34 土岐くん
ロープウェイの麓の駐車場で、桜井先生といっしょに1号車と2号車のバスを待っていた。
1号車で具合の悪くなった男子がいて、急遽2台は途中で停車したそうだ。ビュッフェだからって食べ過ぎたらしい。病気じゃなくて良かったけど、いくら食べ放題だって腹八分目にするべきだな。人のことは言えないけど。
ようやく2台がやってきた。2組は1号車と2号車に分かれていたから、山田さんはどっちかな?なんてぼんやり考えていた。
そうしたら2号車の出入り口から加賀谷さんが降りてきたから僕は気づかないふりをした。しばらくして同じ車両から山田さんが出てきた、男子と親しげに話しながら。それが土岐くんだ。
最初は警戒したけど、桜井先生とのやりとりを見る限り、土岐くんはそんなに悪い人じゃなさそうだった。
ロープウェイの乗車列に並んでる時、ちょっとお土産を見たいけど、ホテルに財布忘れて手持ちがないからお金貸してと土岐くんに言われた。お金の貸し借りはダメだから桜井先生には内緒で、と。それで二人でトイレとか言って、いっしょに自販機コーナーに行った。
展望台の入り口では、お土産が自動販売機で売られている。僕もショーケースのお土産を眺める。シマエナガの何に使うかよくわからないマスコットがあって、でも見ているうちになんか可愛いなと思って僕はそれを自動販売機で買った。対面だとちょっと可愛すぎて買いづらいから自販機で売っていて良かった。それを僕はもう一つ買う。
土岐くんに「決まった?」と聞いてお金を貸そうとしたら「ごめん口実」と言われた。
「加賀谷のこと、きれいに断れた?」
土岐くんの言葉に僕は固まった。
「仲良い女子が教えてくれたけど、2組の女、なんか変な空気だって。山田さん潰しにくるかも。それとあの二人、バス隣の席だよ」
僕は喉がカラカラになる。土岐くんは、僕が山田さんを好きなこともクラスの状況も全部お見通しだった。
「でも山田さんのためにとりあえず場を収めようとかで加賀谷と付き合うのはやめてね、そういうの女子は敏感だよ、火に油だよ、あ、火に油って慣用句知ってる?」
「慣用句は知ってる」
すごいな!って土岐くんが僕を褒める。この人、ほんとに入試受けているのかな。
「どうしよう。どうしたらいいか、わからない」
「とにかく加賀谷に誠実に謝り倒して。でも絶対、付き合うとかは言わないで。希望を見せないで。友達になろう、もダメ。どうせ接点ないんでしょ?」
僕は深く頷いた。
「あの、もし、好きな人誰?とか聞かれたらどうすれば」
「言わない言わない、そんなのわざわざ。名前向こうが出してきても認めなくていいから。謝る時間はその女子のためだけに使って」
僕はさらに深く頷いた。
「土岐くんは加賀谷さんのことが好きなの?」
「え、なんで加賀谷? 全然だけど? この流れでどうしてそうなるの?」
土岐くんはきょとんとしている。
「だってこの件、こんなに親身になってくれるから」
「樹神くんって勉強はできるのに恋愛音痴だね」
「えー……」
「ははは、ごめんごめん」
土岐くんは僕の肩に手を回す。
「でもさ、告白だって一種の暴力だよね。モテる俺ら、つらいよね」
僕は土岐くんに肩をポンポンされた、まるで桜井先生みたいに。それはちょっと嬉しかった。
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