39 アイスキャンデー(2)
「じゃあ、ここで僕と少し話してくれる?」
頷くと「良かった」と樹神くんは嬉しそうにした。だけどその前に、私は謝らないといけない。私はぎこちなく頭を下げる。
「函館山で、ほんとすみませんでした。あんな人様のプライベートを」
「山田さんはペラペラ喋ったりしないだろうし。もう気にしないで」
「いや私の場合、喋る相手がいないというか」
「そんなこと言わないで」
なんだか眼差しが優しくて、私は頭がおかしくなってしまう。まるで樹神くんが彼氏みたいに思えた。
「明日、いっしょに五稜郭行かない?」
私は目を瞬かせる。
「明日の自由行動エリアは、元町や港のほうでしょ。五稜郭は今日、僕たちが到着する前にみんな回っちゃってるから。もし行きたいなら明日、桜井先生が連れて行ってくれるって」
「3人で?」
「そう。函館来たのに五稜郭行かないのはちょっとね、って桜井先生が他の先生にも言ってくれて。もし山田さんが行かなくても、僕1人でも行くんだけど」
またいっしょに? その申し出に心が動いたけど、失恋した相手と長時間過ごすなんて悲しみで爆発しそうだ。迷っていると樹神くんが続けた。
「僕は山田さんといっしょに行きたい」
樹神くんは私をまっすぐに見つめる。
「これ言うとずるいけど。僕、明日の午後には修学旅行を離脱するんだ。先に東京へ帰る。みんなと同じフェリーには乗らない。2組の先生が体調崩してるから、いっしょに東京まで戻ることになったよ、新幹線で」
転校の話は聞いたけれど、さすがに修学旅行は最終日まで樹神くんもいっしょだと思っていた。予想外に早いお別れにびっくりして声が掠れる。
「行く」
反射で合意していた。それを聞いて、樹神くんもほっとした表情を見せる。
「先生から修旅班には別行程になること伝えてもらうから」
「わかった」
「それと」
樹神くんは咳払いをする。
「ごめん、あれ嘘なんだ。好きな人いるとか言ったの」
「え」
「加賀谷さんにうまく言えなくて。僕にはまだ早いんだよそう言うのは」
「そうなの……?」
「諦めてもらえそうになかったから。好きじゃなくても付き合う人はいると思うけど僕は無理」
私は拍子抜けしてしまった。加賀谷さんのあんな真剣な告白に対して嘘をつくなんて!と思わないでもない。でも想いに応えられないのなら、納得できる回答をあげる、というのも優しさなのか。私は告白したことも、されたこともないからわからない。
「世間では樹神くんは加賀谷さんに振られたことになっているけど」
「世間て。でもそれでいいと僕は思ってる。山田さん……も土岐くんも事情知ってるし」
私はすうっと心が軽くなっていくのを感じた。樹神くんは誰かと付き合ったりする気は無さそうで、それは私も見込みがないということなんだけれど、誰かの特別になってしまうよりかずっと良かった。
樹神くんは片手を差し出した。握手すればいいのかな。
「てことで。明日もよろしくね」
私は差し出された手に手のひらを返す。樹神くんの手は湯たんぽみたいにあったかかった。




