52 新幹線はやぶさ(2)
「樹神くん、函館駅の続きいいですか」
「聞きたくない」
僕は咄嗟に素で返してしまった。言ってから、山田さんの顔がみるみる萎んでいく。
山田さんはなんだってこんなところまでやってきたんだ。
最初は僕に告白でもするのかと思った。函館駅で、山田さんはなんと言いかけたか。「私、樹神くんのことが」確かにそう言った。
桜井先生もそばにいなくて、駅には学校の人たちもいなくて、そんなシチュエーションで、ふつうに考えたら、僕のことが、好きです、とかそういう感じだろう。自分で言うのも恥ずかしいけど。
僕はもう同じ学校には行かないし、山田さんに楽しい学校生活を提供する事はできない。もとより、僕と山田さんって実質、昨日知り合ったばかりのようなものだ。
修学旅行マジック、体育祭マジック、文化祭マジック、僕らには行事ごとにいろんな魔法がかかる。しかも今回、行き当たりばったりで、たった三人で過ごす時間がとても長かった。しかも女の子は山田さんひとりだ。こんなの、熱に浮かされてしまったようなものだろう。
冷静に考えたら、こんなの変だった。僕は基本的に誰か女子を好ましいと思ったことは、今までほとんど無かったから。好きに思うほど深い関わりを誰ともしなかったこともあるだろう。
女性好きな父は、いつからともなく僕の人生の反面教師となっていた。
そこまで考えて、僕はしごくもっともな結論に辿り着く。僕は自分の感情ばかりを内省しているけれど、これ、そもそも告白ではないのでは。
山田さんが言いかけたのは、僕のことが心配です、だとかそういう類ではないのか。
僕が女子に心配される理由なんてたったひとつだ。
もしかして、もう週刊誌の話が出回っているのだろうか。それを知って、山田さんは、こんなところまで、僕を追いかけてきたのではないだろうか。心当たりがありすぎる。
山田さんに同情されるのはごめんだった。
ここで僕が冷たい態度を取ったら、新青森まで地獄の1時間になる。でも自分の心を守るほうが先決だった。突き放して、どうしても気まずかったら、席を変わってもらうように言えばいい。
そんな独り相撲の結果、僕は加賀谷さんに引き続いて、山田さんにもずいぶん失礼な態度をとった。




