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侯爵令嬢メリスの奮闘記  作者: 紙禾りく


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第三十四話

 マイアの案内のもと、私とクロード様は我が家の庭の一角(普段私が魔法の練習をする開けた砂地)にやってきていた。


「サイト。……さて、それではメリス嬢、さっそくライトニングの魔法を使ってみてください」

 そう言って私から少し距離を取るクロード様。マイアもすでに私から離れた場所に移動している。


「わかりました」

 いよいよ、そのときがきた。私は気合を入れる。もっとも、気合を入れようが失敗するのだけど……。

 というか、成功したら不味い。


 教えてもらうという口実でクロード様との仲を深める策が失敗してしまう。


「行きます……」

 右腕を上げ、誰もいない方向へと手のひらを向け。そして、ライトニングの魔法の発動に必要な準備を始める。

 まずは発動する魔法を指定して。それから……。


 次に手のひらから魔力を放出して……。魔素(魔法の発動に必要な物質)が集まってくるように意識……。

 今回は光属性の魔法だから、集めるのは黄色い魔素ね。黄色の魔素が集まってくるように念じて。よし。いける!


 十分な量の魔素が集まったことを感じたので、呪文を唱える。


「ライトニング!」

 これで。本来ならば手のひらから稲妻がほとばしるはずなのだけど…………。駄目ね、何も起こらないわ。

 予想通りの結果。さて、クロード様に意見を伺いましょうか。


「……クロード様。どうでしょうか?」

「サイトの魔法で見た限りは、何の問題もないように見えましたが……。メリス嬢、もう一度お願いできますか?」

「わかりました」


 再度、右手を構え、魔法を発動する準備を……。あっ、でもその前に。


「サイト」

 ライトニングの魔法を発動する前に、クロード様に倣って、私もサイトの魔法を発動しておくことに。

 この魔法、あんまり好きじゃないのだけど……。


 サイトの魔法が発動すると、途端に世界が色鮮やかになる。うーん。やっぱり慣れないわ。これが苦手なのよ。

 サイトの魔法は魔力や魔素を視認できるようにする魔法であり、魔法の発動プロセスがわかりやすくなる便利なものなのだけど……。

 

 ただ。サイトの魔法で見えるようになる魔素は、世界を覆うように存在しており、しかも六色の色が付いているため。

 サイトの魔法を発動すると、まるでカラフルなカラーレンズを通したように世界が見えるようになって、少し気持ち悪い。


 でも、我慢しましょう。視認できると魔素も集めやすくなるし……。


「行きます」

 先ほどと同様に発動する魔法を指定して、手のひらから魔力を放出すると、黄色い魔素が集まってくるように念じる。

 うん。見える分、やっぱりさっきと比べて集めやすいわね。


「ライトニング」

 黄色い魔素が一定量集まったので、再び呪文を唱えた。すると手のひらに集まった黄色い魔素が弾け……。

 そして何も起こらず、集まった魔素は辺りに散っていった。


 やっぱり発動しないわね……。


「うーん。やはり発動するための工程には何の問題もなかった……。しかしだとすると、なぜ魔法が発動しない?」

 不思議そうにつぶやき、考え込むクロード様。あれ? もしかしてクロード様にも魔法が発動しない理由がわからないの?


