舞踏会
ついに、この日がやって来た。本日はデビュタントの舞踏会である。一週間ほど前に出来上がったこの日の為のドレスに袖を通す。滑らかなそのドレスは肌触りも良い。仕上げにアンジェラがチェックをし、整える。納得の出来らしい。鏡を見ると、華やかな姿が目に入る。自身の表情も、憂いが晴れた為か、メイクのおかげか地味さは影を潜めていた。
「姫様、ルヴィエ公爵子息様がいらっしゃいましたよ」
「お通しして」
「失礼します」
入って来たヴィルベルト様を見て息を呑む。それはどうやらお互いだったらしく、暫くその場に立ち尽くした。
「……お美しいです。見とれてしまいました」
「……ヴィルベルト様こそ、今日は特に格好良いです」
照れながらお互いを褒める。そこで、アンジェラが、お時間ですと声を掛けた。
「行きましょうか」
「はい」
差し出された手に左手を添えると、エスコートされる。王族専用の扉の前でひとつ息を吐いて落ち着かせた。扉が開かれ、眩い光が目を刺す。豪華絢爛なダンスホールは、多くの貴族で溢れていた。一斉に多くの視線が集まる。今までこれほどの視線を集めたことなどなかった。それがヴィルベルト様にだけ向けられたものではないことが分かるほどには、アマリリスの根暗は払拭されていた。
「お美しい……」
「姫殿下ってあんなに華やかだったかしら」
「お似合いだわ」
聞こえて来る囁き話も自分を褒めているもので気恥ずかしくなる。
「なんだか恥ずかしいです」
「そんなことはありません、堂々としてらしたら良い。私も貴女をエスコートできて自慢したいくらいなのですから」
ヴィルベルト様の甘い言葉ににやけそうになる頬をぐっと堪え、定められた位置まで歩く。壇上には王であるお父様と、王妃のお母様が立っていた。
「皆の社交界デビューを祝おう。これからさらに貴族の子息令嬢の自覚を持って振る舞ってくれ」
短いながらも王からの祝いの言葉に会場全体から拍手が起こる。これで終わりかと思えば、そうではないらしい。
「それから、本日この場で和が娘、アマリリスと、ルヴィエ公爵子息ヴィルベルトとの婚約を発表する」
突然の発表にざわめきが起こる。何それ、私も聞いていない。驚いてヴィルベルト様を見ると、楽しげな表情をされていらっしゃった。どういうことか問いかけたいが、指を口に当てて黙るように示される。
「それではパーティーをとくと楽しんでくれ」
パーティーの開始のように告げられたその言葉を合図に、音楽が流れ始める。ゆったりとしたワルツだ。
「お誘いしても?」
「もちろん」
左手を肩に添え、右手を柔らかく包まれる。流れる音楽に乗り、エスコートされながらダンスホールの中央まで来る。踊り始めた私達を見てか、他の子息令嬢達も続々と音楽に合わせ、踊り始める。ステップに気を付けながらくるくると回る。ヴィルベルト様のエスコートが上手いので、スムーズに足が運んだ。
今なら良いかと思い、先程遮られた問いを投げ掛ける。
「婚約発表のこと、知ってらっしゃったんですか?」
すると、ヴィルベルト様は少し意地悪く笑って腰を引き寄せられた。
「元々、私が王宮によく訪れていたのは婚約の準備の為だったのですよ。ああ、貴女が私を尾行していたときです」
「っ、知って……!?」
驚きでステップが乱れそうになるが、なんとか踏ん張る。耳元で聞こえるヴィルベルト様の声と、尾行を知られていたことで顔が真っ赤になる。それを見てヴィルベルト様はまた笑った。
「……そろそろ曲も終わりますね」
ヴィルベルト様の呟きが少し寂しげなのは自惚れだろうか。こんなに楽しい時間も終わるのだなと思うと私も寂しくなる。
ついに曲が終わり、名残惜しくも別れる。これから次々と他の方と踊らなければならない。社交界とはそういうところだ。
何名かと続けて踊り、疲れた頃に然り気無く飲み物を貰う振りをしてテラスに逃げ出す。ヴィルベルト様はまだ令嬢達と踊られているのだろうか。離れると会いたくなってくる。
そんなとき、いきなり腰に誰かの腕が回される。
「ひゃっ……!」
振り向くと、くすくすと笑うヴィルベルト様がいらっしゃった。
「すみません、驚かしてしまいましたか。貴女は本当に反応が面白い」
どこが面白かったのか全くわからない。ヴィルベルト様のツボはいったいどこにあるのか。というかこんな格好を他の方に見られるのは恥ずかしいのだが。抗議を込めてヴィルベルト様を見上げる。
「ここからは見えませんよ」
伝わったようでそう返してくるが、こちらは全然大丈夫ではない。心臓が破裂しそうなくらいドキドキしている。
「少し、抜け出しませんか」
いなくなっても少しならばれないだろう。ヴィルベルト様の提案に頷いた。




