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罪人の孫  作者: レム
第1章 『災厄、再び』
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第34話 『反逆の牙』

 人は雰囲気に弱い生き物だ。

 一人男の中、女の園に迷い込んでしまえば客観的にはハーレム状態でうはうはかもしれないが、それには全員から好意を向けられるという天文学的にあり得ない確率をパスする必要があって実際には針の筵になっている。

 目線が突き刺さるとはよく言ったもので、無言のまま見つめられでもすれば緊張するし変に動機が止まらない。それが可愛い子なら許容できるのだが、修羅場をくぐって来た威厳ある大人に向けられればたまったものではない。


「この情報は確かなのだね」


「そう思ってもらって間違いないですわ」


 そこにいるのは十人。内訳八対二で勢力が分かれている。

 円卓会議を行っている彼ら、彼女ら十人の手元には照らす灯りと数枚の資料及び写真が添えられていた。


「そこに添えられている写真がすべてですわ」


「まあそうだな」


 書類の脇に置かれている写真に写っている深蒼の髪の少年。


「あなた方ならぜひ協力をして頂けると持っておりますのよ」


「――チッ」


 向こう側の男が小さく舌打ちをする。彼女が持ってきた書類が面白くないのだ。


「協力して、頂けますよね? じゃないと貴国にとって大きな損益に繋がると思いますわ」


「小娘が……どこで嗅ぎ取った」


「わたくしは少々手癖が悪いのでやれる事はなんでもしたくなってしまう性分なのですの。国境関係なく周辺地域を虱潰しで探すくらい訳ないのですわ」


 彼女――エミリアは不敵に笑む。そこ横で付き添いとして来ているユーナは複雑そうな表情を浮かべていた。他の面々は全員ゲルフの権力者達。


「あなた方が秘匿していた『番外なる血統』についての情報をわたくしは今すぐにでも全世界に公表する事だって可能ですのよ。こうして交渉に訪れているのはわたくしの恩情なのですわ。その辺についてしっかりとした必要でしてよ」


 再び空気が一気に張りつめていく。時間をかけて見つけた手掛かり。ユーナの聖光の力を微粒子まで分解して散布する事によって数百キロにわたって特定の人物を割り出す事が出来る力を使ってデュークを見つける事に成功。

 そこが他国のゲルフだと知った時には手続き関係で大きな時間を取るかと思っていたのだがユーナがよく言っていた棚から牡丹餅とはこの事かもしれない。

 もう一人いたのだ。

 どの国も暗黙の了解に内に秘匿にしているエクストラの存在が。

 それに触れてくる国はいない。わざわざ藪蛇を侵す理由が存在しない。しかし、犯してならないわけではない。むしろ、規則に則ってしっかりと指摘する事が本来のルールなのだ。

 人間は往々にして自分の都合のいい様にルールを解釈しがちだ。


「わたくしは大罪人であるデュークの拘束に動くつもりですわ。その際に、あなた方の国にお邪魔したいと言っているだけですの。なにか不都合でもあるのかしら」


 もちろん、分かってやっている。

 交渉ごとに必要なのは傲慢な心だ。少しでも相手に隙を見せれば食われてしまう。相手は権力者の中でも骨の髄までしゃぶりつくしている屈指の豚ども。手加減をしてやり切れる相手ではない。


「公然の秘密ではないのか」


「しかし、告発してはいけないと言う決まりもありませんわ」


 関係諸国では国際規約によってさまざまな制限がされているが、それ以上に明文化されていない不文律も多く存在している。

 お抱えのエクストラは各国のパワーバランスに大きくかかわっているため、まさにアンタッチャブルとして扱われているのだ。ここのいる面々もそこを突いてくるとは思っていなかった。


「ノーとは言わせませんわ。わたくしが追っているのは世界最悪の犯罪者。匿うと言うなら世界を敵に回す事になりますわよ。確か貴国にはいいうわさを聞きませんわね。これを契機に世界がどんな反応を見せるのか、楽しみですわ」


 エミリアは正直怒っている。

 これまで高貴で品格の高かった自分にあんな汚点をつけた相手を許せるほうがどうかしている。だからこそ、彼が使っていた部屋の家宅捜索から入って友人関係から見直して少しでも弱点を探った。

 ユーナにも依頼を出してランダムテレポートで消えた行方が分かった時は本当にうれしかった。これで、自分の受けた屈辱を十倍にして返す事が出来る。そのためなら隣国との関係が悪化する程度些細な問題に過ぎない。


 ――わたくしを弄んだ罪は大きいですわよ。

 だからと言って、勝手に行動を起こすわけには行かない。大人の世界は順序がとても大切。守るべきルールはしっかりと守らないといけない。しかし、それは逆説的に言ってルールさえ守れば何をしても問題ないという解釈が出来る。

 こうしてわざわざ時間を割いて相手国と交渉をしているのはそのためだ。ここで許可が下りれば後はエミリアの独壇場デュークを処刑する事が出来る。

 そんな野心に燃えているエミリアとは対照的にどこか冷めた目で会議の行方を見ているユーナは温かい室温からは考えられない程に冷えている指先をぎゅっと握った。


「そうだ。罪人デュークの拘束は国際条約で決められているため実行するに過ぎない、と言う点を覚えておいてほしいですわ。肝心の秘匿されていたエクストラの口止め料だけど」


「待て! 話が違うではないのか!」


「わたくしは一回でも取引だとは言っていないはずですわよ」


「くっ!」


 ここまでの話を聞いてこれが予測できたのなら預言者として食っていけるが、実際に交換条件としては明言していなかった。


「何が望みだ……」


「物分かりが良くて嬉しくてよ」


 半世紀以上も歳が離れている小娘にいい様にされているのは納得できた所ではないのだが、下手に何かを言えばそれだけで言質として国に対して必要以上に損害を与える結果になりかねない。


「確かここは研究をしているのよね。エクストラを強制的に発言させる方法を」


「まさか――」


「ええ、その通りですわよ。わたくしも欲しくなったのよ」


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