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33/51

33 展望台


 山頂に到着すると、樹神(こだま)くんは自クラスの集団を探しに行くといって、離れて行った。土岐(とき)くんは桜井先生に子犬のようにまとわりついている。

 函館山は小ぢんまりした山だ。山頂についてからロープウェイ下山までは各自で自由にして良かったから、私はふわっと桜井先生たちから離れようとした。すると目ざとく見つけた土岐くんがこちらへ駆け寄ってくる。


「あ。山田さん、帰り1号車だから。二人きりじゃなくて奈須野(なすの)も呼ぶから。よろしくね」

「え、なんでですか」

「桜井先生もそれでいいって。俺たちが山田さんに反省会するから」

「そういうの要らないんですけど」

「いいから、いいから」


 そう伝えると、土岐くんはまた桜井先生を独り占めしに走って戻った。土岐くんがいない間に桜井先生のそばに寄ってきた女子を蹴散らしている。


 反省会って。そういう反省会には被害者と加害者を同席させないのがセオリーなのに。桜井先生の考えていることがわからない。


 夜景はロープウェイから樹神くんと見れたし、そもそもスマホは回収、学タブ(学校タブレット)もホテルに置いてこいと言われて、写真も撮れない。学タブくらいは良さそうなものだけど、過去に修旅中、タブレットを紛失した先輩がいたからダメらしい。

 画面を見ないで景色を心に刻もう、なんていうけど、せっかく函館山まできて写真が撮れないんじゃ張り合いがない。

 私はロープウェイの建物から出ず、お土産屋さんを見て回る。まだ集合まで時間があるから学校の子は見当たらず気兼ねもない。

 シマエナガグッズのコーナーで足を止める。この鳥が人気あるのは知っていたけどそんなに可愛いか?と思ってあれこれ手にとっていたら、全部カゴに入れていた。ホテルの売店にあるかもしれないけど、無かったら困るからここで買ってしまおう。


 レジの近くにインスタントカメラがあった。レンズ付きフィルムというやつである。カメラ機能のみであればデジカメなんかを修旅に持ってくるのは許可されていた。でも私は修旅で写真を撮りたい場面が出てくるとは思わず、用意をしていなかった。

 わざわざ旅先でこれを買うなんて、お小遣いの使い道としては無計画だけれど、私は今、撮りたいものができていた。函館山の夜景もそうだし、それからもしチャンスがあれば、樹神くんの写真がほしい。

 函館ライナーでいっしょに撮って1枚もらった。でも他の写真を樹神くんは消してしまった。消したやつも欲しかったな。デジタル写真はそういうところが無情である。

 その点、レンズ付きフィルムは現像するまでどんな写真かわからない。ピンボケでも手ブレでも、ぜんぶ手元に残すことができる、なにか特別に言い訳をしなくても。

 私は結局、インスタントカメラも買い物かごにそっと入れて、売店のレジまで進んだ。

 

 ずっと展望台の屋内で適当に時間をやり過ごそうと思っていたけど、夜景を撮りに外に出た。寒い。

 あたりはもう真っ暗で、展望デッキのふちに人が群がっている。そして帰りのロープウェイを順番待ちする列には、くねくねと人が並んでいる。今は40分待ちらしい。


 いちばんてっぺんまで登ってカメラを構える。夜景でブレそうだから手すりに手を添えてシャッターを押す。残りはあと26枚だ。

 人がひときわ群がっているポイントが下の段にあった。あそこがいちばん綺麗に撮れるのだろうか。もっと人の少ない良い撮影場所はないかとキョロキョロしていたときに見つけた。樹神くんだ。

 ここから撮ったら豆粒くらいなのに、私は無意識にシャッターを押した。盗撮してしまった。それから樹神くんの様子を見つめる。樹神くんは1人でデッキのふちまで行って同じ学校の女子に話しかけた。それから二人揃って、人気(ひとけ)のない場所に向かって歩いていく。身体中の血がざわざわした。


 特進選抜の子だろうか。目を凝らす。「あ」と思った。長い髪の女の子は、2組の、同じ班の子だった。


『加賀谷(かがや)さんって仲良い?』


 樹神くんの言葉が今ごろになって鮮やかに蘇る。地震なんて起こってないのに体感震度2で足元が揺れてぐらぐらする。


 急いだほうがいいよ、という土岐くんの言葉がもう一度、ぐるぐると頭の中を駆け巡った。さっきのロープウェイは絶好のチャンスだったのではないか。

 でもさっき声をかけていたのは樹神くんのほうだった。樹神くんの好きな人は加賀谷さん?

 だったら、いつ言ったとして私の玉砕は確定だったのではないか。


 いても立ってもいられず、最低なことだと自覚しながら、私は樹神くんたちの消えたあたりに向かった。




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