスの言う通り、私たちは魔素にも色(属性)があると知ったからこそ、仕組みを導き出せた。
魔素にも色(属性)があると知らず、世界に満ちる魔素がすべて同じものだと考えてるうちは難しいわよね。
特に属性適性には、魔法の発動工程の中にある魔素の色の変換工程が密接に関係するけど、その変換工程も未発見だし……。
だからプラム様が質問に答えられるとは思えないけど、それでも何か思い付くことがあれば聞きたい。
私はそんなことを思いつつ、目の前でうんうんと必死に頭を悩ませているプラム様を見詰めながら待つ。
「……勉強不足で申し訳ありません。メリス様、教えてください」
ほどなくして、プラム様は根をあげた。
「ふふっ。大丈夫よ。私も答えはわからないから」
私はプラム様に笑いかけながら、嘘をつく。
基本的に、属性適性は集めた取り取りの色の魔素を、魔法の発動に必要な色(属性)の魔素に変換できるか否かで決まる。
最初から特定の属性、一色の魔素しか集めることができない者の場合は、特定の属性だけ変換工程を無視できたりするけど……。
それは別として。例えば火属性の魔法を例に取って考えると。
集めた取り取りの色の魔素を、赤色に変換することができる者を、火属性の属性適正有りと判断して。
逆に集めた魔素を赤色に変換できず、魔力だけを空転させてしまう者を、火属性の属性適性無しと判断する。
といった具合に理論立った説明ができるのだ。そしてだからこそ、私とクロード様は治癒魔法に頭を悩ませていた。
特定の色の魔素を選択して集めることができる私は、属性適性の有無による影響を受けずに、全属性の魔法が使える。
本来ならば近くから無差別に集めることしかできない魔素を、どういうわけか私だけが選択して集めることができた。
ゆえに属性適性がなく、集めた魔素の色を必要な色に変換できなくても、最初から必要な色を集めることで代用できる。
だから治癒魔法も発動できて然るべきなのに……。
「あら。メリス様もわからないのですか?」
「ええ。考えているのだけど、わからないの」
「それだけ難しい問題なのですわね」
「ええ。何人もの研究者が根を上げた難問よ」
プラム様に適当に返しながら、私は考える。
魔素の色を見て、きちんとホルキス先生がやっている通りの配分で青色と黄色の魔素を集めているはずなんだけど……。
どれだけ完璧にホルキス先生の治癒魔法を模倣しても、発動しない理由はいったい? 困ったことに見当もつかない。
こうなってくると頼りたくなるものがある。それは前世のゲームの知識に由来する未来予知のようなもの。
確か、攻略対象者の一人が、誰でも飛行魔法を発動可能になるという、画期的な魔道具を開発するはずなのだ。
ゲームの中では詳しい経緯が省かれていたけれど、歴史的な偉業を称えられた革命児がゲームには存在した。
飛行魔法もまた、治癒魔法と同じように特殊な魔法に分類される魔法。その魔法を誰でも発動可能にするなんて……。
いったいどうやったのかしら? 私とクロード様のように魔素に種類があることを突き止めた? ともかく興味深い。
一度会っていろいろと話してみたいところだけど、でもゲームでは私とは関わりのなかった相手だから、難しいのよね。
不用意にゲームのストーリーを歪めたくはなかった。
「さすがはメリス様です! そのような難しい問題を考えているなんて! 素晴らしいですわ!」
「大したことじゃないわ」
「そんなことありませんわ。是非お考えをお聞かせください!」
再びぐいぐい来始めたプラム様の相手をするため思考を中断する。
「ええっと……」
考えを聞かせて欲しいと言われても難しい。私の目のこととか、話せないことが多々あるからね。
期待しているところ悪いけど、お茶を濁すほかない。
「話すと長くなるから。またの機会にしましょう」
「そ、それでしたら! 今度我が家――」
「メリス様。盛り上がっているようですね」
「私たちもお話に混ぜていただけますか?」
プラム様は尚も何かを言おうとしたけど、被さるようにローレル様とシーダ様が会話に入ってきたため口を噤んだ。
「お二人とも。急に割り込んで来ないで頂戴」
むすっとした顔で、不機嫌そうに二人に抗議するプラム様。会話に割り込まれたことがお気に召さないらしい。
プラム様は二人に向かって非難の眼差しを向けている。
「あらごめんなさい。私もクロード様とお話したくてつい」
「申し訳ありませんわ」
プラム様の眼差しをどこ吹く風と受け流すシーダ様とローレル様。二人の視線はクロード様を捉えて離さない。
「魔法のお話をしていましたのよね」
「私も魔法のお話には大いに興味がありますのよ」
眉をひそめるプラム様をおいて、ローレル様とシーダ様は強引に会話を進める。クロード様しか眼中にないみたい。
まったくこれは……。本当に、お二人にも困ったものね。




