第33話 『キス』
「そうよ」
どうやら聞き間違いではなかった。リサがむすっとした表情でこっちを見てきている。何がおかしいって完全に勘違いをしているのはリサのはずなのになぜかデュークが悪いような雰囲気になっている事だ。
「俺が、リサに」
「他に誰かいるの」
「何でそうなった!」
「あら、一緒に逃げようって事はそう言う事でしょう」
…………………………………………………………。
どうだろうか。
確かにそれっぽい気がしない事もないが、明らかに過剰な思い込みの部分が大きいのも確かな気もする。この場合デュークはどんな行動をとればいいのか。
「それとも私は嫌? それじゃハードルを下げてあげる。私はデューくんの事くらいじゃないわよ。知り合ってまだ一日も経っていないけど断言できるわ。あなたはどうなのかしら」
「俺は……嫌いじゃないよ。俺を受け入れてくれたんだし」
「なら問題ないわね」
「そうなのかな……」
話が飛躍し過ぎている点については触れていいのだろうか。しかし、リサは心なしかワクワクとした目でこっちを見ている。これはデュークからのプロポーズ的なあれを待っているのだろうか。
「―――――――――――――――――――――――――」
腕を組んで悶々と考えて「よしっ!」と覚悟を決める。
言い出したのはデュークだし、何よりこれでお別れと言うのは寂しすぎる。もっと深く知ってみたいし、同類とか抜きにしても彼女の助けが出来ればなって。
心の準備が整わない。彼女からの反応も最初に聞いているのでハードルは多少下がっているのに喉が渇く。世のカップルはこれを乗り越えていると思うと本当に頭が下がる。
「あの~、そうだな」
自分の境遇を知って育ったデュークは一生プロポーズには縁がないと思っていたのでこういう時になんていえばいいのか本当に分からない。
「俺は……嫌われているし、かなり不器用だ。きっと、これから先もリサの事を傷つけてしまうかもしれないし、きっと辛い事もたくさんあるし悲しい事もある。だけど、これだけは言い切れる。――絶対に側から離れない。どんなに苦しくても悲しくても側にいるって約束する。そして、これからの人生、悲しみは分け合って、喜びは倍にしていこう。だから、俺と一緒に来てほしい」
……自分で言うのもあれだが、酷く本気でやってしまったと思う。真っ黒な歴史に刻まれてしまったのではないか。
これでいいのだろうか。
だってよく考えて見てほしい。
デュークがプロポーズするのはこれが初めてで何が正しくて何が間違っているのかは分からない。ユートと父の記憶を受け継いでいるのだが、父は頑なに使おうとしなかったため記憶がかなり薄い。逆に使いまくったユートの記憶は鮮明に思いだせるのだが、ユートの妻、デュークの祖母は所謂奴隷の少女だった。そこに一般的な愛があったのかはよく分からない。
もちろん愛に溢れたプロポーズなんてあったものではない。
「ふ~ん、そう言う感じなのね」
「リサ」
「何よ」
「顔真っ赤だよ」
「!」
バッと両手で顔を覆う。自分でも分かるくらいに顔が火照っていて熱い。意識していないまでも動揺しているのは確か。
「それで、俺にここまで言わせたんだ。答えは」
「ええ、お受けするわ」
「!」
今度はデュークの顔が一気に火照った。ここでもごねるかと思っていたのでストレートに受けた事に驚きつつどこか恥ずかしい。
「デューくんのプロポーズしっかりと聞かせてもらったわ。いいものね。なんだが、今日初めて生まれてよかったと思えるわね」
「初めて」
「そうよ。権力者達はいつだって不死を求めるけど、いざ不死になってみれば余り楽しい事ってないのよ。でも、今日は嬉しかった。私だって、こんな体だから普通の生活なんてできなと思っていたからね」
「うん、まあ、でも、これからよろしくって事でいいのかな」
「いいんじゃないのかな。とりあえずキス、をしてみる」
「――!」
なんだが流れが速い気もするが、辺りが桃色の雰囲気が漂っている気もする。据え膳は男の恥だってユートの記憶にあった気がする。
「う、うん」
ゆっくりとお互いの顔が近づいていく。彼女の顔が一センチ近づいていくだけでデュークの心拍数が十上がっていく。ふと、彼女の吐息が顔に当たる。たったそれだけの事なのに人生で一番緊張している。
「それじゃ」
「うん」
距離がゆっくりと無くなっていく。リサが先に目を閉じた。失敗してはいけない、なんてプレッシャーはなかった。ありのままでやればいいと思えた。デュークも則って目を閉じた。
そして、そのまま距離は無くなり二人の唇が優しくつながった。
初めてのキスは何だが、甘い味がした気がした。




