40 朝食ビュッフェ
◇
朝食会場で山田さんを見つけた。100人以上も似たような制服を着た人たちがいるのに、扉を開けてすぐ目に入ってくるのは笑ってしまう。僕はあの人が好きなんだ。
でも今は声はかけないでおく。まっすぐ教職員テーブルに行くと、朝から元気な人がいた。
「樹神くんおはよう!」
昨日と同じ服の桜井先生だ。
「みんなに朝帰りですか?っていじられるからどっかでTシャツくらいは買おうかな、函館ぽいやつ」
「函館、って漢字のやつですか」
「はは!いいよね、修学旅行って感じで。それかポケットにイカとかシマエナガだけ、ちょっとプリントとか刺繍してあるのないかな〜」
「それあったら僕も欲しいです」
桜井先生のトレイを見ると朝から大盛りのいくら丼だった。
「なんか夕食のテンションですね」
「俺まだ育ち盛りだから」
「塩分多くないですかそれ。成人病とか大丈夫ですか」
「やめて、ちょっと怖くなってきた」
おかわりはやめておこうかな?と桜井先生は呟く。
「人の作った料理食べれるの、どうもはしゃいじゃって。取りすぎたね」
「人の作ったって? いつも桜井先生がごはん作ってるんですか」
「そうだよ、つばめちゃんのお弁当もだよ」
桜井先生は「見て見て」と言ってスマホを取り出す。
「これ俺のインスタ」
見せてくれたアカウントにはお弁当の写真がずらりと並んでいる。
「みんなには内緒だけど、樹神くんフォローしてよ」
「僕アカウント持ってないです」
「えー残念、あれって何歳からいいんだっけ」
「たぶんもう作れるとは思いますけど」
僕はその画面を少しずつスクロールする。
「すごい凝ってますね。キャラ弁ってやつですか」
「そこまでじゃないけど。でもこんな頑張ってるのにけっこう残してくるんだよ」
「そういうとき怒ったりしないんですか」
「しないよ。怒って食べるようになるなら怒るけど。ならないから」
飄々と言う桜井先生に胸の奥がじわじわ占有される。
僕は春巻きを残したとき、ごちゃごちゃ言われたんだよな。有名な中華料理店で、お父さんから、これを食べないなんて人生損してる、みたいに言われて。本格中華だからこその、しんなりしたタケノコとか、ぶよぶよしたフカヒレなんかが僕はどうにも苦手だった。
寿司もなあ、お父さん、いちいち高級なところに連れていくんだよな。僕はずっと回転寿司に行きたかったのに。
「あ」
「どうしたの?」
「お昼ってどこでもいいんですか」
「いいよ〜」
「北海道の回転寿司に行きたいです」
「いいねえ!!」
桜井先生は前のめりに僕の提案を受け入れて、早速スマホでお店まで検索してる。
「ここか、ここか、ここかな? 五稜郭のとこは並びそうだなあ。ゆっくり戻って時間ずらして、ここがいいかな。すでに朝ごはん食べ過ぎてるし」
「へえ、こんな感じなんですね。僕、回転寿司行ったことなくて。お店選びはおまかせしてもいいですか」
「オッケー、樹神くん何時のはやぶさだっけ」
とたんに現実に引き戻される。予約してもらった時刻を伝えると、桜井先生から、
「じゃあ1時間前には函館駅に送り届けないとだね」
なんて何でもないことのように言われた。




