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45/52

45 回転寿司


 五稜郭近くの回転寿司はちょっと順番待ちが長かったので、そこから移動して、函館駅前の回転寿司に並んだ。お昼の時間をすぎていたから、少し待てば入れそうだった。良かった。


「ここもね、聞いたらおすすめだって」

「誰のおすすめですか」

「五稜郭で地元の人に話しかけられて、その時に教えてもらったよ。ふつうに良く行くって」


 女性だろうか。桜井先生、それナンパされてないですか!?


 回転寿司初心者の私は、待ちながら、お作法を学ぼうと店内を観察する。しばらくするとテーブルがけの席に通された。「じゃあ山田さんと樹神くんは奥で」と言われて、初心者ふたりはレーンの近くの席でそれぞれ向かい合い、桜井先生は樹神くんの横に座る。

 私の横を動いているベルトコンベアが見える。


「あんまり回転してない」

「はは、僕も思った」


「お昼だったらお客さんの回転率いいし、もっと流れてたかもね」

「先生、回転してるのから取ってもいいですか」

「もちろん」


 私は回転していたパックのジュースを皿ごと取った。桜井先生が笑った。


「山田さん、寿司じゃないの」

「いきなりお寿司はちょっと緊張して」

「あ、じゃあ僕も」


 樹神くんもお茶のパックを取る。


「可愛らしいなあ、酒飲みたくなっちゃう」

「なんでですか」

「いいものを見ると飲みたくなるんだよ」

「大人ってよくわからないですね」


 言葉とは裏腹に、桜井先生は大人しく温かいお茶を飲んでいた。それからタッチパネルで手早く注文を済ませて、私にパネルを渡してくる。


「桜井先生ってお酒けっこう飲むんですか」

「酒は好きだけど量は飲まないよ。勿体無いから」


 こういう言い方をする人はたぶんお酒が強いんだ。


「ハタチになったら飲み会呼んでよ」

「私は飲み会を主催するような手腕ないんで」

「僕は転校するんで」

「えーー」


 桜井先生は手帳を取り出して、紙を2枚切り取ってそこに住所と連絡先を書いた。


「俺は二人の住所聞いちゃったからさ、はい。交換ね。卒業したら遊びにおいでよ」


 そこには学校にほど近いエリアの住所が書いてあって、部屋番号が無かった。


「先生んちって戸建てなんですか」

「うん、買っちゃった。中古だけど。だから4-5年後もそこにいると思うよ」


 なんと思い切りの良い。中古とはいえ、ついこの間まで無職だった先生が、都内でそんな簡単に家を買えるものだろうか。奥さんか、親が買ったんだろうか。


「資産形成って意外とこういう思い切りの良い人が成功するんでしょうね」

「はは、何それ」


 笑った後、桜井先生は少し調子を整える。


「樹神くん、もし東京来たくなったら泊まりにおいで。連絡してよ。ゲストルームあるから。うちはよく人が泊まりにくるから気軽に声かけてよ」

「……ありがとうございます」


 そう言って樹神くんはもらった紙切れをじっと見つめていた。


 桜井先生のうちは人がよく泊まりに来るんだ。私は引越してから、誰かを家に呼んだことはない。学校の人にインターホンを押されたのは桜井先生と樹神くんがはじめてだった。

 私立だからみんな住所が離れているせいもあるけど、引っ越す前の地元の小学校のときも、誰かがうちに遊びに来ることはなかった。


「桜井先生、この電話番号でLINEできますか」

「女の子はだめ」

「えー」

「なんかあったら樹神くんに頼んで。それかふつうに電話かけて」


 樹神くんを見たら、頷いていた。ふつうに電話するのってすごく勇気いるから嫌なんだよなあ。

 

 私と樹神くんはついに流れるレーンからお寿司の皿をとった。樹神くんはマグロ、私は何かよくわからないやつ。白身魚の上に薬味のようなものが散りばめてある。


「山田さんそれ何」

「わからないけど取ってみました」

「ははは、性格出るね」


 桜井先生の頼んだお寿司)は握っていた店員さんがハイと直接渡してきてくれた。それを樹神くんと中継する。桜井先生の注文は見事にイカばっかりだった。


「俺、イカがいちばん好きなの」

「思いのほか安上がりですね?」

「こんなに美味しいのに安すぎるよね。イカが安いのは今のところよく獲れるってだけだから」


 レーンから取った魚の名前がわからないお寿司は美味しかった。答え合わせも兼ねて、私はパネルを見ながら他にもいくつかお寿司を選んだ。でも、さっき食べたのはわからなかった。本日のおすすめ的なやつだったのかなあ。

 そしてパネルを樹神くんに渡す。


「そういえばスポンサーって誰ですか」

「俺のぶんは理事長、二人のぶんはそれぞれの親御さんだよ」

「えっ!!」


 樹神くんはともかく、うちのお母さんが? 私は信じられない思いで桜井先生を見る。


「樹神くんのおうちにはご挨拶に行ったことあるけど、山田さんのお母様は初めてだったからビデオ通話で」


 大宮駅で見た、きらきらしたビジネススマイルの相手は、まさか、うちのお母さんだったの!? 


「別行動になったぶんは、俺の判断で実費請求して良いって」

「はあ……あのお母さんが……。そもそも仕事中に電話出たんですか」

「たまたまタイミング良かったんじゃない?」


 ケロッとして桜井先生は紫蘇の葉の巻かれたイカのお寿司を食べている。


 うちのお母さんは入学式を除いて一度も学校に来たことがない。そのお母さんでも、桜井先生だったら、保護者会とか授業参観に来てしまいそうだな?と私は思った。



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