第三十五話・クロード視点
フレール侯爵家からの帰り道、がたごとと馬車に揺られながら俺は、メリス嬢との会話に思いを馳せていた。
魔素が色付いて見えるなどと。最初にそう言われたときは、何を言っているのか、訳がわからなかったのだが……。
メリス嬢が嘘をついているとも思えず、気になって詳しい話を聞けば、まさかあれほど興味深い話を聞かされるとは。
もし。あの話が事実だとすると、大発見だが……。
火、土、光、風、水、闇、魔法の六属性に対応するように存在する赤、オレンジ、黄、緑、青、紫の六色の魔素の話。
さらに、メリス嬢が省いてみせたという、魔法を発動するための工程の中に存在する、魔素の色を変換するという工程の話。
あれらは、魔素が灰色一色にしか見えない俺からしてみれば、荒唐無稽で信じられないような話ばかりだったが。
しかし、仮に魔素に色が存在するとすれば、これまで解明されていない、魔法の未知なる部分に納得のいく説明も……。
魔素の色の変換。魔素に色があるなどとは思っていなかったので、魔法の発動工程にそんな工程が存在するなど、思ってもみなかったが。
実際に変換する工程が存在して、そしてメリス嬢の言うように、魔法の属性それぞれに対応するように必要な魔素の色が、種類が、あるとしたら……。
「……これまで才能の一言で片付けられていたことも解明できるかも……」
メリス嬢は魔法の発動に際して、特定の色の魔素だけを集めることで、魔素の色を変換する工程を省き。
そうして、発動に必要な魔力を削減していると言った。
残念ながら、俺には魔素の色が判別できないので、本当のところはわからないが。しかし、わかることもある。
メリス嬢がやってみせたライトニングの発動に際しての、魔素の集まり方は確かに属性特化の魔法使いと一緒だった。
「……つまりそれは属性特化の魔法使いが特定の種類の魔素だけ――」
「クロード。楽しそうね」
「むっ。母上、声にもれていましたか?」
「ええ。ぶつぶつとね」
ふむ。考えに没頭すると、ついつい口から言葉がもれてしまうのは俺の悪いくせだが、またやってしまったようだ。
俺は何をつぶやいていただろうか? 魔素に色があるなどという話は、できるだけ広めるべきではない話なのだが……。
まあ、後で父上も交えてから、母上には口止めをしておけば良いか。
「メリスちゃんと、随分話し込んでいたみたいだけど。何か良いことでもあったのかしら?」
「魔法のことで、面白い話が聞けまして」
「そうみたいね。はぁー」
大きなため息をついた母上、どういうわけか残念そうな表情をしている。うん? 何か問題でもあったか?
俺とメリス嬢が仲良くなることを望んでいる母上からしてみれば、メリス嬢と会話が弾んだのは嬉しいことのはずだが。
「クロード。魔法に夢中になるのはいいけどね。もう少しメリスちゃんの気持ちを理解してあげないと……」
メリス嬢の気持ち? ああ。そう言われてみると、俺の取った行動はメリス嬢を困らせていたかもしれないか。
メリス嬢の語った内容が興味深くて、ついつい夢中になって話し込んでしまっていたが、少し軽率な行動だったかもしれない。
メリス嬢の都合も考えず、フレール侯爵夫人とのお茶会を終えた母上が呼びに来るまで、話に付き合わせてしまったのは失敗だった。
今思い返してみると、かなり配慮に欠けた行動を取っていた。
メリス嬢は病弱だと聞いていたというのに、あんな寒空の下で長々と話をするべきではなかったし……。
思えば、俺からの矢継ぎ早な、問い詰めるような質問に、メリス嬢は始終困惑していたように思える。
それでも何も文句を言わず、話に付き合ってくれたみたいだが。メリス嬢はあまり自己を主張しない令嬢だからな。
レクス公爵家の嫡男という俺の立場のことも慮って、内心では迷惑に思いながらも、それを隠していただけなのかもしれない。
ちょっと悪いことをしたか……。
「そうですね。半ば無理矢理話に付き合わせて、迷惑をかけました。次はメリス嬢の都合も考えて行動します」
それにしても、さすがは母上。その場にいたわけでもないのに、俺とメリス嬢がどんな風に会話をしていたか、予想がつくとは。
「はぁー。そういうことを言っているのではなく……。やっぱりアルの血を引いているだけのことはあるわね」
「魔法の事となるとつい。自覚はあるので注意はしますよ」
「だからそうじゃなくて……。いや、アルの子だものね」
どこか呆れたように言葉を濁した母上。どうやら言っても無駄だと諦めた様子。まあ、無理からぬことか。
母上も重々承知しているのだ。魔法の事となると夢中になって周りが見えなくなるのは、レクス家代々のものだと。
さて。母上との会話も途切れた。先ほどの考察の続きでも……。
えっと……。属性特化の特徴、特定の属性の魔法を使用する際に必要な魔力量が、普通より少なく済むその原因。
それがメリス嬢がやってみせたように、特定の種類の魔素だけを集め、魔素の種類を変換するという工程を省いている結果だとして……。
「さらに俺のように、他の魔法使いが意図して特定の種類の魔素だけを集めることをしていないと仮定すると」
つまりは属性特化の魔法使いも、意図して特定の種類の魔素を集めているわけではないということになるから……。
それは、意識して集めずに、その種類の魔素だけが集まるということ。
「ならば個人によって、集められない種類の魔素がある可能性が……」
さらには、属性特化の魔法使いには属性適性が少ない者が多いという特徴があるから、そこを加味して考えると……。
おそらく、魔素の種類を変換できるかどうかにも個人差が……。
「はぁー。私とアルもいろいろあったけど……。私と違い、メリスちゃんは奥ゆかしい分、私より苦労しそうね」
母上が、独り言のように何かつぶやいたが、考えに没頭していたことと、小さい声だったこともあって、よく聞こえなかった。




