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28 夕食ビュッフェ(3)


 僕は体調不良という体(てい)になって、班の部屋ではなく個室をあてがわれた。同じ班の人たちにはお詫びをして、夕食も先生たちのテーブルで食べることになった。


 今日のホテルは宴会場でビュッフェスタイルの夕食だ。僕は昼間のわんこそばが効いてるのか、あまりお腹が空いていなかった。それもあって周りから心配された。

 食欲がないのではなくて、わんこそばを124杯食べたせいなのだけれど、都合がいいので黙っておいた。


 体調不良と伝えていない同じ班の人以外は、何か先生たちと打ち合わせがあるのかな?という感じで、僕が教職員テーブルにいても特に気にしていなかった。


 ビュッフェは混雑緩和のため、クラスや班ごとに開始時間をずらされている。前半の2組はもうどの班も会場に呼ばれているはずなんだけど。山田さんはいない。


 入り口をぼんやり見ていると、山田さんが1人で入ってきた。山田さんが向かったテーブルを見ると、他の女子はすでに食べ始めていた。というかだいぶ食べ終わっていて、デザートなんかを取りに行っている。山田さんはカードキーを班の1人に渡すとテーブルを離れた。僕は席を立ち上がる。


「山田さん」


 僕がビュッフェのスタート位置で声をかけると、山田さんが僕を見て後ずさりした。仲良くなったと思ったのに、もう0地点に戻っちゃってる!?

 山田さんは少しメイクや髪を整えている。どっちも好きだなと思った。朝は心の中で化粧に文句言っていたのに。

 たぶん僕がメイクありなし両方の山田さんを知っている、というのがポイントなんだ。僕はメイクを落とした後の山田さんも、泣いて目が腫れた山田さんも知っている。まあ、それは桜井先生もなんだけど。


「樹神(こだま)くんもこれから?」

「うん」


 僕は息を吐くように嘘をついた。先生たちのテーブルでは飲み物しか取っていなかったから、完全な嘘ではない。


 ちらと山田さんの班のテーブルを見るともう誰もいなかった。ホール係の人がどんどんお皿を下げている。

 山田さんはビュッフェのおかずをひとくちずつ、マメに取っていく。


「なんかこういうの全部食べたくて」


 全部食べたいんだ、可愛い。


「山田さん、好き嫌いとかあるの?」

「ないね。なんでも食べれる」


 なんでも食べれるんだ、すごい。


「樹神くんは?」

「嫌いなものあるけど、好き嫌いない人に言うの恥ずかしい」

「なに? そう言われると逆に気になる」


 僕はビュッフェのレーンにある、次のおかずを飛ばした。山田さんは僕をしっかりと観察する。


「春巻き?」

「そう正解」

「なんで」

「小さいころ食べたとき、食感が予想と違ったから。中がぐにゃっとしてるのが苦手で」


 外はパリッとしてるのに、中がぐにゃっと柔らかいのがダメだった。まだ完成していない料理のような感じがして。


「私、家でよく春巻き作るんだけど」

「え、それは食べたい」


 言ってから、しまったと思った。僕は何を言ってるんだろう。引かれるかと思ったら、山田さんは真剣だった。


「ひき肉やめて、根菜とチーズとか、それか先に鶏コマ揚げてから入れれば、ぐにゃっと感じないかも」

「へぇ」

「ぐにゃっとしない春巻きかあ、いいお題をいただきました」


 山田さんはメモしたいのにスマホがないと嘆いてる。合流してからは僕たちもスマホは先生預かりだった。

 山田さんは料理するんだ。桜井先生も家事をやってるって話だったから料理できそうだし、二人は話が合ってしまうかもしれない。

 僕といえば生まれてこの方、キッチンに立つという経験が無かった。僕も料理始めよう。


「北海道ってなんでも美味しそうだよね」

「うん、外れなしって感じ」


 山田さんは本当に一品ずつ取りに行ったからお皿に載せきれなくなったらしい。いったんテーブルに戻ろうとするが、くるりと振り返って、固まっている。山田さんがさっきいたテーブルを見ると、そこは綺麗に片付けられていて、すでに3組だか4組のグループが座っていた。


「山田さん、こっち。僕も次のグループ来ちゃったからこっちで食べてる」


 さもそういうシステムかのように言うと、山田さんは大人しく僕についてきた。僕がいたテーブルにはもう先生たちはいなかった。僕は山田さんから見えないように気をつけて、テーブルの上に置いてあった「教職員様」と書かれた逆T字プレートを倒して伏せる。


「食べ始めるのが遅かったの?」

「食欲が出てくるのが遅かった。みんなには言えないけど、わんこそばで」

「あーー」


 山田さんは最初、僕の向かいに座ろうとしたが、他にも誰か来るかな?と言って僕の隣に座った。


「あっ」


 食べようとして山田さんはまた、なんか固まってる。


「どうしたの」

「ここでいっしょに食べてたら変に思われない?」

「そうかな」

「移動してたときと同じ感覚で来ちゃったんだけど。やっぱり別のとこで食べるね」

「山田さん」


 僕は立ち上がった山田さんの手のひらを掴んだ。


「誰かに何か言われたの?」


 山田さんの目が泳いでいる。言われたんだ。


「いいよ、言わせておけば」

「でも、樹神くんに変な噂が立ったら」


 変な噂? そんなものはこの後にいくらでも。


「まあ、座って。それから、何か言ってきた人と、言われた内容全部ここで言って」

「えっ!!」


 山田さんは「それだけは勘弁してください、このテーブルに残るんで」と言って頭を下げた。




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