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侯爵令嬢メリスの奮闘記  作者: 紙禾りく


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33/65

第三十三話

「まあ、そうなの?」

「ええ。それで……」

 四人掛けのテーブルの一角に座った私は、両隣のナルシス様とお母様の会話を聞き流しながら、気を揉んでいた。


(ねえ。もうお茶会が始まってから、だいぶ時間が経っているけど。いったい、いつになったら話しかけるの?)

『もう少し待ちなさい。こういうのはタイミングが大事なのよ』

(それはわかっているけど……)


 そうはいっても、時間は有限なのだ。お茶会は長くとも二時間ほど、早ければ一時間と少しで終了するのが常。

 タイミングを見計らうのは大事だけど、それで機会を逃してしまうことになれば、次にクロード様に会えるのはいつになるか。


 それに……。


(時間をかけるほど、私の神経は磨り減っていくのよ?)

 ただでさえ、クロード様の前に出て緊張しているのに。そこに加えて、いつでもクロード様に話しかけられるように気を張っている。

 そうして、メリスのタイミングを待つこの時間は、けっこう辛いのだ。


『はぁー。わかったわ。なら、最初の言葉は「クロード様、少しお尋ねしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」でいくからね』

(え、ええ。いつでもいけるわ)

 第一声に言うべき言葉を心の中で反復しながら、メリスの合図を待つ。


 ああ……。ついにそのときがきてしまうのね。ドキドキしながら正面に座るクロード様の顔色を窺う。

 黙って座るクロード様はあいかわらずの無表情で、内心で何を思っているのか、表情からは窺い知れない。


 あっ! 目が――。


『ほら! 今よ!』

 クロード様と視線が交差したと思った瞬間、メリスから合図が飛んだ。こ、このタイミングでいくのね。

 よし! じゃあ、い、いくわよ!


「……」

 意を決して話しかけようとするが、なかなか言葉が出てこない。

『ほら。なにしてるのよ! 頑張りなさい!』

 うおおお! やるのよ! やるしかないのよ私いいぃ!


「……あの、ク――」

「そういえばメリス嬢……」

 頑張って、なんとか口に出そうとしたというのに、私の小さな声は同時に口を開いたクロード様の声にかき消されてしまう。


「……遅くなりましたが、誕生日プレゼントをありがとうございます。栞、使わせていただいております」

「……」

 な、なけなしの勇気を振り絞ったのに……。


『ほら。「まあ! 喜んでいただけたのですね。良かったです」こう返しなさい! このままうまく話を持っていくから!』

 えっ、あっ。そうね。そうよ! 落ち込んでいる場合ではない。せっかくクロード様から話しかけてくれたのだから、生かさないと!


「……まあ! 喜んでいただけたのですね。良かったです」

 慌ててメリスに言われた通りを口にすると。

『あの栞は特注で……』

 すぐに次の言葉がメリスから告げられるので、それもそのまま口にする。


「『あの栞は特注で作らせたものなのです。クロード様に魔法書を頂いたのが嬉しかったので、せめてものお礼にと』」

「そうだったのですか。通りで……。見慣れない意匠の品だと思っていました。素敵な贈り物をありがとうございます」


 私がクロード様に贈った誕生日プレゼントは、チャームが雪の結晶を模した、銀でできたブックマーカーだった。


「『本当は魔法好きなクロード様に似合うよう、魔法陣の意匠にしてもらおうと思ったのですけど、魔法陣は複雑で』」

「まあ確かに、彫り込むならともかく、あのように模ったものにするとなれば。魔法陣は複雑過ぎて難しいでしょうね」


「『ええ。そうなのです。職人に難しいと断られてしまいまして。残念ですわ。魔法陣、クロード様にぴったりだと思いましたのに』」

「そうですか。それは残念ですね」

「『ええ。本当に……』」


『ここで一呼吸置いて。次で本題にいくわよ……』

 メリスから次々と出される言葉に従うことによって、思ったよりもすらすらと会話できたけど……。

 ついに本題に入るのね。一呼吸の間に、気合を入れる。よし!


「『ときにクロード様、実は少しお尋ねしたいことがあるのです』」

「なんでしょうか?」

「『実は先日頂いた魔法書の魔法について不可解なことがありまして、クロード様にご意見を伺いたいのですわ』」


 さあ、あとはクロード様から良い返事がもらえるかどうか……。あれ? 


 ここで周りが不自然に静かなことに気付いた。楽しそうに話していたお母様とナルシス様の声が聞こえない。

 二人のほうへ視線だけ動かすと、なぜかお母様とナルシス様は会話をやめており、興味深そうにこちらを見ていた。


 いつの間にか二人の注目を集めていたみたい。全然気付かなかった……。


「なるほど。そういうことなら力になれるとは思いますが。しかしメリス嬢にも、家庭教師がついていますよね?」

「『ええ。ですが先生にもわからないようでして』」

「ふむ。家庭教師がわからない不可解な点ですか……」


(メリス。ここからはもう一人で大丈夫よ)

『わかったわ。あとは任せるわね』

 ここまでくれば後はなんとかなる。会話が続いてしまえば、あんなに緊張していたのが嘘のように、自然に緊張が解れた。


「それで。何が不可解なのでしょうか?」

「はい。ライトニングの魔法なのですが、うまく発動しないのです」

「うーむ。それだけではなんとも言えませんね」

「そ、そうですよね……」


 ここで実際に私の魔法を見て欲しいとお願いしたいのだけど。さすがにそれは図々しいかしら?

 うーん、どうしたものか……。そうやって悩んでいると、ここでナルシス様から思わぬ助け舟が。


「だったら、メリスちゃんの魔法を見てあげたらいいじゃない。そうすれば原因もわかるでしょう?」

「ふむ。まあ構いませんが……」

「決まりね。クロード、ちゃんと教えてあげるのよ」


「わかりました。ではメリス嬢、魔法が使える場所へ行きましょうか」

「はい!」

「ご案内いたします」

 クロード様に続いて私も立ち上がると、それを見たマイアが扉のほうへ……。


(よっしゃぁあああああ!)

『ちょっ。うるさい!』

(あっ。ごめん、喜びのあまりつい……)

 でもほら。仕方ないじゃない? こんなにうまくいくと思わなかったのだから。

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