第24話 『提案』
ここで、デュークはようやく我に返った。なぜなら目の前から小さな殺気を感じたから。ふと目を上げてみればそこにはリサがいて、その左手は大きく振りかぶっていて「え――」と間抜けな声を出したデュークの右頬に思いっきりビンタをした。
バチーン! と軽快な音と共にデュークの体はその場でくるくると回転をして目を回しながら地面に激突した。初めてのビンタが初対面で同世代の女性とは人生何が起きるのか分かったものじゃない。
「ご、ごめんね。私ってば車椅子だから、つい手の筋肉ばっかり鍛えられるんだよね。あー! だからってムキムキじゃなからね」
ジリジリと痛む頬を擦る。これまでの激痛とは違う。何か暖かい痛みだった。だからと言ってマゾヒズムな側面は持ち合わせていない、はず……。
「しっかりこっちの話を聞きなさい!」
「あ、はい……」
車椅子に座りながらのため威厳はあまり感じられないが、それでも頬を膨らませて腰に手を当てている辺り怒っているらしい。
「よく聞いて」
「――――」
無言のまま頷くだけ。彼女に逆らわない方がいいと何となく察した。出方次第でこっちも動かないといけない。
「私はムキムキじゃないの。ちょっと腕をよく使うから筋肉がついているだけだからね。絶対に勘違いをしないでよね!」
「そっち」
「他になるがあるの」
う~、とつい唸ってしまった。どうにもこっちと向こうとでは温度差がある。
「まあ、前置きはこの辺りでいいわね。聞かせてもらえる? どうして、世界の悪者がこんなところにいるの。確かデューク、だったかしら」
「――チィッ!」
舌打ちをして彼女のビンタの効果範囲から転がって離れると出血覚悟で自分の周りに血を増やした。これで、多少の攻撃には耐えられるだろう。
――可愛らしい顔をして抜け目がないって言うか掴めないな、こいつ。
「あの~、そんなに警戒しないでもらえる? 見ての通り私は弱いのよ。そんな物騒な物は仕舞って」
「信じられるか! ここはゲルフと言ったな! 選べ! このまま俺を見逃すか、それとも殺されたのか」
「う~ん、興奮しているね。それじゃまともに話は出来ないかな。それに、片手片足、ついでに片目も無くて地面に寝転がりながら行っても説得力がないと思うよ」
「う、うるしゃい」
自分で言っていてもそう思うけど、体裁を気にしている場合でもないのだ。
「――やっぱり俺の事は広まっているのか」
「うん、そうだね。私は独自の情報網を持っているからあれだけど、それがないとしても噂は聞こえて来るよ。災厄が蘇ったってね」
「くそっ!」
寝転がりながら右手で地面をたたく。あり得ない話だと思ったがゲルフではまだ浸透していないのなら病院等々の医療施設を利用しようと思っていたが、その作戦も水泡と化した。
「ならそれでもいい。何か治療関係の備品を頂きたい。これは強迫ではない。俺の懐を探ってもらえば金がある。それで交換だ」
「それでどうするつもりなの? 既存の治療をしても失った箇所は生えてこないし、この体で世界に喧嘩をするの。五十年前の狂血みたいに」
「はっ、誰がそんな面倒な事をするんだ? 確かにユーナの前では色々と言ったけど、俺はただ静かに暮らしたいだけなんだよ。不本意に身バレをして周りの連中が俺を受け入れてくれれば何もする気はなかった。でも、あいつらは俺に平然と石を投げてきた。ついさっきまで一緒に話をしていた学友すらも躊躇いなくな。そんな掌返しが得意な人間に俺はもううんざりしてんだよ。だから、世界を相手に復讐とかめんどいし、何よりあの化け物に負けた以上挑んでも返り討ちに合って終わりだ。だったら、どっか誰も知らないところに行って隠居生活を送るさ」
「そう……」
納得したように頷くとこっちに向けてタイヤを回してくる。
近づくな、と言いたかったのだが、余りにも彼女から殺気や覇気を感じないため言うに言えない。
「だったらここにいればいいよ」
「――はひ」




