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罪人の孫  作者: レム
第1章 『災厄、再び』
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第22話 『悲劇のヒロイン』

 ――悲劇のヒロインと言うのが存在します。

 自由を奪われて閉じ込められてかわいそう。ちょっと違うけど、私も悲劇なのヒロインなのかな。

 山の麓にある小さな別荘。そこにいるのはたった一人の少女。少し気弱そうな眦に長い銀色の髪。少し胸が足りないがそれでもナイスと言わざるを得ないプロポーション。

 着ているのはネグリジュのような洋服。人目がないここではそこまで衣服にこだわりを持つ事はない。  

 少女はテーブルの上にニュース記事を広げていた。いつもはそんなもの届かないのだが、面白がってかどうかは知らないがこれを三日前に渡された。


「史上最恐のエクストラ・狂血の復活か。世間は随分大騒ぎをしているのかしら」


 飲み干してある紅茶のカップを使い魔が片付けていく。

 俗世から離れたここでは家事全般は使い魔がやっていて少女の命令を素直に聞く優秀な存在だが、どちらかと言えばしっかりと監視をされている状態なので余り好きにはなれない。


「私には関係のない事よね」


 少女はそのまま別荘を後にしていく。

 とある事故? で足が良くない彼女は微量な魔力で動く車椅子で生活している。自分で漕ぐ必要もないし、魔力は一般人程度しかないが特に問題なく暮らせていた。

 ここは人が寄り付かない山にポツンとある別荘。都会に暮らしている人は憧れるかもしれないが、周りを山に囲まれたここは天然の監獄とも言える。

 唯一の外界に続いているのは山奥から流れている川に乗る事くらいだけど、そんな勇気があればとっくの昔にやっている。

 彼女の日課はそんな川に行って魚を見る事だ。山奥ではかなり大きい流れらしいけど、ここまで来ると途中でいくつも流れが分かれていてせせらぎ程度しか流れていない。

 この流れを見ていると心が落ち着く。

 外は風が涼しい。山だからと言うのもあるけど、根本的に街の風とは異なっている気がする。大地には草が生えていてどれも背が低いので車椅子で歩き回れる


「また、実験も始まるみたいだし、羽は伸ばしておかないと」


 と、川縁まで来たところで「ぎょ」とした。これまで一度も浮かべた事が無いため、これで正しい表現がわからないがとにかくぎょっとした。

 いつもは清らな流れで別荘の側を流れている川だが、そこに人が流れ着いていればぎょっとしても仕方がない。


「ひ、人……!? えー! どうしてこんなところに、ここって簡単に入ってこれないし、それに見た感じ上流から流れてきたんだよね。ここより上の場所って人住んでないよね……」


 警戒しながらも近づいていく。ここには自分しかいない、どうしようにも自分がやらないといけない。


「――っ!」


 これまでは川縁に打ち上げられている右側しか見えていなかったが、左側に回り込んで更に息を呑んだ。


「どうしたのよ、これ……」


 元々全身に打撲痕があったが、これは流れている内についたのだと納得していたが、左耳はなく頬を削られ、腕に関しては左肺まで抉られている。下半身は水の中でよく見えないが、同じようになっている可能性が高い。

 断面も瘡蓋が出来るわけでも包帯が巻いてあるわけでもなく何もされていない。傷口がむき出して不思議と血は一滴も流れていない。グロテスクな光景に吐き気を催したが、必死に耐えた。淑女たるもの人目が無くても粗相は出来ない。


「これ……どうしろって言うのよ」


 少女が面倒を見る必要がどこにもない。見て見ぬふりをするならこのまま川の流れに戻してしまって下流に流せばいいのだが、それをすればなんか人として失格なような気もした。


「もう! 後でたっぷりとお礼をしてもらいますからね」


 なんで、こんなところで流れているのか、あなたは誰なのか。すごく気になるけど悶々としていても意味がないのでひとまず頭の片隅に置いておいて救出作業をする。


「そもそも生きているのかしら」


 生死の確認は重要だ。それによって扱い方が変わって来る。優しく首元に手を伸ばした。よく分からないが、こうやれば脈を取れて生死が分かるらしい。近くで見ると余計に無残な体になっている。ここまで近づいてわかったが左目が溶けてなくなっている。これまでは髪と瞼に隠れて見えていなかった。


「う……」


 ここだけ車椅子から身を乗り出して手を当てると弱く、本当に弱いのだがドクン、ドクン、と脈を感じる事が出来た。


「嘘……」


 生きていてよかったと思うよりも早くこの状況で生きている彼に驚いている。しかし、生きていると分かった以上のんびりとしていられない。


「慣れていないから手荒になるけど我慢してよね。私だってよくわからないんだから!」


 とにかく川から引き上げないといけない。一回家に戻るとロープを持って帰って来た。そのロープを彼の肩に回して固定して「んっと」とタイヤを逆に回して引っ張ってみる。自分が華奢だし力がないから上がらないと思ったが以外にも動いて足の先まで陸の上に持ち上げる事が出来た。引き摺ってしまったが文句は言われまい。


「ん――!」


 やっぱり、とそう思った。

 彼の体は軽すぎるのだ。原因は何となく分かっていたが改めてみると酷い。左側を中心に上半身はさっき見た通りで下半身も左足の膝から先が無くなっている。片手片足の欠損、これだけでもかなり軽くなる。加えて、血もかなり失っていた。


「何がどうなればこうなるのよ~」


 今はうつ伏せのまま引っ張ったが、このままでは何となくかわいそうだ。なので、右肩をもってくるんとさせる。皮肉にも左部分が欠損していたため回しやすかった。


「ひっ!」


 苦痛の表情のまま目を瞑っている少年。年の頃は自分と変わらないだろうか。でも、逆になんで自分と変わらない少年が上流から流されてこんな怪我をしているの。


「この顔……どこかで……」


 見た事があった気がした。

 境遇的に人に会う機会は少ないので思い出せそうなのだが、喉の奥まで登ってきているが最後の欠片が足りない。


「これからどうしよう……。このままで目が覚めるのかな……」


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