25 ホテルのロビー
ホテル館内を通ってロビーのあたりまで来ると、選抜クラスの担任がやってきて、緊張の面持ちで樹神くんといくつか言葉を交わし、樹神くんを連れて行ってしまった。
「夕食のときに声かけるね」
振り返って、彼はひらひら手を振りながらそう言って、担任といっしょにエレベーターに乗って行った。
いつの間にか、後ろにスッと桜井先生が立っている。
「私たちはフロントに寄って、手続きをします。そしたら班の部屋まで送りますね」
「私たち」
「はい、こう見えて私も教員なので」
桜井先生が澄ましていうので、ちょっと笑える。桜井先生は、俺、を封印している。
「桜井先生も泊まるんですか」
「さしあたり今日は宿泊することになりました」
「つばめちゃん怒ります?」
動画でブチ切れていたつばめちゃんを思い出した。
「あー……怒りそうですね。夜いないのは初めてなので」
「先生、私のせいで、ごめんなさい」
「いえ、実をいうと私も今朝は遅刻したんで」
桜井先生はウインクをした。桜井先生ウインク多くない!? 昼もしてたよね!? そしてそんなキザな動作が様になってしまうのがすごい。
「そうなんですか」
「東京駅のヘルプ要員だったんですけど。間に合わないので学校で樹神くんの授業を頼まれて」
「なるほど」
「そこからまた連絡がきて、点呼にいない山田さんの安否確認に行くように頼まれて」
「安否確認」
そりゃそうだよね。思ったより大事になっていたんだ。
「樹神くん、一人だけ教室に置いてきずらいので連れてきちゃいました」
ナイス!グッジョブ!桜井先生!
「連れてきて良かったですよね」
「私もそう思います」
ちょうどロビーで順番がきたら、そこへ旅行会社の担当者が二人来た。男の人と女の人。桜井先生と挨拶をしている。
「女生徒さんは私がお連れしますね」
と言われて、私は旅行社のお姉さんに連れられていく。するとロビーを出たところの廊下で声をかけられた。
「山田さん」
同じクラスの横町さんだった。
「私たち、同じクラスで班部屋も隣だから、私たちが案内しますよ?」
「そうですか。ではお願いします」
旅行社のお姉さんはあっさり私を引き渡して、またロビーに戻っていく。お姉さんが遠ざかると横町さんが興奮して話しかけてきた。
「ねぇさっき山田さんといっしょにいたのって添乗員さん?どのバス?何号車?」
「ええと、今のお姉さんは私もロビーで会ったばかりで」
「違う違う、イケメンのほう! けっこう喋ってたじゃない」
「あー……」
私が勝手に言っちゃっていいのだろうか。と迷いが出ていると、そこへ横町さんの友だちが駆け寄ってきた。
「よこまち、わかったよ! 先生だって!」
「え、うちの学校の?」
「しかも2組の副担任だって」
「「えっ!」」
桜井先生がうちのクラスの副担任? 正式に決定したの?
「なんだ、山田さんも知らなかったんだ」
「喋りに行こうよ、よこまち」
「行く行く、山田さん、部屋は右のエレベーターで3階だから」
そう言って雑に案内を終えると、横町さんたちはバタバタとロビーのほうへ消えてった。
登場人物メモ
◇
つばめちゃん つばめ
横町さん こまち
土岐くん とき




