51 新幹線はやぶさ
「朝日奈先生、ひと駅だけ席変わってもらっていいですか」
そうお願いというか要求をしたら私の担任は、ずけずけと聞いてくる。
「青春的なあれですか」
「そんなところです」
「はぁ。気楽なものですねえ」
なんてため息を吐かれた。明日、ライブで遠征する教育者に言われたくない。
朝日奈先生は良いとも悪いとも言わず、変わってやろうかどうしようか、というような値踏みをしてくる。
「私の隣は桜井先生ですけど」
朝日奈先生は桜井先生に懐いているようだった。桜井先生の隣になるのはまんざらでもない様子だ。だったら勿体ぶらずにさっさとOKして欲しい。
「いいでしょう」
樹神くんは私と朝日奈先生のやりとりを黙って見ていた。そうして乗車準備のできた新幹線はやぶさに4人で乗り込む。
座席指定された番号を確認し、4号車の2連席に樹神くんと隣合って座る。奥が樹神くんで、通路側が私だ。
座席の周囲はずいぶんガラガラだったが「盛岡からけっこう乗ってくるみたいで、取れなかったんだ」と桜井先生が説明を加えてくれた。
今さっき桜井先生が取った切符は新青森駅までだったから、どこでも取れたようで、4号車内の少し離れた2連席を桜井先生が指し示す。
「あの、切符は、どうしますか」
「全席指定なので、指定席外でなければ、何も聞かれないですよ。もし確認が入ったら俺が説明しますね」
朝日奈先生はボストンバッグを元の席の頭上に残して、後方の席に移動を始める。あの担任が同じ車内にいると思うと緊張するが、時間は限られている。新青森までの1時間を、悔いなく過ごさなければならない。
なのに何を話しかけていいのかわからず、今それじゃないでしょう、という世間話から入ってしまう。
「北海道新幹線って紫のラインじゃなかったっけ」
「そういえば行きもピンクだったね」
「もうあんまり車体気にしてないのかな」
「そういえば北海道マークもなかった」
ひと通り、どうでもいい話をやりとりして、また会話が無くなり、しんとなる。
ああそうか、最初に告白して、振られて、地獄の1時間になる可能性もあるんだ。
でもあまりにつらい空気だったら、また席を変わってもらえばいい。
「樹神くん、函館駅の続きいいですか」
「聞きたくない」
切り出したらそう言われて、私は頭に岩が落ちてきたような衝撃を受けた。




