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お茶会

 茶会は身内主催でも七歳のあの事件から数えるほどしか参加していない。鏡の中の自分をチェックしながら鬱々とした気分をどうにか晴らそうとする。本日の茶会は淡いピンクのアフターヌーンドレスだ。靴からアクセサリーまでピンクで統一されている。

「とてもお似合いになっていますわ、姫様」

「そ、そうかしら」

 少し照れながら出来上がりを確認する。メイクもばっちり侍女達にされている。

「ルヴィエ公爵子息様も見惚れるに違いありませんわ」

「何言ってるのよ!もう……」

 私のことに関しては何でもかんでもお見通しの侍女だ。そう、本日の姉様主催の茶会にはヴィルベルト様も招待されている。

「何人かの子息令嬢を招待するけどね、ルヴィエ公爵子息も招待しておくわね。貴女も久々に婚約者に会いたいでしょう」

「待って、まだ婚約者じゃないわ、姉様……」

「あらそうだったかしら」

 カラカラと笑いながらそう言った姉を思い出す。

ヴィルベルト様に会えるのは嬉しい。けれども久々の茶会ということもあり、さっきから緊張で気分が上がったり下がったりと忙しい。

「そろそろお時間ですよ」

 アンジェラの発したその言葉に居住いを慌てて正す。

「姫様頑張ってくださいませ」

「が、頑張るわ……!」

 気合いを入れて会場に来たはいいものの、どう頑張ればいいのか具体的に分からない。

 会場は王宮の温室の一画で、ステンドグラスが窓の光で反射して床に綺麗な色を映し出している。そこにテーブルがいくつか並べられ、その上にお菓子が甘い香りを漂わせている。奥に目的の人物を見つけ、近寄る。

「姉様、お招きいただきありがとうございます」

 優雅に一礼し、視線を戻すと驚いた様子の二人が目に入る。

「わ、びっくりした。気付かなかったわ。いらっしゃい」

 その様子に苦笑する。大抵、いつも私が近付くと驚かれる。家族でさえこうなのだから他人とは言わずもがな。

「お義兄様もご機嫌麗しく」

「久々だね、元気にしていたかい」

 義兄の挨拶に微笑んで肯定する。

 この二番目の姉は結婚している。義兄となったこの人は、侯爵を継ぎ、王宮外の侯爵邸で仲睦まじく暮らしている。とは言っても姉はよく王宮に遊びに来るのだが。

 因みに一番目の姉は隣国に嫁いでいるので滅多に帰って来ることはない。三番目、四番目の姉も婚約者がいる。その中で一番仲睦まじいのがこの二人であろう。

「あら、今日は少し華やかね、いいじゃない」

「ありがとうございます」

 多少とはいえ努力したことを褒められるのは嫌なことではない。素直にお礼を言うと、他の人影が見え出す。

「そろそろ他の招待客が来る頃ね、挨拶してくるわ。貴女はルヴィエ公爵子息が来るまで待っている?」

「そうします。他の方と談笑はまだ難易度が高いので」

「じゃあ行ってくるわ」

 姉夫婦を見送った後、壁の花になる。王女にも関わらず壁の花というのも変な話だが、何もしなくても気配は消えてしまうのである。

 暫く会場を見回していたが、突然招待客達がざわめき出す。

「ヴィルベルト様だわ!」

「きゃあ、今日も素敵」

「ヴィルベルト様も招待されていたなんて」

 特にめかしこんだ令嬢達が一人の青年のもとに集まり出す。令嬢達はヴィルベルト様と言った。遠くにいらっしゃる令嬢達で見えないが、この茶会に呼ばれているヴィルベルトはただ一人だ。

 急に騒ぎだした心臓を落ち着かせようと深呼吸する。

「ああ、アマリリス様」

 低くも爽やかな声で名前を呼ばれ、落ち着いたはずの心臓がドクリと高鳴った。顔をあげると待ち焦がれた愛しい人。

「ご機嫌麗しく。久しく会えていなかったのでお会いできて嬉しいですよ」

「ご機嫌よう、ヴィルベルト様。……私もですわ」

 久々の再会に自然と口角が上がる。ああ、今私は変な顔をしていないだろうか。

 にこやかに挨拶していると、さっきとはまた違うざわめきが温室に広がる。

「えっ、姫殿下!?」

「いらっしゃったの……全然気付かなかった」

「いったい、いついらっしゃったのかしら」

 耳に入って来た言葉に、最初からですとは言えず苦笑する。こういうことには慣れているから今さら七歳の頃のように泣いたりはしない。

 そういえばヴィルベルト様はよく私にお気付きになったと思う。周りの令嬢達のように、大勢の人がいる中で気付かれることなんてほとんどないと言うのに。

「エスコートしても?」

「もちろん」

 多少不思議に思いながらも、差し出された手を取り、然り気無く引かれたチェアに座る。先に座った私達を見て他の招待客も席につく。招待客全員が席につくと思い思いに話始める。その中でも一番話しかけられているのはヴィルベルト様であろう。令嬢達は我先にとヴィルベルト様に話しかけるが、他の子息達は寂しそうにしている。気持ちは分かる。

 それから茶会は和やかに続いた。時おり、「姫殿下はどう思われますか」などと思い出したように話を振られ、それに当たり障りのない返答をする。反対にヴィルベルト様は、お菓子を薦めてくださったりと細やかに気遣いをしてくださった。数分もすれば皆、私のことなど忘れてしまうというのに、よく覚えていらっしゃると思う。

 もしやヴィルベルト様が婚約者第一候補なのは私を覚えていられるからなのだろうか。それはそれでどうなのだろう。

 そんな中、とある令嬢が思いきった質問をヴィルベルト様にぶつける。

「ヴィルベルト様はどんな方がお好きなのですか?」

 それが決死の覚悟だったのか、それともヴィルベルト様が私の婚約者候補ということを知らなかったからなのか。気付いた周りの令嬢達が咎めるが、その令嬢達も興味は隠しきれていなかった。

 そしてその爆弾を落としたのは他ならぬヴィルベルト様だった。

「優しくて、面白い方を好きですね」

 それは好いている人物がいるという発言だった。優しくて、までなら無難に返したものになるだろうが、面白くてという範囲を狭めるもの。そして、がという接続助詞ではなく、を。なによりその声が物語っていた。

 ヴィルベルト様には好きな方がいる。

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