47 函館駅構内(2)
「樹神くん、今まで好きな人いたことある?」
◇
もう樹神くんは函館からいなくなる。修学旅行からだけじゃない、学校からいなくなる。
そう思ったら聞きたいことを自然と声に出していた。旅の恥は掻き捨て。そんな気持ちもあったと思う。
自分は当たって砕けろというタイプではない。
そもそも砕ける確率の高い想いは伝えるべきではない。そんなのただの自己満足の大迷惑だ。そんなふうに思っていた、少し前までの私は。
加賀谷さんの告白の後、樹神くんは大きなため息をついていた。告白はきっと断るほうもひどく疲れるんだろう。私は人生で告白を断った経験ない、だからそのしんどさはわからない、だけど。
こういうのって理屈じゃなくて言いたくなっちゃうんだ。今わかった。
一応LINEは繋がっている。けれど、新しい生活に入ったら確実に疎遠になる。面と向かい合うのはこれが最後だ。言ったら樹神くんは困るだろう。でも伝えたい気持ちが湧き上がって喉まで溢れ出てくる。
樹神くんは好きな人はいないようなことを言っていた。それは過去も含めて? 初恋もまだってことなんだろうか。場を作るために私は聞いた。
◇
「樹神くん、今まで好きな人いたことある?」
その疑問を口に出したとたん、樹神くんの目は焦点が定まらなくなった。ぐるぐると視点は空中を彷徨って私を見ない。
いたんだ。
心の中でつぶやいたと思ったのに口に出していた。
「いたんだ」
「い……た……かな」
しどろもどろである。
昨日今日をいっしょに過ごして、こんなに動揺している樹神くんをはじめて見た。何かのっぴきならない事情があって、その恋は叶わなくて、今もなお引き摺っているのだろうか。
「それ、どんな人?」
「えっ!!」
「誰にも言わないから」
「いや……ちょっと」
「最後じゃん、教えてよ」
「最後じゃないよ」
樹神くんが私をやっと見た。その台詞に私の心臓は飛び跳ねる。最後じゃないってどういうこと?
「勉強ログ送ってもらわないと」
「ああ、それね」
私は期待したぶん、がっかりする。すっかり忘れてたけど取引したんだった。クラス上げするって。
気落ちする私に樹神くんが続ける。
「それに来年、高校の文化祭来てほしいって僕が言った。約束した」
「そうだった」
「なるべく文化祭面白いところにするから」
「ふふ、そんな理由で選ぶの」
「向こうの学校どんな感じかよくわからないんだよね」
「東京以外って校則厳しそう」
「そうかも。でもまあ、だったら少しずつ変えればいいかな」
この人は転校した先の地でも生徒会長をやるつもりなのだろうか。すでに考え方が生徒会視点である。私は話を起動修正する。
「それで、どんな人? どんなタイプが」
「えー、やっぱりその話?」
樹神くんが明らかに弱っている。
「こういう話、苦手?」
「うん」
「じゃあ、遠回しはやめる。困らせると思うけど、本題に行きます」
「……」
樹神くんが何かを察して耳まで赤くなった。もうバレてしまったのだろうか。さすが告白され慣れている人は違う。
「私」
言いかけたところで樹神くんの位置からブブ……ブブ……というバイブ音が鳴る。
「電話? 出てどうぞ」
「いや」
「朝日奈先生かもしれないし」
「あー……うん」
促されてしぶしぶ樹神くんはポケットに手をやる。そして樹神くんはポケットの中で着信を切ったようだ。
するとまたブブッと1回だけスマホが震えたようだ。
「確認しなくていいの」
「あー……」
樹神くんは観念したように画面を見て、それから顔色を変えた。




