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思い込みの暴走


 本日も暗い顔で帰って来たアマリリスに、アンジェラは気分を落ち着かせるハーブティーを出す。

「どうでしたか」

「ダメだわ…リナリアどころか侍従のレオナール様まで怪しく見えてきた」

「!? ゲホッ、ゴホッ」

「大丈夫?」

「失礼しました」

 何気無く問い掛けたアンジェラはアマリリスの思わぬ発言に吹き出してしまった。労ってくれるアマリリスに大丈夫だと伝えるが内心は穏やかではない。どうしてそんな思考に。

「何があったんです?」

「この間リナリアとヴィルベルト様が仲良さげに談笑されているのを見たのよ……」

「それはたまたまお会いになられてお話しされただけでは?」

「うん……私が見たのもその一度だけ。だけど疑惑が晴れなくて……。そのうちずっと親しげに寄り添ってるレオナール様達を見ていたら、ヴィルベルト様とレオナール様はそういう関係に思えて来ちゃって」

 悩ましげに呟くアマリリスにアンジェラはなんとも言えない心地になる。

「確か、レオナール様はルヴィエ公爵子息とは幼い頃からの付き合いと存じていますが」

「そういえば……。でもそれなら一層怪しいわ! ヴィルベルト様の幼馴染で一番近くにいる存在……いつからかそんな関係に……」

「落ち着いてください姫様!ルヴィエ公爵子息にそんな性癖はございません!」

 どんどん有らぬ方向へと妄想を進める我が主人を慌てて宥めるが、あまり耳には入って行かないようだった。どうにか思考を変えようとアンジェラは話題を懸命に探す。そして大切なことを思い出す。

「そんなことより、姫様。デビュタントなのですからドレスなど考えることはたくさんあるのですよ。色は白と決まっていますが、形は少し変えて良いのですから。お針子ともいろいろ相談しないといけないのですよ」

 茶会や、ヴィルベルトの尾行などアマリリスがいろいろしている間に社交界デビューの舞踏会は半年先まで迫っていた。そろそろ準備を始めないと間に合わなくなる。アンジェラにとって主人の社交界デビューが間に合わないなど有ってはならないことなのである。侍女の責任もあるが、アンジェラはなによりこの姫の門出の舞台を楽しみにしていた。それはアマリリス本人よりも何倍もであった。だから準備にも断然気合いが入る。

「しばらく尾行や偵察はお控えください。幸い、ルヴィエ公爵子息も準備の為、王宮に訪れることは当分ない様ですし、姫様も準備に力を入れてくださいませ」

 アンジェラの矢継ぎ早で有無を言わせぬ口調にアマリリスは、はいと答えるしかなかった。


 それからというもの、さぼり気味だったダンスレッスンやドレスの調整などでアマリリスは多忙な日々を送ることとなる。さぼっていただけあってダンスの先生である侯爵夫人からは厳しいお言葉と指導が入った。挫けそうになるたびにアンジェラから、魅力的に変わる為ですと言われ励まされる。姫という立場はいかに本人が地味と言えど、注目される立場であるからにはいかなるダンスも完璧に踊れなければならない。ワルツやベニーズワルツは大丈夫だったのだが、クイックステップなど難しいダンスはまだミスが多かった。クイックステップのダンスの曲が流れることは多くはないが、もし流れたときに踊れなければ王族としては恥となる。それにデビュタントは、おそらくヴィルベルト様がエスコートしてくださることになるだろう。自分のミスでヴィルベルト様にも恥をかかせることは本意ではない。完璧過ぎるほどに仕上げておかないとアマリリスは安心できなかった。

「ここまでにしましょうか」

 先生の掛け声で音楽が止まる。

「まだできます」

「練習のしすぎで怪我をしてもいけませんからね。休憩も大切ですわ」

 にっこりと微笑みながらも反論は許さないと言うような雰囲気を感じる。そこにアンジェラが、失礼しますと何かをアマリリスに差し出した。それは白い封筒。……手紙?

「ルヴィエ公爵子息からでございます」

 裏返すと確かに封蝋には押印がされていた。先生に一言断りを入れ、素早く封を開ける。中を急いで目を通し確認する。読み進めて行くのにつれ、アマリリスの目が見開いて行く。その様子にアンジェラが問い掛けた。

「ルヴィエ公爵子息はなんと?」

「最近お会いしていないのでお会いしたいと……」

「良かったではありませんか」

 喜んでくれるアンジェラの反対に、アマリリスは複雑な感情だった。確かにお会いしたいと言われたのは嬉しいが、アマリリスの疑念は未だ晴れていなかった。すなわち、これはヴィルベルト様から婚約者候補から外れたいと言う前触れなのではないかと思ったのだ。

「ついに婚約候補破棄……!?」

 青ざめたアマリリスの表情は俯かれて誰の視界にも入ることはなかった。


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