3 自宅
インターホンのビデオ越しに、年齢不詳の男性と制服男子がこちらを見ている。
男性は初めて見る顔だが、切れ長の目で人気俳優に似たイケメンだった。あんな先生がいれば、学年団違いでも覚えていそうなものだが記憶にない。
その隣は生徒会長の樹神くんだ。学校内で、樹神くんへの周囲の信頼は絶大だ。聡明な彼が闇に引っかかるとは思えない。じゃあ隣の人は本当に先生?
オートロックのマンションの、無機質なエントランスを背景に、ビデオに映るイケメン男性がにこやかに笑っている。
『おはようございます。西中学校の桜井です。集会でのご挨拶はまだですが、夏休み明けから勤務しています』
『あ、僕は直接、校長から紹介されました』
私の不安を取り払うように樹神くんが援護した。私は一人で、先生を疑って、あれこれ妄想していたことに恥ずかしくなる。
「す、すみません。今、下に降ります」
『待ってまーす』
いろんな謝罪を込めたすみませんだったが、桜井先生は軽い感じで返してきた。
学校の先生がわざわざ家に来たからというより、それがちょっとかっこいい人だったから、という理由で、私はいそいそと部屋に鍵をかけてエレベーターを下りた。
エレベーターの箱の中で鏡を見る。10分で支度したから、髪も完璧ではない。メイクも。日焼け止め兼用下地くらいならと塗っておいたが、目元もちゃんとしたかった。アイメイクは見つかりやすいから眉だけブラシとパウダーで自然な感じに整える。
あーあ、先生がイケメンだとわかっていたら、もっと早くから準備したのに。
と言っても。先生とどうにかなりたい訳じゃない。今はただ養分が欲しかった。このつまらない毎日に潤いが。
「お待たせしました」
オートロックのガラスドアが開くと、前髪をいじりながら、私は二人にぺこりとお辞儀をする。こういう仕草、嫌われるんだろうけどついやってしまう。
桜井先生は微笑んで軽く頭を下げる。
「説明したいこともありますが、まずは車に乗ってください」
「ハイ」
私は素直に返事をする。私の変わり身の早さを笑うことなく、桜井先生は私の旅行用キャスターを引き受け、路駐した車のトランクにそれを丁寧に積む。くせ髪で無造作にシャツを羽織り、一見だらしなさそうに見える風貌なのに、桜井先生は意外にもテキパキと動き、後方から車が来ていないのを確かめると運転席に乗り込んだ。
運転席のドアが閉まった瞬間、樹神くんが口を開いた。
「先生、結婚してるよ?」
ふいに樹神くんに忠告され、自分が桜井先生の姿を熱を込めて目で追っていたことに気がつく。本人より先に勘づくとは、さすが樹神くんである。
「全然そういうのじゃないから」
そう言いながら、なーんだ結婚してるのか、まあしてるよなあ、などと私は心の中で思った。