「……行使した魔力量が半分ほどで、少ないようにも見えたが、それでも発動に必要な量の魔素は集まっていた……」

 ぶつぶつと小さな声でつぶやくクロード様。こうして考えに没頭してしまうと、つぶやきがもれるのはゲームと同じなのね。


 やっぱり。かっこいいわ……。


 ゲームのときの知識から、魔法に没頭するクロード様の表情が、いつもより引き締まることを知っていたけど。

 現実になると、思った以上に素敵だ。普段からきりっとした表情をしているのに、それがさらに引き締まって……。


「……少ない魔力で魔素が集まるのは、属性特化型にみられる特徴。なら。メリス嬢に光属性の適性がない可能性も……」

 こうやって、無表情ではないクロード様の姿が見れるのはとても貴重なことだ。ゲームでも、滅多に表情を崩さなかったし。


「……いや。だとしても、それならば魔素がうまく集まらずに、魔力が空転していなければおかしい……」

 考えにふけるクロード様の横顔をまじましと眺め続ける。この貴重なお顔を堪能しておかねばならない。


「……魔素はしっかり集まり、形をなしていた。メリス嬢、念のためお聞きしますが、光属性の適性はあるのですよね?」

「はっ、はい。もちろんあります」

 クロード様がこっちを向いたので、慌てて視線を逸らし答える。


「そうですか……。うーん。しかし、だとすると……」

「あの。クロード様でも原因がわからないのでしょうか?」

 クロード様に見惚れていたせいで、話半分だったのだけど。どうにも雲行きが怪しくなってきている。


 これでは、クロード様に手取り足取り教えてもらう計画が……。


「ええ。残念ながら、わかりません。」

「そ、そうですか……」

「さて。どうしたものか……。ああ、そういえばメリス嬢、ライトニングの魔法を見たことはありますか?」


「いえ。ございません」

 残念ながら、ライトニングの魔法を実際に見たことはない。家庭教師の先生は光属性の適性がなかったし。

 でも、別に見なくても魔法は発動する。


「ふむ。ならば一度、ライトニングの魔法を使ってみせましょう。メリス嬢はサイトが使えるようですし、参考になるかもしれません」

「わかりました!」

 クロード様の勇姿。しかと見させていただきます!


「では、行きますよ」

 クロード様が構えた右の手のひらから魔力が放出され、その魔力に吸い寄せられるように、近くに漂う魔素が集まっていく。


 そうして、近い所から無作為に集められた色とりどりの魔素は、クロード様の手のひらから放出される魔力に触れると。

 触れた傍から、魔素の色が赤色と黄色に変化していく。やがて、クロード様の手のひらに赤と黄の二色の魔素が渦巻く球体が誕生する。


「ライトニング」

 クロード様が呪文を唱え、集まった魔素が弾けて消える。同時に、クロード様の手のひらから稲妻がほとばしった。

 問題なく、ライトニングの魔法が発動したのだ。


 おお! これがライトニング。なるほどね。黄色の魔素だけじゃなく赤色の魔素も必要だったわけね。

 道理で発動しないわけだ。光属性に区分されている魔法だから、てっきり黄色の魔素だけで良いのかと。


 勝手に魔素の色を変換する工程を省いたのが駄目だったわね。


 普通に魔法を使っていれば必要な色の魔素が集められず、魔力が空転しただろうから、黄色以外の魔素が必要だとわかったのに。

 でも、仕方ないわよね。だってわざわざ必要ない色の魔素を集めてから、必要な色の魔素に変換すると、魔力の消費が激しいもの。


 そりゃあ。クロード様や、あるいは家庭教師の先生なんかみたいに、魔法使いの中でも魔力が多い方々はそれで良いでしょうけど。

 魔法使いの平均以下の魔力しか持たない私にとっては、最初から必要な色の魔素を集めて、変換の工程を省くのは、とても重要なのだ。


「どうです。参考になりましたか?」

「ええ。大変参考になりました。見ていてください!」

 種がわかれば簡単。赤色と黄色の魔素を集めれば良いだけなのだから。すぐに魔力を放出して必要な魔素を集める。


「ライトニング!」

 呪文を唱えると、問題なくライトニングの魔法は発動し、私の手のひらから稲妻がほとばしった。

 てっ。しまった! こんなあっさり成功する予定ではなかった!


 うぐぐ……。できそうになっても、できないフリをして、できるだけ長くクロード様の教えを受ける計画が。


「ふむ。確かに成功しましたね。しかし、発動までの工程に先ほどとの違いはない……。メリス嬢、何をしたのです?」

 あれ? 見てわからなかったのかしら? クロード様はサイトの魔法を解除していたの? そんなはずはないと思うけど……。


 というか、そもそもなぜクロード様は、先ほどまで私が黄色の魔素しか集めていなかったことを、指摘しなかったのだろうか?


「えっと、先ほどまでは黄色の魔素しか集めていないために、失敗していたようです。なので、赤色の魔素を集めたのですが」

「えっ? ちょっと待ってください……」

 無表情が崩れ、クロード様の表情が訝しげなものに。


 おお。珍しい。これまたレアな表情、脳内に保管せねば……。


「……何を言っているのです? 赤色を集めた?」

「ええ。そうです」

「意味がわかりません。魔素に色なんてありませんよね?」

 えっ! それって……。ええっ? 何言ってるの?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔力に色がある認識はメリスだけ?(笑)
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