第32話 『誤解?』
「私は他の人のを見た事が無いから相対的に一番大きかったんだよ」
「そんな慰めはいらないよ」
ところ変わって部屋の中。相変わらず監視の目が合って自由に行動が出来ない。よくこんなに制限の多い場所で暮らせていると思う。
さっきの不慮の事故で己の恥部を見られているのだが、リサからすれば興味の対象でしかないらしい。自分とは全く違っている構造にもっと見たいと言っていたのだが、容認するはずもない。
「私の知らない事がまだまだあるんだね」
「変に興味を持たないでくれ」
用意してもらった黒いスーツ。ボロボロになったとはいえ学院の制服も気に入っていたので少し残念。しかし、これはこれで着替えてロングスカートに落ち着いた色のカーディガンを纏っているリサと並べばお嬢様と執事にしか見えない。
「ねえ、デューくん。町には、人がどれくらいいるの」
「たくさん」
「私達は嫌われているんでしょう」
「まあな」
「でも、楽しい事もたくさんあるんでしょう」
「そうだ」
「行ってみたいな……」
「リサ……」
つぶやきから出た本心。
これまでちょくちょくとデュークから話を聞いていてそれはまるで別の世界の話だった。第一王女として生を受けてもすぐに王族と言う事で一般の俗世からは切り離されて、国民との親睦や外交について行く様になる十歳目前で『神ノ焔』を発現した後は、ずっと研究対象とされて、殺され続けていた。同世代の子供と会った事も無ければ街を見た事もすらない。
憧れからする衝動を抑えるのはずっと難しい。
「なら、一緒にここから出ないか。どこかに行けばいいじゃないか」
「何を言っているの? そんな事をすれば私の姿が数日見えないだけで監視メイドから緊急信号が王宮に届いて使者がやって来るわ。そうすれば何が何でもバレてしまって私は一国から追われる事になるのよ」
「俺が守ってやるよ」
「だとしても一国から追われた私達なんで」
「忘れたのか、俺は、いや、ジジイは世界すべてと戦って十年生き残ったんだ」
「それは……」
正確に言えばデュークと名にも関係ないのだが、既に狂血について説明をした後だとこれを受け継いでいる以上、同位体と言っても過言ではない。
「逆にこっちが訊きたい。俺と一緒に逃げればリサまで世界から狙われる存在になるんだ。特にゲルフは国際規約によって報告が義務付けられていた新しいエクストラの報告を起こったんだ。一目散で襲い掛かって来るだろう。そして、イスルギには『聖光』がいる。誘っておいてなんだが俺と一緒に来る方がずっとリスクがある」
「――――」
「だけど、リサはこのままだと檻の中で過ごすただのモルモットだ。俺とくればまだ見た事が無い景色を見せてやることが出来る。これはエクストラとしての情で言っているわけじゃない。リサのために言っているんだ。烏滸がましい、とか偽善とか言い切ってくれてもいい。だから――」
「ダ~メ」
「――!」
正直予想はしていた。ここから脱して世界を見に行く事を望んでいたとしても、それとこれとは話が違う。リサはぷいっと顔を横に逸らしている。デュークが内情も詳しく知らないくせに出しゃばった真似をしたため余程怒っているのかもしれない。
「だから、そのだな……。俺も人を信用しているわけじゃない。俺の始まりはずっと裏切りから始まっているからだ。だけど、リサならその信じてもいいかなって……こんな俺を助けてくれたんだし……」
「はあ! ……何一人で照れているのかしら」
「照れてないし!」
心なしか怒っている様な気がする。可愛らしい眉毛が少し吊り上がって不機嫌メーターがどんどん伸びている。
「あの~、リサさん。何に怒っているのでしょうか」
「デューくんってばそんなのじゃダメって言っているの」
「は、はあ……」
「もっと凝った風に言わないとだめでしょう!」
なんで説教をされているのだろうか。
「え、え~と、そんな事を言われても逃げるとしか……」
「ん!」
ギロっと睨まれてしまった。
「女の子にとって一生に一回しかないのに、どうして男の人って淡々としてしまうのかしら。デューくんだから。違うわよね。本に出て来る男の人も大体どうなんだもん」
いよいよ分からなくなってきた。
「ダメね、ほんとにダメ」
「何がなんだが……」
「きちんと分かっているのかしら! 一生に一回のプロポーズなのよ。そんな風に簡単に済ませてしまっていいの? と訊いているの!」
「はい!? プロポーズッ!」




