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罪人の孫  作者: レム
第1章 『災厄、再び』
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第30話 『魔性の女』

「それで、話を聞きたいのだが」


「――まじめな話なのね」


「ああ、根本的な事だが、どうしてここに閉じ込められているんだ? 俺はゲルフに詳しくないが、それでもここが外界と遮断された辺境だって事は分かる。さっき一瞬だけ部屋の中身が見えたが、何と言うか生活をしている感じが無かった。メイドがやっているとはいえ、食器くらい見えてもいいんじゃないのか。リサの生活は色々とおかしい」


「……やっぱりそう見えるよね。分かってはいたけど実際に人に言われてみると苦しいな」


 ベッドに座って膝に両肘を置くと両手を合わせて、そこに唇をつける。

 その瞳は憂いていてどこか寂しそう。


「安心して、基本的にはここに誰も来ないから。理由は、私に誰も近づけさせたくなくて、私に誰も近づきたくないから」


「? どういう事だ」


「ゲルフの王族である私がこんなところで軟禁されている。なんとなく背景は分かると思うな。同じ、なんだから」


 少しだけ逡巡してデュークは答える。


「――考えられるのは王家の秘密兵器。他国と戦争になった時に投入する実践兵器。だけど、リサのエクストラは戦闘向きじゃない。となれば考えられる方法は一つ。――人体実験」


「そう。王族って言うのはいつだって不老不死を願うんだよね。私の能力は不死の部分を叶えてしまったの。不老については分からないわ。ここ十年で体は大きくなったけどもしかすれば成長が止まって『神ノ焔』は不死だけじゃなくて不老もだって分かるかもしれない。確証はないけど、私が最も近い場所にいるのは確か。だから欲するの。自分も不死の力が欲しいって」


「色々されたのか」


 彼女のためを思うなら訊くのは遠慮すべきだが、同じエクストラとしてその末路を聞かないわけには行かなかった。

 リサは瞳に影を落として言う。


「多分……考えられる方法で殺されたわ。刺殺、毒殺、圧殺、高所落下、水死、餓死、失血死、薬物による臓器不全、脱水症状、焼死、窒息死、感電死、ガス、エトセトラ。それでも、私は死ななかったわ。全部青い炎が蘇らせてくれた。その結果に他の王族や研究者は喜んだわね。本物だって! だけど、同時に畏れたわ。何をやっても死なない存在。自分はそれに憧れているのに目の前にいると思うと途端に怖くなって誰も近づかなくなったわ。だから、こんな辺鄙なところに押し込められて生活をしているの。ここに誰かが来るって事は私の新しい殺し方を見つけた時って事」


「ごめん……」


「いいのよ」


 悪気はなかったのだが、こうして言葉にされるとデュークの心にぐっと罪悪感が湧いてくる。


「食器が無いのは」


「私は死なない。だから、食事をしなくても生きていく事は出来るの。多少の趣味の感覚でティーカップくらいは置いてあるけど、だから、デューくんには申し訳ないけど、ここには食料の類がないわ」


「それは構わない。山に潜ればいくらでもある」


「ふふっ、おかしな事を言うのね」


「はあ?」


「デューくんの食事はここじゃなくて」


「ば、バカ!」


 つんつん、と指を指しているのは透き通る首筋だった。なんだろうか、噛みついた後は綺麗に治って消えているのに艶めかしく見える。それに、裸を見るよりも覆われている肩から衣服はすり落ちる時の方が厭らしい気がした。


「デューくんは血を飲めば回復できるから、無理に入らなくてもいいんだよ」


「あれは緊急事態で――」


「吸いたくないの? 乙女の柔肌に合法的に触れられて、剰え吸う事が出来るのに」


「むぐぐ……」


 まるで、水を得た魚の様だ。自分に有意なフィールドになった瞬間に一気に勢力を取り戻してきた。


「それともあれかしら、全身を弄られた私の血は吸いたくないのかしら」


「――そ、そんな事!」


 その時のリサの顔が酷く悲しそうに見えた。エクストラは、エクストラに嫌われる事を嫌がる。自分と似た存在に拒絶されるのは辛いのだ。

 デュークは別に残酷な性格を持ち合わせているわけではない。ただ、合理的に自分が助かる方法を模索しているだけ。故に悲しみはある。これはリサが不死の能力を持っていたから引き起った問題ではない。

 人はエクストラを恐れる。理由は分からないから。自分達と同じ姿形をしているが、一部の高濃度魔力を持っている魔術師とは違って誰でも発現する可能性を秘めている『例外なる血統』を恐れて、知りたいのだ。だから、実験をする。彼らからすればエクストラは同じ存在ではないのだ。


「そんな顔をしないで。それともこんな事をされた私を憐れんでいるのかしら」


「べ、別に!」


「…………」


 一見して強がっているだけなのは分かるのだが、こうなんだが面白くない。だから、もうちょっと仕掛けてみる。


「それで、私の血は飲んでくれないの」


「緊急事態で――」


「こう見えて私に触れたのってデュー君だけなのよ。まあ、覚えている限りだけど。皆私を怖がって殺される時も隔離された空間で一人殺されていたから、こうして触れられたのはあなたが初めて」


「ちょ――」


 身をこっちに委ねて来る。何度だって思うが女の子はどうしてこんなにいい匂いがするのだろうか。デュークは女性との交際経験がないのだが、それを悟られるわけには行かない。

 と強く思っているが故に意識してしまい顔が真っ赤になっている事に本人は気付いていない。代わりにリサが気付いて悪魔の微笑みを浮かべる。


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