32 回想 別館
加賀谷さんに告白されてしまった。
ずっと、どうやって山田さんに告白するかを考えていたから気を抜いていた。
夕食のあと、考えごとをしながら歩いていたら、いつの間にか宿泊棟とは別の建物に入っていた。しまったと思い踵を返したら、そこになんと加賀谷さんが立っていた。もしかして尾行けられていた?
加賀谷さんのフルネームもその日はじめて知った。いや同学年の名前はなんとなく学年名簿で把握してるけど、名前と顔が一致しなかった。その程度の認識だった。
函館山に行く前で、まだ僕たちは制服だから、周囲に学校の人は誰もいないことがわかる。知らない宿泊客が、制服姿の僕たちの横を通り過ぎる。「告白じゃない?」「かわいいわね」なんて、くすくす笑いながら。煽らないで欲しいと僕は青ざめる。
女子と二人きりになったらすぐにその場を逃げないといけなかった、いつもみたいに。ものすごく不遜だと思うけれど「言わせない」というのが僕の方針だった。家庭環境が悪すぎて、女の子は苦手だった。
だけど、今日の僕は山田さんに調子を狂わされていた。もし僕が山田さんに告白すらさせてもらえなかったとしたら。なんて自分の身に置き替えて、可哀想に思ってしまい躊躇した。そういう中途半端な思いやりが失敗のもとだった。
「あの、樹神くん、2組の加賀谷響子です」
よりによって2組の女子だ。不自然でもなんでもいいから走って逃げれば良かった。いやまだ告白とは決まっていない。
「こんばんは」
同級生に、こんばんは、なんて僕もセンスがなさ過ぎる。
「こんばんは」
相手からも挨拶を返される。それから沈黙が続く。加賀谷さんはその後の言葉が出てこない。僕は脂汗が出てくる。
「ごめんなさい、急ぐので」
そう言って加賀谷さんとは反対の、おそらくは宴会場のある謎のフロアに向かって一歩踏み出した。そのとき。
「樹神くん、好きです」
言われてしまった。中学で、はじめて告白された。僕は聞こえなかったふりをして数歩進んでから、立ち止まる。いや、さすがにここから逃げるのは鬼すぎる。僕は体の向きを変え、加賀谷さんのほうに歩み寄る。
「ごめん、びっくりして」
加賀谷さんは今にも消え入りそうだった。
「ありがとう」
期待させないように、でも失礼にならないように。
ふだんやりとりがあれば、私のことどう思ってる?みたいなこと聞かれたりするのだけど。小学校の時はそうだった。しかし今は、どう思うも何も初対面みたいなものだった。僕は加賀谷さんのことがわからない。何か交流あったっけ。
それに付き合ってくださいとも言われていないのに、ごめんなさい、と断るのも変だった。
加賀谷さんは少し俯いたまま、何も言わない。僕はそれに焦れて、最低なことを言ってしまった。
「あの、もういいかな?」
たぶん僕の立ち回りの悪さが、加賀谷さんの、というか女子の恨みを練り上げた。




