42 五稜郭タワー(1)(山田さん)
市電の五稜郭駅で降りてしばらく歩く。すると前方にさほど背の高くない塔が見える。
「小さい」
「はは、意外と小さいね」
建物の中に入ると意外と近代的な今どきの造りだった。お土産屋さんもやたら広い。
展望台のチケットはもう用意があるそうで、1階の展示を少し眺めたりする。幕末は全然わからないな、と思っていると、桜井先生が生き生きし始めた。
「あ、手植えの竹だ」
ただの竹を見てはしゃいでいる。
「ここに来たことあるんですか」
「同じものが土方歳三資料館にあったんだよ。和泉守兼定見に行ったの」
「いずみ?何ですって?」
「和泉守兼定」
「へぇ行ってみたいです。場所どこですか」
「東京に多摩のほうにあるよ。いつも開館してるわけじゃないから行くときは事前に確認してね」
東京と聞いて樹神くんがちょっと考え込んでいる。
「先生、なんだかんだあちこち行ってますね」
「時間はいくらでもあったからね」
就職できるのが確実なら、ぷらぷらするのも人生楽しそうだな、なんて私は考える。樹神くんがぼんやり夢想している私の横にすっと立つ。
「僕、大学ではまた東京に戻るつもりなんだけど」
「そうなんだ」
3年半か。だなんて私は皮算用する。付き合ってすらいないのに、と自分に呆れ返る。
「山田さんは? 何か進路決めてる?」
「いやあ、まだ何も。私の場合、その前に進級できるのかも怪しくて」
「そんなこと言わないで。特進に行くんでしょ。新幹線乗るときに約束したじゃん」
そうだ、約束したんだった。ああ、修学旅行から帰ったらすぐ勉強しないと。
「山田さんは家から通うの?」
「あー……考えたことなかった。できるものなら出たいかも」
できるものなら、とは言っても首都圏の大学で1人暮らしをするのは厳しいのではないか。家を出るなら、何か大義名分が必要だ。ならば地方の国立大学が最適だろう。それほど東京から離れすぎていなくて、でも自宅から通うには始発電車では無理なところ。そして物価が安くて学費を抑えられて、学生寮があればなお嬉しい。
「イメージゼロだったんだけど、構想が湧いてきました。ありがとう」
「どんな構想?」
私は先ほど思いついた地方国立を狙いたいという目標を話した。
「えっ東京じゃないの?」
「受かれば行きたいけど、やっぱり首都圏の国公立って難しいから」
それに親と折り合いが悪くて家を出たいから、なんて本心はなんとなく言いづらかった。ああそうか、樹神くんが東京に戻るころには私はどこか別の地にいる可能性のほうが高いんだ。
生まれた気持ちが急に萎んでいくのがわかった。就職で東京に戻ってくるとしたって7年後?
延々と皮算用を続ける私に桜井先生が「上行こうか」と声をかけた。




