7 大宮駅
「来年、特進クラスに戻ること、それが僕の条件」
これは本当に樹神くんだろうか。聖人君子とも言える彼が、まさかそんなことを言い出すとは思わなかった。
特進クラス落ち、その単語に心がヒリヒリする。もともと良くなかったお母さんとの関係がさらに救済不可能になったのもその通知があったころだ。
お母さんがかろうじて所持していた私への関心は、普通クラスに下がってから、どっかに吹いて飛んでいった。
元のクラスの友達からは腫れ物のように扱われ、変更後のクラスでは異物のように扱われ、行き場が無かった。新しいクラスに歩み寄るも、すでに強固な女子ネットワークが完成していた。居場所がないなあ、というのがただ正直な感想だった。
本当は中学校でスマホは利用禁止なのだけれど、3年ともなると、皆さまざまな抜け道を使って意外と校内でこっそり使っている。だから私も手持ち無沙汰なときは校則違反をしているフリをして、熱心に画面を見つめる。そうしていれば、楽に時間が過ぎた。
でも修学旅行となると別だ。現地集合までの道のりでは許可されているけど、修旅に持って行ったとしても東京駅で回収される。復路はバスで学校解散だから、その時にスマホは返してもらえるが、それまでスマホなしの地獄の5日間になることは予想できた。それが憂鬱すぎて、私は前日眠れなかった。
――来年、特進クラスに戻ること、それが僕の条件。
樹神くんの言葉を反芻する。
がまんして今日1日をやり過ごすか。樹神くんの条件を飲むのか。
「あの、それ約束して特進にならなかった場合ってどうなるの」
「できないケースの心配をするくらいなら大人しく親御さんと函館行きなよ」
「……」
急にどうしたんだというくらい樹神くんは私に厳しかった。
「でも、特進ってそもそも席が空かなければ」
そこまで言いかけて、言葉を止める。樹神くんがじつに面倒くさそうな顔をしたのだ。だめだ、決定権は向こうにある。
「その条件でお願いします! いっしょに函館まで行ってください!!」
そう言って私はまた頭を下げる。
「じゃあ、先生、そういうことで、僕も行くので」
「あ……あ、うん」
私と樹神くんのやりとりをじっと見ていた桜井先生は、樹神くんから決定事項を聞くと、すぐにみどりの窓口に並びに行った。
先生がその場からいなくなると、樹神くんは私に言った。
「特進の席だけど1つは空くよ。僕、学校やめるんだ」




